IT業界においてエンジニアの能力やスキルを評価する方法は難しい。今回は、IT技術者にまつわる法則を取り上げる。
IT技術者を採用するときや業務を委託するときには、彼らの知識やスキルを評価する必要がある。ところが、それはなかなか難しい。
研究所員が研究者とは限らない(名刺の誇大表示)
ITベンダの名刺には、「コンサルタント」「プロジェクトマネージャ」などカタカナの肩書きが多い。ITSS(ITスキル標準)では、コンサルタントはレベル4、プロジェクトマネージャはレベル3以上だけにしか定義されない。「日経ITプロフェッショナル」(現・日経SYSTEMS)2005年10月号によると、コンサルタントと自称する人のうち、53%がレベル3以下、プロジェクトマネージャは30%がレベル2以下だという。
このような誇大表示は、昔から行われていた。1980年代の求人広告には「求むSE。経験不問」とあった。
システムが大規模になると、それに従事する者の仕事は局所的になる(経歴書の誇大表示)
経歴書に、ベンダ企業で「大企業でのERPパッケージ開発に従事した」とあるのは、会計システムの入力画面設計をしたということである。ユーザー企業で「システム開発の統括をした」とあれば、導入時に見積書の整理をしたか、ベンダと会食をしたかのいずれかであり、実際の開発業務の経験はないということである。
「Excelに精通している」というのは、グラフが描けることであり、ソルバー(solver)やゴールシーキング(Goal-Seeking)が使えるということではない。
資格や標準スキルは、それ以外に能力がないことの証である
このような誇大表示を避けるために資格や標準スキルがある。医師や弁護士の資格とは異なり、IT関連の資格は業務を行うために必要ではない。資格を取るのは、実際の能力以上のレッテルが必要な場合に限られる。ITSSで「スーパーハイレベル」の能力を持つ技術者は、そのような認定を得たいとは思わないし、若いときに取得したミドルレベルの資格を経歴書に表記するのをためらう。
経歴書での資格やスキルの記述は、その資格以外の知識がないこと、スキルに限界があることを示し、それ以上の期待を持たせないようにするためなのである。
小学生に大学生の能力を評価させるのは不適切である
ユーザー企業でのIT技術者の評価はさらに不明確である。CIO(最高情報責任者)どころかIT部長すらITに対して素人な人間が多いので、部下の評価を適切に行えない。「技術力が高い」と思っていても、どの程度のレベルなのか分からない。資格取得などを物差しにするが、それがハイレベル技術者に適用できないのは上述の通りである。
また、「大きな仕事を成し遂げた」といっても、それはチームの成果であり、個人の成果を特定するのは難しい。「トラブルを解決した」ことを評価するのは不適切である。真の名選手は事前対応が適切なので、素人が見せる(一見すると)ファインプレーのようなギリギリの仕事はしないのだ。
IT資格を取るとIT以外の能力はないと評価される
高度な資格取得者はITの専門家だと評価されるが、一般的に「ITの専門家はIT以外の分野は無知だ」ということになっている。そのため、総合職から外され、昇進の道を閉ざされ、CIOにもなれない。さらには「キミは立派な資格を持っているのだから、それでやっていけるだろう」と言われて、肩たたきの対象になりかねない。
ユーザー企業においてIT資格を取得する唯一の利点は、ほかの部門に異動させられて、慣れない職場で無能呼ばわりされるリスクを回避できることである。
▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)
東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している
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