経営者にITの費用対効果を説明し、理解してもらうのは難しい。今回は、ITの費用対効果に関する法則を紹介する。
多くのIT部門が、経営者にIT投資の費用や効果を示すのに苦労している。次の事項を適切に説明できれば、IT部門への大きな福音になるのだが。
パソコンのリプレイスの必要性を納得させるのは困難だ
古いパソコンを使っていても、販売システムが動かなくなるわけではない。
Windows Vistaにバージョンアップして画面が半透明になってももうかるわけではない。メーカーが古いOSをサポートしなくなったとしても、これまでも受ける側がサポートを受けていなかったのだから、状況が変わるわけでもあるまい。
ハードは限界以上の稼働をしてもソフトに助けられる。しかし、そのツケは数倍になって戻ってくる
「データ量が増えて、ハードが限界になってきました。期末処理がパンクしそうです。早急に増強してください」といっても、IT部門からの要請に慣れている経営者は無視する。それでも、請求書が発行されなかったとか、決算ができなかった例はない。
それは、ベテラン技術者が、データベースの正規化やプログラムの構造化などを壊すことにより、数倍のデータ処理ができるようにするからである。そうすると、「乗り切れたね。キミたちの能力を信じていたよ」と経営者にいわれるが、それが2000年や2007年に大問題になった元凶であることを彼らは理解していない。
なぜ複数の見本から選ぶことができないのか
ハードですら分かりにくいのだから、ソフトウェアのシステム開発が分かりくいのは当然だ。
自動車には多くの車種があるし、家でも予算に応じて幾つかの代替案を作るのが常識だ。それなのに、システム開発では1つの案だけを示して決断を迫ってくる。これでは返答のしようもない。
自動車を買うときには、現物があるし試乗もできる。家を新築するときには見取り図があるし、気の利いた工務店なら模型や3D画面を見せてくれる。それなのに、システム開発では、当初の企画書では見本がない。それを見せろというと、そのための作業をするのにかなりの費用と時間がかかるという。
システム開発費用を理解できないのは、LOC法でもFPでも同じだ
「このシステムに○○人月掛かる」といわれても、どうしてそれだけの工数になるのか分からない。プログラム全体で○○ステップになるといわれても、どうしてそれだけのステップ数になるのか分からない。
FPが○○個になるといっても、1ポイント当たりの価格が妥当かどうかが分からない。FPの数を半分にすれば費用も半分になるのかと聞けば、データベースに関連したものが多いので大して費用は下がらないという。それならばデータベースをやめてしまえといえば、それにはシステム全体を再検討する必要があるという。
最も理解しやすいのは、過去例による類推法であるが、その過去例が適切だったのかどうかも分からない。
具体例を示すと、ITの効果は見えなくなる
情報の共有化を図るためにグループウェアの導入を提案したとする。
ところが「誰と誰が何の情報を共有化するのか」といわれてもとっさに出てこない。「営業部が得た顧客のニーズを生産部と共有する」といえば、電話やFAXでもできるし、営業部と生産部の机を並べればよいといわれれば、グループウェアを導入する必要はなくなる。
さらに「どのような顧客のニーズがあるのか」と聞かれて、「○○得意先が△△製品の□□改良を希望している」といえば、「私から生産部長にいっておく」で解決してしまう。このような具体例を数十?数百列挙しても、それぞれの対応方法があり、グループウェア導入の必然性は消えてしまう。
あなたの常識は私の非常識
IT業界の慣例は、日本的な慣例になじんできた経営者には受け入れがたいことが多い。「IT部門がベンダのいいなりになっているのではないか?」という疑問が残るからだ。
▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)
東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している
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