最近、よく耳にする仮想化技術は、レガシー時代から用いられていた技術だ。また、サーバを統合したり、分散処理したり……といったことも、これまで何度も繰り返されている。今回は「古くて新しい話題」の法則を取り上げる。
「温故知新」「不易流行」という。若いIT技術者は、ベテランの昔話を傾聴することが重要なのである。
ディスプレイから離れて、飲み屋に行こう
1周遅れのランナーは、トップを走っているように見える(途中でゴールが引かれれば、実際にトップになることもある)
メインフレームよ、さようなら。これからは、オープン系で分散処理です。管理費が高くつきますね。
回線も安く高速になったことだから、利用部門にサーバを分散配置するよりも、集中した方が管理が容易です。サーバだらけになりましたね。これでは場所をとりますから、1台の装置にまとめましょう……。
あれ? これはいつかやっていた方式ですね。
セキュリティが心配です。クライアントに記憶装置があったり、アプリケーションを載せたりするからいけないのです。それらを全部はがして、サーバで処理するようにしましょう。……昔の端末を捨てなければよかった。
サーバがネックになっています。一時的に余裕のあるサーバを利用できないでしょうか? それこそ当社が誇る仮想化技術です。当社のサーバで統一すれば、そのような無駄がなくなりますよ。……なんだ。レガシー時代では当然のことだったのに。
エクストリーム・プログラミング(XP)は素晴らしいですよ。
数人のプログラマとユーザーが短期間で開発する範囲や仕様を決めて、テストしながら逐次開発していくんです。ソフトウェア工場のような没人間的なやり方ではないので、プログラミングが楽しいですよ。……古希を過ぎたOB、「オレがプログラムをやっていたときもそうだったよ。当時から進歩がないなぁ」。
混一色よりも清一色の方が良いに決まっている
レガシー時代はメインフレームメーカー、一辺倒であった。
オープン時代ではマルチベンダ化が礼賛され、多様なOSやミドルウェアが乱立した。個々のシステムを異なるベンダに発注したので、社内標準が崩壊した。その後、インテグレータとかアウトソーシングにより、ユニベンダ化が進んだ。
用語を変えればニーズが生じる
1960年代?1970年代には、意思決定支援のために線形計画法(リニア・プログラミング)、PERT(Program Evaluation and Review Technique)、シミュレーションなどのOR(Operations Research)技法が花盛りであった。1980年代になるとコンピュータによる省脳化により消え去ってしまったが、1990年代になるとデータマイニングとして息を吹き返した。
もっとも、ORとデータマイニングの間には大きな違いがある。前者ではコンピュータ負荷を低減するためにサンプリングが重視されたのに対して、後者では全データを対象にする。
そのため、パソコンでもできることに並列プロセッサを用いるようになった。データクリーニングをせずに玉石混交のデータを用いるので、ノイズが混入し、グラフ化しないと全体傾向がつかめなくなった。それで、マイニングツールは分析技法ではなく、グラフの3D技術を売り物にしている。
そもそも変化していない「古くて新しい問題」もある。不易を認識する能力が必要である。
IT投資はもうかるのか?
これは、現在でも経営者の最大の関心事の1つである。
そして、「ITに投資したらもうかるのではない。業務や組織の見直しが必要である」ことは当然だが、そのようなことは1960年代にもいわれていた。当時、「コンピュータを入れる。見直しをせよ」といって、業務の標準化や改革を行い、それが済んだら「コンピュータは高いのでやめた」というのが、最も効果的な方法だといわれたものである。
これは、現在でも有効な方法ではないだろうか?
評価基準がなければ、もうかっているか損をしているかは分からない。半世紀もたっているのに、その基準を確立している企業が少ないのも、古くて新しい問題である。
ウチの経営者はITが分かっていない
ほとんどのIT部門はこのような愚痴をこぼす。
一方、ITの教科書では「経営者の思いを成就することが、ITの目的である」と一貫して書かれている。IT関連の識者が現場を知らないことは、昔もいまも変わらない。
経営者に変化があるとすれば、「パソコンが使える」や「SaaSという用語を知っている(間違った理解だが)」ことで、ITを理解していると自任する経営者が増えた程度である。
IT部門はいかにあるべきか?
昔から、IT部門は企業戦略に密着した戦略部門である(あるべきだ)といわれてきた。それならば、自社の最高機密を持っているので、その組織の存在、部門要員の氏名すら秘密にすべきであろう。
ところが、自部門の在り方について、部外者の講演を聞いたり、他社の同業者と話し合う研修会に参加したりするのに熱心である(営業部門や生産部門が、このような行動をすることはまれである)。
▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)
東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している
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