システム開発の可視化で何が見える?情マネ流マーフィーの法則(3)

今回は、システム開発における“可視化”についての法則を紹介する。

» 2006年11月09日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

 昔は文書化、いまは可視化(見える化)というが、その重要性は綿々といわれてきた。ところが、なかなかうまくいかないものだ。

“システム開発の可視化”って何を見えるようにすること?

情マネ流マーフィーの法則その9

すべての文書化は本番移行後に作成される


 教科書では、外部仕様書、内部仕様書、操作仕様書などの文書の確認を得てから次のステップに進むことになっているが、実際には本番移行完了以降で作られる(もし、作られるとしたらであるが)。

 しかも、その順序は逆で、操作仕様書、内部仕様書、外部仕様書の順に作成される。

 なぜなら、まず利用者に使わせるには操作仕様書が必要である。そして、操作をすると、新しいニーズが起こる。それが可能かどうかを内部仕様書でチェックする。その後、明確になった外部仕様書を作成する。こうすれば「手戻りが発生しない」というのが、その最たる理由だ。

情マネ流マーフィーの法則その10

ソースプログラムこそ真実を示す唯一の文書


 「ドキュメントはありますよ。ただし5年前のものですがね」

 同じ名称の文書が5つもあったなどというのは、そうまれなことではない。

 そのうちの3つには「最終版」と書いてある。仕方がないので、ソースプログラムを調べようとするのだが、ロードプログラムは存在するがソースプログラムはどこにあるか分からない。見つかったにせよ、バージョンが正しいかどうか分からない……。

 西暦2000年問題のときは大変でしたねえ。内部統制でも?

情マネ流マーフィーの法則その11

文書化するな。リバースエンジニアリングツールを使え


 合理性を重視する組織では一切の文書を保持しない。

 必要に応じてリバースツールにより、現行プログラムからUMLを出力して内部仕様書だとする。オブジェクト名などを日本語(業務用語)に変換するために用語対応表により変換したものを外部仕様書だとすればよい。それが文書として適切かどうかを気にすることはない。どうせ、「文書がある」ことだけで満足するのだから。

情マネ流マーフィーの法則その12

図表化しやすいものだけが現実である


情マネ流マーフィーの法則その13

例外無視の原則


 実際の業務は複雑系だから、DFD(Data Flow Diagram:データフロー図)を描いたら縦横無尽な線が必要になる。そこで、作図者が重要だと思う線だけにする。しかし、実際には消した線で業務が動いているかもしれない。

 DMM(Diamond Mandala Matrix:機能構成図)では8つのサブ業務を列挙するが、そのうち、計画とモニタリングは固定されているので、6つのサブ業務を列挙することになる。7つあれば、1つは存在しないことにする。5つしかないときは、サブ業務をデッチ上げる。

 CRUD(Create、Read、Update、Delete)では、縦にエンティティやイベント、横にファンクションを取った2次元表にする。イベント独特のファンクションがあったり、ファンクションが少ないイベントがあったりすると、表が巨大になり空白の要素が多くなる。それを避けるために、そのような例外は存在しないことにすればよい。

 情報システム機能構成図では、システムごとに機能を記入するが、あるシステムでの機能が多いと所定の枠内に書き切れない。それで「など」と記述するが、その「など」の項目を参照されることはない。例外項目は別紙にすることになるが、その別紙は決して人の目に触れることはない。

情マネ流マーフィーの法則その14

「見える」のためには見る人の目が必要である


情マネ流マーフィーの法則その15

三角図法では素人は分からない。見取り図では制作できない


 可視化は関係者の理解を得るためにあるが、理解させたい相手(経営者など)は、このような判じ絵のようなものを見ようとはしない。分かりやすくするためには、厳密性を欠くことになる。厳密性を欠いた文書では、システム設計ができない。

 それで、複数の図表を作る必要が生じる。ステークホルダーが多様になるに伴い、多数の図表が求められるようになる。当然、それらの図表間には矛盾がある。それで、経営者が壁に飾られた図表(黄ばんでいる)をうっとりと眺めているときに、それとは無関係の業務や情報システムが動いているのである。

情マネ流マーフィーの法則その16

人間は左右同時には見えない


 これらの図表は、全体をある視点で切り取ったものであり、象の一部をある角度から見ているだけである。例えばDFDでは、物理モデルと論理モデルを別のDFDにする必要があるし、コントロールやタイミングを記述できない。それで、全体を理解するには、多数の図表を関連付けて理解しなければならない。それができるのは、よほどの専門家か暇人に限られる。

 図表間の整合性を管理するためのツールもあるが、そのようなツールを使うと、上述の「例外無視の原則」はますます強固になる。

情マネ流マーフィーの法則その17

可視化は関係者すべての満足につながる


 では、どうして可視化が重要視されるのか?

 IT部門は、図表を作成したことで、仕事をしているように見せ掛けることができるし、経営者の理解が得られているという免罪符を得ることができる。経営者は、自分が理解できないにせよ、ITガバナンスが確立していることを内外に示すことができる。監査法人やコンサルタントは、図表の枚数により収入を得ることができる。可視化が困難なほど、ツールメーカーの利益になる。

 そのうちに、可視化基準がISO化され、「可視化適合性評価制度」ができ、審査員試験やマーク授与など新しいNPOや特定法人が設立されるであろう。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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