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» 2010年03月23日 12時00分 公開

情マネ流マーフィーの法則(24):なぜIT部門アウトソーシングがうまくいかないのか?

社内IT部門のアウトソーシングや分社化をしたものの、期待した効果が出ない場合が多い。今回はアウトソーシングや分社化の法則を紹介する。

[木暮 仁,@IT]

 この数十年、IT部門のアウトソーシングや分社化が積極的に行われてきた。その半面、それらを解消して本体に吸収する動きもある。期待した効果が得られなかった原因を考察する。

情マネ流マーフィーの法則その139

外注というな。アウトソーシングといえ


 アウトソーシングが喧伝されたころには、「アウトソーシングとは、単なる外注ではない。自社のコアコンピタンス分野に経営資源を集中させるために、IT業務などは、自社に勝るコアコンピタンスを持つ他社に全面委託して、長期的なビジネスパートナーの関係を構築すべきである」といわれた。

 多くのアンケート調査によると、アウトソーシングをしている比率は非常に高い。ところが、プログラム開発やコンピュータのオペレーションなどを外部委託していることまで、アウトソーシングといっているのだ。

 これらの業務は、コンピュータの普及当初から外注していたし、特定の外注先とのなれ合いで無期限な関係にあったのである。すなわち、アウトソーシングとは外注の同義語である。

 最近のアンケート結果では、SaaSクラウドコンピューティングの実施比率が急速に増加している。その内容は、電子メールにGmailを使っているだけなのだが。

情マネ流マーフィーの法則その140

期待してなかったことに期待しても期待できない


 近ごろはアウトソーシングを解消する傾向もある。その理由として「思ったほどコストダウンにならない」と、「適切な提案が得られない」ことが多く指摘されている。

 ビジネスパートナーの選定に当たり、「コストダウン」を重視するのではスケールが小さい。きれいごとをいったものの、やはりアウトソーシングの主目的はコストダウンだったのだろうか。それとも、集中した分野へのコアコンピタンス化に失敗したので、副次的目的に問題をすり替えたのであろうか。

 「適切な提案が得られない」での「提案」とは、コストダウンの提案ではなく、自社業務にITをいかに適用させるかの提案であろう。それこそ、自社のコアコンピタンスのはずであるが、ITベンダにそれを期待したのであれば、不適切なビジネスパートナーを探したことになる。しかも、それに適したIT部門をアウトソーシングにより廃止・弱体化したのだから論理が通らない。

 すなわち、ビジネスパートナーを得ようとするタテマエ論であれば、副次的な事項が実現されないことを重視したことになるし、コストダウンが主目的だったのであれば、アウトソーシングに際してユーザー要求を明確にしなかったことが原因だといえる。

情マネ流マーフィーの法則その141

分社化理由のタテマエをホンネと読み間違えるな


 IT部門の分社化も大規模に行われた。その本体復帰の風潮もある。

 IT子会社ならば、赤の他人へのアウトソーシングよりもマシだと思われるのだが、それも期待していないことを期待すると裏切られることになる。

 公式の分社理由書には、IT業界への進出やIT技術者の確保・育成などが書かれている。ところが、親会社のポスト不足解消や余剰人員の受皿として分社したケースが多い。それを誤解した子会社は、外部進出のための投資や若手IT技術者の採用などを行おうとして、親会社の拒絶に合い戸惑う。さらに、親会社から役立たずの役員や中高年のIT素人を大量に押し付けられて、呆然とする。

 親会社は勝手である。突然タテマエ論を振りかざして、独立採算・自主経営を要求する。余剰人員の受皿の戦力で、IT業界で生き延びられるはずはない。その成績不振を理由に、身売りさせられることにもなる。

情マネ流マーフィーの法則その142

勘当した子に頼るのはみっともない


 IT部門は経営状況や業務部門の知識がないという。

 IT部門として同じ会社にいたときすらそうなのだから、分社化して別オフィスに移転したら、ますます知識を得る機会を失う。そもそも、経営や業務などコアコンピタンス分野には不要の連中だから子会社にしたのだとすれば、そこに文句をいっても始まらない。

 それらの知識を持たなければならないのは、親会社に残った「IT企画部」である。ところが、彼らはITを知らない。知っていても、実動部隊がないので適切な対応ができない。実動部隊のいる子会社とはコミュニケーションが不十分である。彼らと子会社が反目していることすらある。

 子会社を親会社に引き戻す動きもあるが、能力のある子会社はすでに親離れをしており、従来のIT部門のような一体感を持っていない。元のIT部門にすぐに順応する子会社は能力に欠けている。

情マネ流マーフィーの法則その143

IT分社化は事前のビジネスモデルがない


 逆に、分社化しても、なかなか親離れ・子離れできないケースが多い。タテマエとホンネの二重スタンダードが原因である。

 そもそも、分社化するには、ビジネスの基盤となる商品・サービスがあり、市場が存在することが前提になっている。ところがIT部門を分社するときには、そのような検討がなされることはまれである。

 「IT屋がいるのだから、適当に稼いでいけるだろう」程度の発想である。そんな安易なことでやっていけるほど、この業界は甘くない(製造業でのIT分社化が活発であった1980年代では、製造業の伸びは数%であったのに対してIT産業は2桁成長を示していた。それがIT分野進出の理由でもあった。ところが、その成長は製造業内部にあったIT部門が分社化したため、IT産業としてカウントされるようになった数字のマジックであり、実需要での成長は低かったのではなかろうか)。

情マネ流マーフィーの法則その144

IT子会社へのアウトソーシングはインソーシングである


 それで、分社化したIT子会社にできることは、親会社や関連会社を顧客にすること程度である。

 それらが、これまで第三者へ外注していたIT業務を受注するのだから、グループ全体で見れば、アウトソーシングしたのではなくインソーシングしたことになる。

情マネ流マーフィーの法則その145

分社後の文化は分社前の文化を増大する


 分離前のIT部門であったときから積極的な組織は、分社すると外部進出に手を広げ過ぎて、本体のいうことを聞かなくなる。ユーザーのいいなりだった組織は、分社すると本体の下請になる。

 分社に当たり、従来のIT部門に欠けていた総務・人事・経理などの担当者が送り込まれる。彼らは、子会社よりも親会社に忠誠を持っているので、親会社のしきたりを持ち込む。親会社はスリム化できたことを機会に企業文化の一新を図るのだが、彼らはそれに気付かずに、旧来のしきたりを持ち込むのである。

 IT技術者育成のために、資格取得者やスキル取得者に手当を与えようとしても、親会社にはその制度がないとして取り合わない。なかには、パソコン台数やLANの設備まで、親会社と同じレベルに抑えたいという。

 このように、「いっていること」と「やっていること」の間には大きな矛盾がある。これは喜劇だろうか、悲劇であろうか?

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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