ほとんどの企業のITシステム部門員の悩みは“なぜか社内地位が低い”ということだ。では、なぜIT部門の社内地位が低いのか。今回は、IT部門の社内地位についての法則を紹介する。
健全なIT化を進めるには、IT部門はせめて利用部門と対等な立場であるべきなのだが……。
IT部門は他部門の支配下に置かれる
営業部門担当役員になるためには、営業部員として成功した経験が条件になる。生産部門担当役員はエンジニアなのが通常だ。
ところがCIOの多くはIT部門以外の出身者である。
ITは競争優位を確立する「武器」であり、IT部門は「戦略」部門なので、軍部の独走を防ぐためにシビリアンコントロールが重視されているらしい。
人事部が人材を寄こさなくても非難しない。経理部門が予算を認めなくても非難しない。でも、IT部門が作ったシステムに満足しないと非難する
IT部門と同じである“他部門活動の支援部門”には、人事部や経理部があるが、他部門との関係はかなり異なる。
IT部門はIT全般の統括部門であるはずだが、他部門の部課長をメンバーとする「経営情報委員会」により、IT化の方針や予算決定が行われ、IT部門は事務局として参加するだけで、決定権を与えられていない。それに対して、各部門代表による「経営人事委員会」で人事異動を決める体制はポピュラーではない。せいぜい、馬耳東風なヒアリングをする程度であるし、その決定プロセスの透明性もない。
情報システム構築は「ユーザー主導」で行うべきだとされ、ユーザーニーズの実現が最優先される。
それに対して、各部門の予算要求を全面的に満足させるのが経理部の責任だという主張は聞かない。予算申請ではあの手この手を尽くして経理部を説得するのに、「事業仕分け」が密室で行われ、結果が一方的に通達される。「一律10%カット」などすらある。ところが、システム化でユーザー部門の要望をカットするには、IT部門はかなりの説得を迫られる。
自己申告や身上変更などの手続きでの方式や用紙形式は、人事部が一方的に決めている。自分の名前を何度も記入させられるが、全員がそれに従っている。ところがコンピュータへのデータ入力になると、ちょっとした重複入力も拒否される。
最大の相違は、製造物責任である。人事部や経理部は、不適切な人事異動、予算配分による他部門の結果に対して、直接的な責任は問われない。情報システムがユーザーの誤操作によりトラブルを生じると、IT部門の責任だとされる。
IT部門は、自部門の権限を低下させることに努力する
「他部門出身CIO」「ユーザー主導」「経営情報委員会」などは、他部門からの圧力に屈して出現したのではない。IT部門が言い出したのである。このような言動は、各部門が自部門権益を主張して全体最適化を阻害しているなかで、称賛するべき態度である。
しかし、これは自部門の責任回避ではないか?
IT部門がこのような態度になったのは、IT部門が自信を喪失したからである。給与計算や会計処理がシステム化の対象だった時代では、その効果も対処方法も明白であった。ところが、1980年代になるとSIS(Strategic Information System)がいわれるようになり、経営戦略との結び付きが重視されるようになった。そのような対象では、アプローチする方法も成果実現も不明確である。そのリスク転嫁を図ったのである。
もっとも、自信がないのはIT部門だけでなく、対象業務担当部門も経営者も同様なのである。
それなのに、IT部門が無能扱いされるのは、IT部門だけが問題の重要性を認識しており、自己革新が足りないことを自覚しているからである。本人が反省し卑下しているのだから、周囲がそう思うのは当然だろう。
社内評価が高いのは、「提案型SE」ではなく「御用聞きSE」である
IT部門が提案をしないと非難され、IT部門自身も「提案のできる部門になりたい」といっている。
「御用聞きSEから提案型SEへ」というキャッチフレーズが流行したこともある。自信を失ったSEが提案できないのは当然であるが、それ以前に、利用部門が提案を歓迎していないのだ。
実際、提案型SEは人気がない。
例えば、販売部門からの要求に、「それでは部分最適化になってしまう。生産部門や流通部門も参加させよう」などと言うと煙たがられる。うるさいことはいわずに「すぐやるSE」の方が好まれるのだ。
さらには、販売部門に日参して「その後、改善すべきことはありませんか」などと御用聞きをするSEの方が、「仕事に熱心だ」「ユーザーの状況を理解している」として高い評価を受ける。
IT投資への評価が重視されているが、最も広く行われている評価方法は「ユーザー満足度」である。御用聞きSEはユーザー満足度を向上するのに効果的である。その結果が、整合性のない縦割りシステム、費用対効果を無視した過剰なシステムになることは致し方ない。
IT部門には他部門の業務を理解すべきだというが、利用部門にはIT部門の業務を理解せよとはいわない。IT部門にはIT用語を使うなというが、利用部門には業務用語を使うなとはいわない
実際には、販売部門が生産部門の業務を知らないように、利用部門も他部門業務を知らないのである。
むしろ、IT部門は他部門業務を理解している典型的な部門である。それなのに、これらが昔から言われてきたのは、IT部門の社内地位が低いことの表れである。
その理由を検討する。仮説1?4が偽であることは証明できる。仮説5が真でないとよいのだが。
・仮説1 社内ではIT業務従事者が少ないし、IT用語がポピュラーではないからだ
でも、IT部門は人事部門や経理部門よりも多人数だし、販売部門や生産部門などの特殊用語(スラングも)が多い。しかも、IT用語の大部分は世界共通語なのだ。
・仮説2 利用部門がIT業務を理解するのは、IT部門が利用部門業務を理解するより難しいからだ
利用部門はIT部門業務だけでよいが、IT部門は多数の利用部門業務が対象になる。
利用部門全体よりもIT部門の方が難解なのだということになる。それなら、IT部門の社内地位や待遇が高いはずだが?
・仮説3 利用部門は、IT業務を理解する能力はあるが、時間的余裕がないからだ
でも、IT部門の方が利用部門よりも残業が多いのだが?
・仮説4 ITは使われて価値がある。利用部門はお客様なのだ
それなら、IT投資の責任は利用部門が負うのが当然だが?
・仮説5 IT部門の業務が他部門業務よりも重要度が低いからである
では、「経営にとってITは不可欠」は誤りなのか?
▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)
東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している
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