羊頭狗肉のIT用語、誇大表示を告発する情マネ流マーフィーの法則(16)

CSO、アーキテクト、SaaS、クラウドコンピューティング……。IT用語は大部分が英語や英略語が基本になっているので、「見慣れているけれども、何なのかよく分からない言葉」というものが多いのではないだろうか。今回は、IT用語にまつわる法則を取り上げる。

» 2009年06月16日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

 IT用語は英略語が多いので、部外者が理解しにくいといわれている。

 しかし、そのような英略語はどうせ相手に意味が通じていないので、相手の誤解も生じない。むしろ、一般用語が特殊な意味で用いられているケースがあり、その方が誤解を生むので危険である。

情マネ流マーフィーの法則その98

「情報、システム、マネジメント、経営、戦略」をIT部門の5大慣用句という。どのような言葉にもつけられるが、特別な意味を持たないのは「根岸の里の侘住居」の類である


 「情報」とは、IT部門が取り扱う一切のものを指し、それ以外のものはいかに重要な情報であっても、「情報」とはいわない。

 コンピュータに入力する残業時間のデータは立派な情報であるが、“競争会社が新製品を発表しそうだ”などというニュースは、コンピュータに入らない限り情報とはいわない。すなわち、情報とはコンピュータ処理の原料と製品のことである。

 「システム」も同様で、コンピュータで処理することを指す。本来ならば、システムとは「複数の要素が共通目的を達成するために相互関連を行う機能の集合」のことであるが、受注、在庫確認、出荷などのシステムがバラバラで、相互関連をしていなくても「販売情報システム」という。

 「マネジメント」は、以前は「人事管理システム」のように「管理」と訳したが、財務破たんした自治体を「管理団体」というようになってからは、「販売マネジメントシステム」のように「マネジメント」を使うようになった。

 いずれにせよ、人事管理システムとは給与計算のことであり、販売マネジメントシステムとは請求書作成のことである。近ごろは、マネジメントでも迫力が薄れたので、「ガバメント」が出現してきた。そのうちに「人事ガバメントシステム」となるだろう。オソロシヤ。

 IT部門は「経営」が好きである。初期段階での「カードの穴から経営を覗く」は「パソコンの窓から経営を覗く」となり、さらに「網(あるいは雲)のすき間から経営を覗く」ようになった。

 「経営情報システム」とは、MIS(Management Information System)の日本語訳である。このコンセプトは1960年代に、ともかくすべてのデータをコンピュータに入れておけば、経営に必要な情報が多様な切り口で即座に取り出せるので、数値に基づく科学的な意思決定が迅速にできるとされた。ところが、その後の経過を見ると、この発想はMYTHでありMISSであったとされた。

 「戦略」とは帷幕の中で策を巡らすことであるが、これも単に「経営」の接続語であり「経営戦略」として用いられる。「戦略的情報システム」は、1980年代後半から1990年代初にかけて情報は企業競争の武器であると喧伝されたが、実際には取引先とオンラインでデータを交換することであった。

 IT部門は、自部門を「経営戦略」部門だと位置付けている。それなのに「経営」者とのコミュニケーションが悪いことや戦略を提案できないことが指弾されている。ところで、経理部門はどうして「経営戦略資産管理部」といわないのだろう?

情マネ流マーフィーの法則その99

IT要員の名称は、業務に関係なく立派になる


 コンピュ?タがやっとポピュラーになった1960年代では、まず男子はオペレータ、女子はパンチャーになり、プログラマに昇格してSEになるコースが標準であった。

 「パンチャー」は紙テープやカードがなくなるのに伴って、その名称もなくなった。「オペレ?タ」は、電話交換手のようにいずれはなくなるイメ?ジが伴うので、「ファシリティマネジメント」と呼ばれるようになり、管理者に出世した。最近は「ITサービスマネージャ」として、情報産業の花形職種のように見せかけている。

 「プログラマ」は往時は花形職種であったが、残業が多いイメージが影響して3K用語に転落した。1994年に通商産業省(現経済産業省)はプログラマを職業蔑視(べっし)語と認定し、情報処理技術者試験からこの用語を削除した。現在では分野別に「○○スペシャリスト」と表現し、高度技術者だとしている。実際には、ITSSにおけるエントリレベルの者がほとんどなのだが。

 「SE」もいつの間にか廃語になった。現在では、「ストラテジスト」や「アーキテクト」など、ほかの分野では到底考えられない立派な称号を発明している。

 IT部門以外への配慮も忘れない。情報処理技術者試験ではユーザーを「システムアドミニストレータ」として、システムの管理者、権限者であるとした。さらに、ITパスポートとして、国が免許皆伝を与えたような資格に昇格した。

 現在、IT分野での最高位はCIOである。それだけではポストが不足するので、CISO(チーフセキュリティ)やCKO(チーフナレッジマネジメント)などが名乗りをあげている。なお、これに伴い、CIOを(Chief Innovation Officer)に昇格させることが検討されている。

 このように名称の誇大化が進むと、名称が枯渇するのではないかと心配になる。

 ここで見識があるのが総務省統計局である。同局が管轄する日本標準職業分類は、1997に改訂したが、それでも情報処理技術者としては、SEとプラグラマしか認めていない(ちなみに、同分類では事務従事者に「キーパンチャー」や「ワープロ操作員」を残している。中央省庁にはカードリーダーやワープロが残っているらしい)。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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