IT部門は経営者やユーザーとコミュニケーションを図ることが重要だとよくいわれているが、逆に「ユーザーや経営者もIT部門とコミュニケーションをするべきだ」という意見はあまり聞かない。今回はコミュニケーションに関する法則を紹介する。
IT部門は、経営者や利用部門とコミュニケーションを図ることが重要だといわれている。コミュニケーションは双方向で成り立つのだが、マスコミの論調は片務的要求になっている。
受益者負担の原則
ITが経営に役立たないと困るのは経営者だし、業務の改善にITを役立てたいと願っているのは利用部門である。
それなのに、特に困っていない(困ることに気付いていない)IT部門には、「経営者や利用部門とのコミュニケーションを図れ」というが、経営者や利用部門に「IT部門との接触を図れ」とはいわない。
下から上にアプローチするより、上から下にアプローチする方が簡単である
醜女の深情け
IT部門は従来より「ITは経営戦略に密着している」ので、「トップとの意思疎通が重要だ」などといってきた。
コミュニケーションは日常の接触が重要である。しかし、IT部員が社長と雑談しようと出かけるのには勇気がいる。
それに対して、社長がIT部門にふらっと行くのに勇気はいるまい。アポイントの必要もない。でも、そうしている社長はまれである。その理由は単純である。経営者はIT部門あるいはIT戦略を、それほど重視してはいないからだ。
1人に10の知識を教えるよりも、10人に1の知識を教える方が簡単である
IT部門には多くのユーザー部門の知識を要求するのに、ユーザー部門には「IT部門をうまく利用する方法」を教えていない。それで、IT部門から適切な提案が生まれないのである。
合議による決定は、各意見の悪い部分を集めたものになる
三人寄れば文殊の智恵とか、弁証法による正反合など、討論により全体最適化を図ることが重要だといわれている。
ところが、実際には各案の共通する部分だけが合意事項になる。討論を重ねると、その共通部分は小さくなる。それで、全社統合的なシステムが作れないのである。
「部下育成」の記事の読者は部下である
部下の育成はどの部門でも重要なはずであるが、営業や生産関連の雑誌に比べて、IT関連雑誌では非常に多く取り上げている。なかには「CIOの育て方」まである。営業担当専務や生産担当常務の育成などを取り上げた記事を見たことがない。
IT雑誌では、コーチング、叱り方(ほめ方)などの記事が多い。一般社員は課長がこのようになってくればよいと思う。課長は部長がこうあってほしいと思う。部長はトップが……。誰も、部下へのアプローチは考えていない。
部下は、「部下との接し方」の例のようには反応しない
上の記事では、部下のタイプに応じた叱り方(ほめ方)を事例で示しているが、事例のように反応することはまれである。部下もこの記事を読んで、叱られ方の勉強をしてほしいものだ。
上司に相談すると、無関係な答えが返ってくる
トラブルが発生したので、その緊急対処の相談にいくと、未然回避の話題になる。品質改善のための標準化について相談をすると、緊急対策の話になる。
▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)
東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している
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