役に立たないグループウェア情マネ流マーフィーの法則(22)

SaaS型も登場し、中小企業から大企業まで幅広く普及したグループウェア。単なるスケジューラーとしてだけではなく、情報共有や生産性の向上などさまざまな効果が期待されているが、実際に使いこなすのは難しい。今回はグループウェアに関する法則を紹介する。

» 2010年01月12日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

 電子メールや電子掲示板などのグループウェアは、ナレッジマネジメントやビジネスインテリジェンスの普及により、ますます活発になってきた。

 その究極的な目的は、情報の共有化による組織の創造性向上にある。ところが、表面的な利用度は高いのだが、本来の目的が実現していないことが多いのだ。

グループウェアの限界

情マネ流マーフィーの法則その127

知らせたい情報と知りたい情報は一致しない


 一部のマニアを除いて、大抵の人は自分の知識を公表しようとは思わない。知識を公表するのは、次の条件が満たされたときに限られる。

  1. 自分が他人に示すべき知識があると認識している(自分が知っていることは、他人も知っているであろう。もっと詳しい人がいるだろう)。
  2. それを公表することに抵抗がない(知識の独占を放棄してもよいか。問い合わせなどで面倒にならないか)。
  3. 知識を形式知として表現できる(知っていることと、形式知にできる能力にはギャップがある)。
  4. 形式知を公表する面倒をいとわない(形式知にまとめたり、デジタル化したりするのは面倒である)。

 われわれが知りたい情報として「失敗事例」が挙げられる。しかし、それが公表されることはまれであり、公表されたとしてもかなり美化されているので本質は分からない。成功事例は公表される機会が多いが、詳細を形式知にするのが面倒なので、それだけでは解決しない。誰が何を知っているかが分かる程度である。

 また、受信者にも問題があり、実際に活用される機会が少ない。

  1. 自分の業務に知識が必要なことを認識していると思う(自分の知識だけで解決しようとする)。
  2. 適切に検索できる能力がない(必要な知識が登録されていても、検索できるかどうか分からない)。
  3. 解決に必要な情報であることを判別できない(そのものズバリの情報でないと、それが解決のヒントになると気付かない)。

情マネ流マーフィーの法則その128

重要な情報はデジタル化されない


 グループウェアの活用により、ワイガヤ情報は掲示板に登録され、関係者の意見が事前に理解できるし、気の利いた進行役がいれば、意見を整理して、合意事項や対立事項が明確になり、会議の生産性が向上する。後日、どのようなプロセスで決定されたのかを調べるのにも役立つ(はずである)。

 ところが、実際には、核心の段階になると「集まって討議しよう」ということになる。この討議の結果はデジタル化されない。結果として、ワイガヤ段階のゴミだけがコンピュータに残るだけになる。

 さらに、最近は税務署や警察がグループウェアの記録に注目するようになった。フォレンジック対策のために、「電子メールは送受信したらすべて削除せよ」「電子掲示板への書き込みは、すべて法務部の承認を求めよ」ということになる。

グループウェアの逆効果

情マネ流マーフィーの法則その129

グループウェアは、従来の組織文化を強化する


 従来から自由な発言ができるオープンな文化を持つ組織では、グループウェアによりさらに活発な発言が行われる。それに対して、「物言えば唇寒し」で「沈黙は金」のクローズな組織文化では、グループウェアの導入により、さらに情報共有化は妨げられる。

 グループウェアが注目されるようになった初期段階のころ、先進企業の経営者は「グループウェアにより、社員の意見が把握できる」と礼賛する人が多かった。グループウェアを監視・統制のツールだと思っていたのである。

 なかには社長が社員の発言を見て、励ましのつもりで発言するという人もいた。社長が見ている掲示板に、経営批判を書き込むような非常識な社員はいない。ますます裸の王様になるのがオチである。

情マネ流マーフィーの法則その130

アクセス権限をピラミッド形式にすればうまくいく


 グループウェアの成熟度が低い企業では、課長は一般社員よりも広い掲示板にアクセスでき、部長はもっと広くというように、▽型にしがちである。

 ところが、情報提供側は上位者に見られるのは嫌なものである。

 自分の失敗を上位者に見られるのは都合が悪いし、改善提案は現状批判と受け取られる心配がある。むしろ「上位者見るべからず」として△型にした方が、有意義な発言が活発に行われる。

情マネ流マーフィーの法則その131

グループウェアは情報量を低下させる


 商談報告を例にする。

 口頭で報告していたころは、「ところで?」の雑談が重要な情報を伝達していた。しかし、文書化されると、フォーマット以外の情報は伝達されなくなる。

 電子掲示板になると、誰が見るか気になるのでその傾向はさらに進み、商談報告がアリバイ証明と交通費精算の道具になってしまった。さらには、SFAやCRMの入力データとして必要な項目だけになってしまった。

 報告作業の生産性向上には大きな効果があるが、上司はそれだけでは不満なので、呼びつけて口頭で報告させる。

オープン度の測定尺度

情マネ流マーフィーの法則その132

電子メールの利用度は情報共有化の逆尺度である


 電子メールの本質は、情報伝達の秘密性にある。

 面談をすると「誰と誰が会った」ことがばれる。電話をすれば近くの者に聞かれる。手紙やFAXだと配達者に見られる。電子メールこそ、第三者に秘密にできる最良の手段なのだ。

 電子掲示板があるのに、その利用が少なく、電子メールが愛用される組織は、情報共有化が遅れている尺度になる。

情マネ流マーフィーの法則その133

組織のオープン度は人事異動時に明らかになる


 クローズな文化の組織や人間関係が複雑な組織では、「あの人には見てほしいがあの人には見られたくない」という関係が、複雑に入り組んでいる。

 そのために、電子掲示板のアクセス制限が複雑になっている。人事異動時にそのアクセスルールを修正するのが大騒ぎになる。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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