なぜIT部門は提案できない/しないのか?情マネ流マーフィーの法則(32)

経営者は、システム部門に常々「IT部門からの提案を期待している」と言う。しかし、経営者からシステム部門に提案されることはない。なぜだろうか。今回はIT部門と提案に関する法則を紹介する。

» 2010年12月01日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

 経営者は「IT部門からの提案を期待している」と言う。IT部門自身も積極的な提案をするべきだと考えている。それなのに、どうして実現できないのだろうか?

情マネ流マーフィーの法則その180

まかぬ種は生えぬ


 消費者ニーズにマッチした商品を作る“顧客志向マーケティング”が主流であるが、消費者ニーズから革新的な商品が生まれたことはない。

 例えば、電球が発明されるまでは、消費者はもっと明るいランプが欲しいと思っただけなので、顧客ニーズを重視したら、せいぜいランプの芯の素材や形状の工夫だけで終わったであろう。ユーザーニーズの調査は“改善”には役立つが、“改革”には向かないのだ。

 IT活用で抜本的な効果を生むには、ニーズよりもシーズが重要なのだが、技術先行アプローチは厳重に規制される。種をまかせてくれないのだから、抜本的な提案ができるわけがない。

情マネ流マーフィーの法則その181

余裕は改革の父


情マネ流マーフィーの法則その182

忙しい部門のIT化に手を出すな


 一昔前、NHKの人気番組「プロジェクトX」が放送されていた。

 その話の多くは、企業の環境変化や方針変更によって、閑職に追いやられた(失礼!)技術者たちがアンダーグラウンドで行っていた研究が、後になって革新的な成果を生んだ記録である。しかもその動機は、企業の将来への対策というよりも、技術者たちの好奇心による未知への挑戦が多かった。

 「必要は発明の母」だという。ところが、瀕死の病人が特効薬を発見した例はない。倒産に直面している企業は、新商品開発や新市場開拓をする余裕がない。

 IT部門でも同じである。与えられた業務が残業続きの状況では、抜本的な発想、ましてや他部門のための発想などが生まれるはずがない。抜本的な発想を求めるならば、IT部員を閑職に就かせる必要がある。

 ユーザー部門にも余裕が大切だ。降りかかる火の粉を払うのに四苦八苦している部門に、そのような状態を抜け出すためにIT利用を考えないかと提案しても、「忙しくて検討するヒマがない。そっちで考えて開発してくれ。出来上がったら使わせてもらう」と言われる。このような状況でマトモなシステムができるはずがない。

情マネ流マーフィーの法則その183

偉大な成果は管理不在の賜物


 工業技術では試作品を作り、パイロットプラントで次第にスケールアップする。「小さく産んで大きく育てよ」は確立した方法論なのである。

 それなのに、IT部門には実験をさせてくれない。SOAを試してみようとか、Webサービスのひな型を作ってみようとしても、「目的を明確にせよ」「ユーザーニーズはどうか」「費用対効果を示せ」などと言われてしまう。

 プロジェクトXの技術者魂は多くの人に感銘を与えた。しかし観点を変えれば、有能な技術者を企業戦略業務に従事させなかった事例であり、プロジェクトマネジメントの失敗事例だと評価されるであろう。

 プロジェクトXでは工場の片隅を隠れ場所に使っていたが、IT部門はレガシーシステムが廃棄されて以来、隠れて仕事をする場所を失った。それに、行動の一切(費用・時間)を、自分の作ったシステムによって監視されている。

 また、プロジェクトXのアングラ研究で必要な研究機器や資材を調達できたのは、その研究の重要性を見抜いていた隠れパトロン(技術担当の上級役員)が存在したからである。いま、そのような隠れCIOが存在するだろうか?


 そもそも、IT化を行うのではなく業務改革・改善を行うのが目的のはずである。

 それならば、問題に直面している利用部門が積極的になるべきなのだが……。

情マネ流マーフィーの法則その184

経営者や利用部門はIT部門に提案をせよと言う。しかし、彼らがIT部門に提案したことはない


 経営戦略や業務改革にITを活用することの提案には、ITからのアプローチと経営・業務からのアプローチがある。

 そして、IT化に関しては「経営主導」「ユーザー主導」であるべきだと言われている。それならば、IT部門に提案を期待する以前に経営者や利用部門が、IT部門に「EAの導入を考えたらどうか」「雑用を減らすために、ツールを導入したらどうか」と提案してもおかしくない。

 自分の任務について、「IT部門からの提案がない」と不満を言うのは、自分たちに企画能力がないからなのだろうか、あるいはIT部門を買い被っているからなのだろうか。

情マネ流マーフィーの法則その185

痛い腹でも探られるのは嫌なものだ


 提案せよと言うが、提案は現状否定につながり、現在の担当者を批判することになる。そのため、求める提案とは自分が対象にならない提案なのである。

 経営者は自分が関与する経営戦略への提案よりも、在庫削減や生産コスト削減など中間管理職が担当する分野の提案を期待する。営業部門は、品切れを防ぐための流通システムや生産システムを期待するが、販売の平滑化や需要の早期確定のための販売システムは拒否する。

 それなのにIT部門は愚直なので、経営者には経営戦略、営業部門には営業業務の提案をする。そして「実務を知らないたわ言だ」と一蹴されるのである。

 IT部門の責任か、経営者や利用部門の責任かなどと、責任をなすり付け合っても問題は解決しない。経営や業務からのニーズと、IT技術動向を相互に理解することが必要だ。業際的な取り組みが必要なのである。

 そのために、CIO、経営情報員会、IT部門の戦略部門化など、多様な取り組みが行われてきた。それなのに、「IT部門は提案を」は一向に解決されていない。その原因を根本的に検討する必要がある。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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