LINE、位置ゲー、Wi-Fi……古くて新しいモバイルと“O2O”の関係佐野正弘のスマホビジネス文化論

» 2013年07月29日 08時00分 公開
[佐野正弘,ITmedia]

 いま、インターネット上の取り組みを実店舗の集客に生かす「O2O」が大きな注目を集めている。だがO2Oに類する取り組みは、日本ではフィーチャーフォンの頃からみられてきた。そこで今回は、過去から現在に至るまで、日本でモバイルを活用したO2Oに関するさまざまな取り組みを追いかけてみたい。

フィーチャーフォン時代からあるO2Oの取り組み

 そもそもO2Oとは「Online to Offline」の略であり、インターネット上の行動から、実店舗の集客へ結びつける取り組みの総称を示している。SNS等の口コミと異なり、公式ページなどから実店舗への誘導を意図的に実施するのが、現在のO2Oが意味するところだろう。

 “ネットから店舗に集客する”というO2Oの概念は非常に曖昧なことから、O2Oに向けた各社の取り組みも、非常にバリエーションに富んでいる。例えばNTTドコモが展開している「ショッぷらっと」や、スポットライトの「スマポ」などは、人の耳には聞こえない音波を発する装置をお店に設置し、専用のアプリを入れたスマートフォンがその音波を聞き取ることで、スマートフォン上にポイントやクーポンを発券。店舗近くを訪れた人の集客に結び付けている。

photophoto NTTドコモのO2Oプラットフォーム「ショッぷらっと」。人には聞こえない音波をスマートフォンに聞き取らせることで、店舗近くに訪れた人にクーポンなどを配信し、集客に結び付ける仕組みだ

 また、ヤフーとソフトバンクテレコムが提供し、イオンと協業して展開している「ウルトラ集客」では、Yahoo! Japanのバナーにキャンペーン広告を掲載し、そこからスマートフォンにクーポンを送信。それを店頭のクーポン発券機にかざしてクーポンを発券し、特典を提供することで、イオンの各店舗へと集客する取り組みを実施している。

 急速に注目を集めるようになったO2Oだが、実はこのキーワードが広まる以前から、日本ではフィーチャーフォンを用いた、O2Oに類する施策が多数実施されている。例えば、携帯電話からメニューを選び、店頭で携帯電話をかざすことで、注文と支払いをまとめて実施する、日本マクドナルドのおサイフケータイを活用した取り組みなどは、現在でも先進性を感じさせるO2O施策といえるだろう。

 飲食店でよく見られる、携帯電話のメールアドレスを登録した消費者に、新商品の情報や割引クーポンなどを送付してリピート率の向上につなげる“携帯メルマガ会員”の取り組みも、フィーチャーフォン時代から広く利用されているO2O施策の代表例だ。中には、メールマガジン会員の仕組みと、SNSサービスとを組み合わせることにより、双方の集客と収益化に結び付けた「mobion」(GNT)のような事例も存在する。

モバイルのO2Oで多くの成果を上げる位置情報ゲーム

 フィーチャーフォン時代から実施されているO2Oの成功例として、メディアなどでも頻繁に登場するのが位置情報を活用したゲームである。この分野の代表的なゲームとしては、マピオンの「ケータイ国盗り合戦」や、コロプラの位置ゲープラットフォーム「コロプラ」などがあり、古くから熱心なユーザーを抱えている。

 これらの特徴は、当然ながら位置情報を活用している点にある。ケータイ国盗り合戦であれば、ユーザーが現在地を登録することで、その場所周辺の“国”を制圧。これをさまざまな場所で繰り返し、日本全国を制覇するのが目的となる。一方コロプラの場合、位置情報を登録した“距離”に応じてポイントを取得し、それをゲームの内容によって、街作りやキャラクターの成長など、さまざまな要素に活用できる。

 位置情報を活用したゲームの人気は、外出や出張が多いビジネスパーソンなどから火がつき、現在ではゲームを遊ぶために全国を駆け巡る、熱心なユーザーも多く見られるようになった。以前、筆者がケータイ国盗り合戦のファンイベントの取材をした際、何人かの参加者からは「全国制覇を2、3回している」、つまり日本全国を2〜3周したという声も聞いている。その熱心さは折り紙つきといえるだろう。

 こうした熱心なユーザーの行動を、実際の消費行動に結び付ける取り組みは以前から行われている。コロプラの場合、全国各地の老舗名品店などと提携し、その店舗でゲーム上で同じアイテムが入手できるカード「コロカ」を提供。プレーヤーがそのお店を訪れ、一定額以上の商品を購入することで、金額に応じたコロカを入手できるという仕組みを構築した。これが地方に人の流れと消費を生むなど大きな成果を生み、最近では提携する店舗の銘品を一堂に介した物産展イベント「日本全国すぐれモノ市−コロプラ物産展」を開催、盛況を得るに至っている。

コロプラは、提携する全国の銘品店で、販売額に応じた「コロカ」を提供することにより、集客につなげている。写真は筆者が入手したコロカの数々

 一方のケータイ国盗り合戦も、各地の交通機関や商店街などとタイアップし、さまざまなイベントを展開することで、集客に結び付ける取り組みを実施し、多くの成果を残している。最近の例では、7月24日にスタートした日本全国100の城を100日間で巡るスタンプラリーイベント「ケータイ国盗り合戦2013夏の陣『鬼の信長100日天下』」が挙げられる。8月1日からは、岩手県陸前高田市や福井県福井市など6カ所で、特定の商品を購入するとゲームの特典が付いたカード“くにふだ”が手に入るイベントを展開、各地への集客や滞在につなげる取り組みを実施している。

ケータイ国盗り合戦で現在開催されているイベント「ケータイ国盗り合戦2013夏の陣『鬼の信長100日天下』」。これを活用したO2O施策も展開する

スマートフォン向けO2Oの注目株「LINE@」

 フィーチャーフォンからスマートフォンの時代になり、さまざまな企業がスマートフォンを活用したO2O施策を展開するようになった。先に触れたショッぷらっとなども、スマホ活用に照準を合わせた例といえるだろう。

 そうしたO2O施策の中でも、最近特に人気と注目を集めているのが「LINE@」だ。これは、LINE上で利用できる、店舗やメディア、自治体などに向けたビジネスアカウントサービス。店舗のアカウントを作り、それをユーザーに“友達”として登録してもらうことで、お店の最新情報や割引クーポンなどをユーザーにダイレクトに送信し、集客につなげるもの。月額5250円で最大1万人のLINEユーザーに情報を配信できるなど、低料金で利用できるのが特徴だ。

photo LINEを活用したO2O施策「LINE@」は、LINE版の携帯メルマガ会員というべきサービス。月額5250円から始められる敷居の低さと、影響力の大きさから人気を高めている

 サービス内容に加え、LINEを携帯電話のEメール代わりに利用している人も多いことを考えると、LINE@はスマートフォン時代のメルマガ会員サービスというべき存在といえる。その効果やユーザーに与える影響も非常に大きいことから、採用する店舗が急速に増えているようだ。筆者が見た限りでも、小規模の飲食店から大手百貨店、さらには宅配専門の飲食店に至るまで、幅広いジャンルでLINE@が採用されている。

 LINE@がメルマガ会員サービスと決定的に違うのは、LINEが“クローズド”な存在だということ。Eメールはオープンであるため、例えばITの知識を持たない個人店の経営者がメルマガ会員サービスを始めようとした場合、どの業者に依頼し、どうやってサービスを運営すればいいのかよく分からず、諦めてしまうケースも考えられる。だがLINEは1社で管理されているクローズドなサービスであるため、LINE@を開始するにはLINE社に問い合わせればよく、分かりやすいというのは大きい。

photo LINE@提供店舗を検索できる「LINE@ナビ」。小規模の店舗だけでなく、大手百貨店なども確認でき、利用店舗の幅の広さを実感できる

 一方で、先にも触れた通り、LINE@は実店舗を持たない企業は利用できないなど、利用できる業種が限られる上、同時に情報配信できるユーザー数にも制限がある(追加料金を支払うことで増加は可能)などの問題もある。それゆえ大きな企業の場合、高額だがより柔軟性がある、企業向けの公式アカウントを用いてユーザーに情報を配信するケースが多いようだ。

 他にもLINEは、店頭の商品にシリアルコードを付け、それをLINEで入力するとスタンプがもらえる「LINEマストバイ」など、さまざまなO2O施策を展開。世界で2億のユーザー数を獲得した土台を武器に、O2Oの分野でも影響力を高めようとしている。

“その場所限定”を実現するWi-Fiを使ったO2O施策

 もう1つ、スマートフォンを活用したO2Oの潮流の1つとして「Wi-Fi」も取り上げておきたい。スマートフォンの普及により、最近はキャリアを中心に、いくつかの企業が無線LANのWi-Fiスポットを急速に増やしている。このWi-Fiスポットを活用したO2O施策というのも、最近では増加しつつある。

 従来、Wi-FiをO2Oに活用する取り組みとしては、Wi-Fiスポットの利用範囲の狭さを生かし、接続した位置を特定するものが多かった。だが最近は、位置情報取得としての活用だけでなく、“その場限定”のコンテンツを提供するためにWi-Fiを活用するケースが増えているのだ。

 こうした取り組みに積極的なのが、Wi-Fiスポットの構築を手掛けるNTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)である。同社は、Wi-Fiスポットに接続している時だけ利用できる、その場所限定のコンテンツを提供することで、Wi-Fiの利用を活性化するとともに、新しい価値の創出につなげている。

 具体的な例がセブンアンドアイホールディングスの取り組みだ。同社は、NTTBPがグループ内の店舗に構築したWi-Fiスポット「セブンスポット」を活用し、その中で限定のオリジナル壁紙をプレゼントしたり、ニンテンドーDS用のコンテンツを配信する「ニンテンドーゾーン」などを展開。店舗に行かないと手に入らないコンテンツを提供することにより、集客へと結びつけている。

 同じく、NTTBPがWi-Fiスポットの設置を手掛けた西武ドームの「Lions Wi-Fi」では、リアルタイムで試合の対戦情報を提供するなど、その場でしか得られない情報を提供する取り組みを実施。これにより、試合観戦に訪れたユーザーの満足度を高め、リピートにつなげる狙いがあるようだ。

「ワイヤレスジャパン2013」における、NTTBP小林忠男氏の講演資料より。同社が手掛けた西武ドームの「Lions Wi-Fi」では、スポット接続中のみ試合の情報などをリアルタイムで閲覧できるサービスを提供

 ここまで紹介してきたように、日本においては、モバイルを活用したO2Oは、新旧合わせてユニークで先進的な取り組みが多くなされている。海外で話題になったことから、日本でも注目されるようになったO2Oだが、その取り組みは日本が先行していたことを覚えておきたい。

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