海外と日本の子供、ネット利用はどう違うか(2)小寺信良「ケータイの力学」

» 2014年01月14日 13時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 前回から引き続き、米国FOSI(Family Online Safety Institute)の取り組みをご紹介していきたい。この団体の日常的な取り組みとして、“A Platform for Good(PFG)”という活動がある。これは、青少年がネットを利用する際に、安全かつ大きな可能性とチャンスを引き出せるよう、家族や教師が支援していくためのプログラムだ。起こっている問題をどうするか、ではなく、リスクヘッジを主な目的としている。

 米国では11月下旬から年末までが典型的なホリデーシーズンだが、この時に子供にスマートフォンやタブレットなどのネット端末をプレゼントする家庭も多い。そこでPFGでは保護者向けに、ただ無条件に端末を与えるだけでなく、その中に誓約書を同梱して、子供が同意すれば使うことができるという活動を行なっている。

 例えばPFGが用意しているスマートフォンの誓約書テンプレートには、1カ月に使えるのメール量や通話時間、アプリの金額、利用して良いタイプのWebサービスを書き込めるようになっている。同時に、メールすべきではない条件や、アクセスしてはいけないWebサービスなども、各家庭で条件付けられる。

photo スマートフォンの誓約書1ページ目

 重要なのはその次で、子供がそれらのルールに従うのであれば、親も一定の約束をしなければならない。

photo スマートフォンの誓約書2ページ目
  1. 過剰反応しない:子供が不愉快な事態に陥っても、それを助ける努力をし、過剰反応しない。
  2. 新しいことを覚える:子供がクールだと思うことに対して話ができるように、一緒に新しい技術を学習する。
  3. 手本となる:親のスマートフォンの使い方が子供の手本となるよう、運転中にメールしない、スマートフォンの機能をきちんと学習する、そしてスマートフォンなしで子供と過ごす時間をつくる。

 といったことだ。面白いのは、子供への条件付けは各家庭で自由に設定できるが、保護者が行なわなければならないことは、編集できないようになっている点。親が最低限何をすべきか、妥協なく方向性を打ち出せるのは、強い確信がなければできない。

 誓約書はほかにもタブレット用、ゲーム機用、ケータイ用、PC用があり、それぞれ微妙に条件が異なっている。

保護者にも知識のある人はいるはず

 日本においても、保護者、あるいは子供の叔父や叔母にあたる人がIT関係の仕事をしているケースは少なくないはずだ。この連載の多くの読者も、これに含まれることだろう。だが残念なことに、「子供のリテラシー教育」という切り口で語られるとき、これらの人々の能力が活用されることはない。

 PFGでは、これらのスキルのある人が子供に対して自分から手をさしのべられるよう、“ホリデートレーニングクーポン”を配布している。例えば、「新しいコンピューターのセットアップを2時間手伝って貰える券」や、「ソーシャルメディアについて2時間トレーニングしてくれる券」などである。これを印刷して、クリスマスギフトの中に入れておくというわけだ。

 またホリデーに限らず、「なにか間違ったり困ったことになったらいつでも助けてもらえる券」というものもある。さらにこれは保護者用だろうか、「電話やメールはやめて、2時間集中してどんなことでも教えてくれる券」もある。保護者に対しても、きちんと戒めがある点は重要だ。

 日本ではクーポン券というのは、それほど定着した文化とは言えない。一時期グルーポンなどというサービスが流行ったこともあったが、あっという間に廃れてしまった。

 一方米国では、クーポンというのは日常的によく使われる。これはある意味、つねに公平性を主張しなければ得られない社会において、その券を持っているだけで優先的な権利を得ることができるわけで、非常に利用価値の高いものと認知されている。

 この点でも、“ホリデートレーニングクーポン”は、ちょっとベタではあるが、なかなか効果的な方法であろう。日本でこれに変わるような、子供にピッと響く仕組みがないか考えているところだが、このような発想は使えるはずだ。

 もうクリスマスもお正月も終わってしまったじゃないか、どうせならもう少し早く紹介してくれよ――とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれない。だが、子供たちに新しくスマートフォンが与えられるのは、入卒業シーズンなので、日本では3月から4月にかけてがピークになる。ひとつこの時に、クーポンでも発行してみてはいかがだろうか。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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