アプリで子育て? パパ・ママに人気のスマホアプリの現在と今後佐野正弘のスマホビジネス文化論

» 2014年02月17日 20時25分 公開
[佐野正弘,ITmedia]

 近頃、スマートフォンのアプリで注目を集めているジャンルの1つに、子育てを支援する育児・知育系アプリがある。ベンチャー企業だけでなく、教育関連事業者や携帯電話キャリアまでもが開拓に力を入れており、今後の伸びが大きく期待できる分野でもある。広がりを見せつつある育児・知育系アプリの現在と、今後の課題について探ってみよう。

「鬼から電話」などがテレビで紹介、注目を集める

 アプリマーケット上では、連日テレビCMを展開しているゲームアプリが高い人気と売上を獲得しており、多くの人の注目もゲームアプリに集まりがちだ。だが他の分野にも、着実な支持を得て、人気を高めているものは多く存在している。

 そうした中の1つに、子育て支援や、乳幼児向けの知育系アプリがある。「アプリで子育て?」と聞いてもピンと来ない人もいるかもしれないが、最近は絵本の読み上げやお絵描き、さらには子供を寝かしつけたり、あやしたりするなど、さまざまな子育て支援アプリが登場しているのだ。

photo 「鬼から電話」は多くのメディアに取り上げられて人気を博し、表現がリアルになってパワーアップした「鬼から電話DX」が提供されるに至った

 中でも2013年話題になったのが、メディアアクティブの「鬼から電話」というアプリだ。これは偽の電話をかける“フェイクコール”アプリの一種。子供が言うことを聞かない時にセットしておくと、鬼やお化けなどから偽のテレビ電話がかかってきて、怖い表情を見せつつ子供を叱ってくれるというものだ。

 このアプリは、電話という普遍的なデバイスに子供が怖がる雰囲気のキャラクターが現れ、しかも声で喋るという“リアルさ”がある。それ故子供にてきめんな効果を与えると評判になり、テレビなどでも取り上げられて注目を集めた。そこでメディアアクティブでは好評を受け、録音した台詞をキャラクターに話させるなど、より表現がリアルになった「鬼から電話DX」の提供も開始している。

 もちろん、人気があるのは子供を叱るアプリばかりではない。知育系アプリを専門に手掛けるベンチャー企業のスマートエデュケーションは2013年11月、「おやこでリズムえほん」など同社の知育アプリのダウンロード数が、2年で累計500万を突破したと発表。利用者を順調に増やしている様子を見て取ることができる。

子供だけでなく親が効果を実感したことが拡大要因に

 育児や知育を意識したアプリは、アプリマーケット上には比較的古い段階から存在している。だがそれを使うユーザーがいなければ、普及は進まないはず。では一体、なぜスマートフォンやタブレットで、アプリを子育てに活用しようという動きが急速に広まったのだろうか。

 その大きな理由の1つは、スマートフォンやタブレットというデバイスが“子供が操作しやすく、興味を示しやすい”ことにあるだろう。ご存じの通り、現在のスマートフォンはボタンをほとんど備えておらず、タッチ操作でさまざまな操作ができるようになっている。それゆえ小さい子供であっても、画面上のアイコンやボタンなどに触れるだけで何らかの反応をしてくれることから、フィーチャーフォンやPCなどと比べ子供が興味を示しやすかったといえる。

 そしてもう1つ、子育てをする親側の意識も、大きく影響しているとみられる。いわゆる“子育て世代”が比較的早い段階からスマートフォンに馴染んだことで、アプリに対する理解を示し、子供にスマートフォンやタブレットを触れさせるなどしてその効果を実感したことが、育児・知育系アプリに広がりに大きく影響したと考えられよう。

photo 教育関連アプリに力を入れるAppleは、App Storeに「子供向け」というカテゴリを設けている

 さらにもう1つ上げておくと、国内で高い人気を集めるiPhone/iPadシリーズを提供しているAppleが、古くから教育関連の分野に力を入れていたことも、こうしたアプリが広まったことに影響を与えている部分があるかもしれない。実際Appleは、「iPhone 5s」「iPad Air」などに標準で搭載されている最新OSのiOS7提供に合わせ、App Storeに子供が安心して利用できるアプリを集めた「子ども向け」というカテゴリを提供している。

異業種からの参入も増加、競争は知育から「教育」へ

 育児・知育系アプリの人気の高まりを受け、この分野に取り組む企業は着実に増加傾向にある。それを象徴しているのが、携帯電話キャリアが2013年から、この市場に積極参入してきていることだ。

 例えばKDDIは、同社が出資している、米国の知育系サービス事業者であるFUHUと、auスマートフォン向けの知育サービス「こどもパーク」を2013年7月1日より開始。月額790円(税込)で0〜6歳の子供が安心して楽しめるアプリを提供するとともに、利用可能な時間を制限したり、インターネット接続など意図しない機能の利用を防止したりする機能などを備えている。またNTTドコモも2013年11月29日より、dマーケットの新サービスとして「dキッズ」を提供開始。こちらも月額制(税込390円)を採用しており、タカラトミーなどから知育アプリの提供を受け、こどもパークと同様に子供が安心して利用できるサービスを提供している。

photophoto NTTドコモが2013年11月に「dキッズ」を提供するなど、キャリアも育児・知育系アプリサービスに力を入れている

 無論、携帯電話キャリアは育児・知育分野を専門にしているわけではない。だがそうした企業が、自社の扱うスマートフォンやタブレット向けに知育系サービスを提供してきたことは、そうしたデバイスが子育てに活用される機会が広まっていることを強く意識したものといえるだろう。

 さらに最近では、育児・知育の“先”を見越した動きも見られつつある。それは“教育”だ。幼い頃よりスマートフォンやタブレットに馴染んだ世代が小学生や中学生になることを見越して、教育関連のアプリやサービスを提供する事業者が増えつつある。

 実際、ベネッセコーポレーションは2月4日、同社の通信教育サービス「進研ゼミ」で、4月より小学1〜5年生、中学1〜3年生、そして高校1年生に向け、タブレットを一斉導入すると発表。問題の自動採点や、インターネットを経由したライブでの授業など、タブレットならではの機能を生かした教育を展開するとしている。

 知育系アプリ同様、教育関連でも異業種からの参入がみられる。例えば2013年12月にはディー・エヌ・エー(DeNA)が、テレビでの幼児教育で高い実績を持つNHKエデュケーショナルから教材提供を受け、小学1年生に向けた「アプリゼミ」を4月より提供開始すると発表した。現在は「小学校入学準備号」を提供するとともに、東京都内の公立校などの協力を受け、学習への影響を実証しているという。

photophoto DeNAはNHKエデュケーショナルから教材提供を受けた「アプリゼミ」で教育分野に参入する

“スマホで子育て”に対する懸念の声、払しょくするには?

 子供だけでなく親からの支持も得たことで、育児・知育、そして教育系アプリは急速な広まりを見せつつある。だがそうした傾向に異を唱える向きも出てきているようだ。

 全国の小児科医によって設立された日本小児科医会は2013年12月より、乳幼児にスマートフォンやタブレットで長時間遊ばせる行為が、健全な発達を妨げる恐れがあるとし、「スマホに子守りをさせないで」と書かれたポスターなどで注意喚起するキャンペーンを実施している。

 公開されているポスターの内容を見ると、親が子に直接語りかけたり、子供と一緒に絵本を読んだり、散歩や外遊びなどを推奨する一方、ムズがる赤ちゃんに子育てアプリで応えることが子供の成長を歪める、子供に長時間タブレットで遊んだりさせることが親子の会話を失わせるなどの内容が記述されている。

photo 日本小児科医会はスマートフォンの子育てへの利用が健全な発達を妨げる恐れがあるとし、ポスターなどで注意喚起をしている

 このように、子供にスマートフォンやタブレットを使わせることに対し、懸念を抱く向きが少なからずあるのは事実だ。だが一方で、外出先で子供が落ち着かない時などは、アプリが役立つと評価する声も多く聞かれるのも、また事実である。

 では実際、育児・知育アプリを提供する事業者側は、“アプリを使った子育て”についてどのような考えを持っているのだろうか。先に触れたスマートエデュケーションは、乳幼児の適切なスマートデバイス利用に関して「5つのポイント」を策定し、自社Webサイトで公開している。

  1. 親子で会話をしながら一緒に利用しましょう
  2. 創造的な活動になるよう工夫しましょう
  3. 多様な体験ができる機会を作りましょう
  4. 生活サイクルを守りながら使用しましょう
  5. 親子でコミュニケーションを取りながらアプリを選びましょう

 これらの内容を見るに、やはり子育てをデバイスやアプリに依存するのではなく、それらを親子のコミュニケーションに生かし、適切な使い方をすることを推奨しているようだ。スマートフォンやアプリも育児をサポートするツールの1つでしかなく、利用する側の意識次第でプラスにもマイナスにも働くものだ。有効活用するための取り組みをアピールしていくことが、アプリの理解を広げていく上でも重要になってくるだろう。

 これまでの歴史を振り返ってみても、子供が積極的に利用するITツールが登場する度に、必ずといっていい程強い懸念を示す声が上がってきた。それだけに今後、育児・知育系アプリが一層発展していくためには、懸念を示す親はもちろんのこと、教育・医療機関などの理解を進めるための積極的な取り組みが、求められるといえそうだ。

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