子供へのネット規制の歴史(2)小寺信良「ケータイの力学」(2/2 ページ)

» 2014年08月25日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 2011年3月には東日本大震災が発生、中学生の機転でNHKのテレビ放送をUstreamに流したことがきっかけとなり、テレビ放送のネット送信への道が開かれることとなる。mixiの「足あと」機能が安否確認に利用されるなど、SNSの可能性がクローズアップされるも、のちに足あと機能は廃止される。いわゆる「既読が重い」問題のスタート地点である。

 また子供の利用者の多かったモバゲー、GREEなどでの情報共有が期待されるも、もはやSNSとして個人を結びつけるような状況は崩壊しており、子供の安否確認や情報共有としては機能しなかった。

 2011年4月には、児童ポルノへの対抗策として、児童ポルノサイトへのブロッキングが開始された。これまで何度となく、児童ポルノの単純所持規制の圧力が高まってきたが、それへの対抗策としての意味合いもあった。

 ブロッキングはフィルタリングと違い、誰もそこへアクセスできなくするという方法で、海外ではすでに実施例はあったが、同時に多くの問題があることも分かっていた。つまり誰もアクセスできなくなるので、そこに本当に児童ポルノが存在するのかどうかも、誰も分からないのである。ブロッキングのリストが恣意的に運用された場合、誤りを誰も指摘できなくなる。

 またISPにとっても、ユーザーがどこへアクセスしようとしているかを常時監視することになり、通信の秘密の原則と相反する。それでも通信業界としては実施に踏み切らざるを得なかったという、圧力の高さを物語る。

2012年 〜ソーシャルゲームの勃興と衰退〜

 2011年後半からソーシャルゲームが大きな伸びを見せたが、2012年5月に消費者庁がソーシャルゲームのコンプガチャが景品表示法違反にあたるという判断を示したことがきっかけとなり、各社の株価が急落する「コンプガチャショック」が起こった。

 だがこれに対する業界の反応は速く、ソーシャルゲーム事業者で団体を作って自主規制ガイドラインを作成するなど、年内にはほぼ混乱は収束していった。子供の過剰課金がメディアを騒がせたりしていたが、実際にふたを開けてみれば圧倒的に「大人」の問題であったことが明らかになるなど、突然時代の寵児に躍り出たネット企業を叩きたいマスコミ報道と、実態の乖離の大きかった事件であった。

 その一方で、自治体の青少年健全育成条例改正も、現実的な路線への転換が始まった。千葉県では無線LAN接続についてのリスクを説明することを携帯販売事業者へ義務付けるなど、環境整備法をエスカレートさせるのではなく、穴を埋める方向で動き始めた。福岡県でも無線LANに関わるフィルタリングの説明義務を盛り込んだ。ただ、保護者に対して携帯電話事業者の説明を聞く努力義務を制定したのには、気持ちは分かるが実効性がどれだけあるのかは疑問が残る。

2013年〜現在 〜子供同士のつながり依存の解明〜

 2013年から急速に話題に上るようになったのが、LINEである。サービス的に見れば、スマートフォンに特化したメッセージングサービスに過ぎず、ICQやSkypeを知ってる人にはどうということもないのだが、従来のSNSしか知らない人から見れば、親に内緒のSNSとしか見えず、学校裏サイトの形を変えたものといった誤解も生まれた。

 ネットサービスの使いすぎの問題は、携帯時代はメール依存、ソーシャルゲーム時代ではゲーム依存という形で、「依存」という言葉が便利に、もっといえば安易に使われてきた。しかしその一方で、子供達がなぜ常時接続的に他者とのつながりがやめられないのか、さらにはSNSではなくLINEを選ぶのかといった理由も、子供社会の研究が進むにつれて、次第に明らかになってきている。

 この連載が続けば、それらのことも皆さんに広くお伝えすることもできたのだが、今後はここに代わって、筆者のメルマガ「金曜ランチボックス」で定期的に子供とネットの問題を取り上げていきたいと思っている。ご興味のある方は、ぜひご購読いただきたい。

 長期間の連載にお付き合いいただき、皆様には感謝申し上げる。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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