9月9日、午前8時過ぎ。カリフォルニア・クパチーノにあるフリントセンターは、世界中から集められたプレスで賑わっていた。そこにはIT業界を専門とするジャーナリストに加えて、ファッション業界で活躍するジャーナリストも多数集まっており、開場前の雰囲気は“いつもと違う”ものだった。
今回のプレスイベントは、異例続きだった。ここ数年、AppleはiPhoneやiPadの新製品発表会を国ごとに行っていたが、今回は世界中の主要なジャーナリストや各国キャリア首脳などVIPを本社のあるカリフォルニア・クパチーノに集めた。そして発表会の直前まで会場であるフリントセンターに厳戒態勢を張り、開場までの1時間あまりを見ても、Apple関係者がいつも以上の緊張感で準備をしていることが見て取れた。
「今日はAppleにとって特別な日だ」
今回、会場として選ばれたフリントセンターは、スティーブ・ジョブズが1984年に初代Machintoshを発表し、1998年に初代iMacを発表した場でもある。どちらもAppleにとって大きな転換点であり、そこを会場として使うということは特別な意味を持つ。筆者をはじめ開場を待つ人々は、それをひしひしと感じていた。
「今日はお話しすることがたくさんあるので、業績の近況についてまた機会を改めて話したい」
会場内に流れる音楽がフェイドアウトすると、鳴り止まぬ拍手と大歓声とともにApple CEO(最高経営責任者)のティム・クック氏が登壇する。ここまでは定石通りだったが、そこからは“いつもと違う流れ”になった。その代わりにクック氏が語り始めたのは、AppleがMachintoshやiMacを生み出し、そしてiPodを生み出し、iPhoneを生み出したこと。そして常に人々に対して、パーソナルコンピューティングの世界の扉を開き続けてきたということだ。
「iPhoneは今や最も身近なコンピューターであり、世界でナンバー1のスマートフォンである。そして何より大切なのは、iPhoneが最もユーザーが満足しているスマートフォンであることだ。そして今日、そのiPhoneの新製品を発表する」(クック氏)
キーノート開始から5分あまりで、早々に新型iPhoneが発表される。これも異例なことだ。最初にPVが流れ、画面サイズの異なるふたつのiPhoneが登場すると会場内から歓声が上がった。iPhoneシリーズの正当な後継モデルとなる「iPhone 6」と、画面サイズが拡大された「iPhone 6 Plus」である。
ティム・クック氏に代わり壇上にあがったApple ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィリップ・シラー氏は、iPhone 6とiPhone 6 Plusが単純にディスプレイを拡大しただけのものではなく、デュアルドメインピクセルなど最新のディスプレイ技術を実装し、「コントラスト比や視野角の拡大など見やすさに徹底的にこだわった」(シラー氏)ことを強調した。
AppleはRetinaディスプレイの導入時から、最新技術でスペックを高めることはもちろんだが、それ以上に“ユーザーにとって見やすいもの”であることを最重要視してきた。今回も同様で、スペックの数字にこだわるのではなく、デバイス技術とiOS側のソフトウェア技術をきちんと調和・連携させて、ディスプレイの進化によるメリットがユーザーにとって身近なものになるよう腐心したという。
「画面サイズを拡大すれば、当然ながら画面の端まで指が届かなくなる。そこでiPhone 6とiPhone 6 PlusではiOS側をチューニングし、ホームボタンをダブルタップすることで画面全体が下がるようにした。この操作はとてもすばやく、スムーズにできる。
またメールやメッセージなどiOSの標準アプリの多くがiPhone 6 PlusではUIデザインが(大画面化にあわせて)拡張されている」(シラー氏)
他方で、これまでAppleは画面サイズと解像度を大きく変えずに進化させ、アプリが開発しやすい環境構築にこだわってきた。これがAndroidのようにアプリ開発環境の「分断化」が起きず、素晴らしいユーザー体験ができるアプリがiOS向けに集中する要因だったのだが、iPhone 6とiPhone 6 Plusからは画面サイズと解像度が変則的なものになってしまう。
「iOS向けには130万もの優れたアプリの資産がある。我々の提供するソフトウェア開発キットを使えば、これらをiPhone 6とiPhone 6 Plusの画面解像度に対応させることは簡単だ。さらにiPhone 6 Plusの画面サイズに合わせて独自拡張をすることもできる。また、iPhone 6とiPhone 6 Plusの登場以前に作られたアプリに関しても、iOS 8が画面解像度の違いを吸収するため、ユーザーは違和感なく(そのアプリを)利用し続けることができる」(シラー氏)
このようにAppleはiPhone 6/6 Plus投入に合わせて、アプリ開発環境やiOS側で大画面化への対応準備を進めてきた。こうしたアプリのエコシステムや利用環境への配慮は、とても同社らしいところといえるだろう。
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