ぱっと見はiOS 7とそれほど変わってない? と思われがちなiOS 8。実は内部的には多くの変更がなされています。「iCloud Drive」もその1つ。利用するには古いiOSから手動でiOS 8にアップグレードする必要があり、まだ利用されていない方も多いのではないでしょうか。iCloud Driveの前身に当たる「Documents in the Cloud」との比較も踏まえ、見ていきたいと思います。
一言で言えば、Apple版Dropboxです。いわゆるクラウドストレージサービスで、対応しているデバイス間で、共通のファイル置き場として機能します。他にもGoogle DriveやBox、OneDriveなどのクラウドストレージがよく知られていますが、基本的には同種のサービスと考えて良いでしょうか。Appleのデバイスだけでなく、Windows 7以降を搭載したPCにも対応します。
余談ですが、Appleは2009年、スティーブ・ジョブスが直々にDropboxに買収の提案を行い、断られています。その結果生まれたのが前身のDocuments in the Cloudであり、このiCloud Driveと言えます。
前回ご紹介したHandoffと同じく、複数デバイスを使用される方に特に便利な機能ですが、Webブラウザからの利用もサポートされるのでMacを1台しか使用していない場合でも有用です。
「クラウドストレージってなんぞ?」という方もいらっしゃると思うので念のため。
クラウドストレージはその名前の通り、クラウドに置かれたファイル保管庫です。具体的にはAppleのサーバーに、Apple ID所有者全員分のファイル保管庫が用意されています。Apple ID単位で同じ保管庫を見に行きますので、複数デバイスを所有していても、同じApple IDを設定している限り、同じ内容が表示されます。
例えばMacのKeynoteでプレゼンテーションを作成し、iCloud Driveに保存すると、他のデバイスからもそのKeynoteファイルを参照することができます。クラウドストレージを活用することで、「あのファイル、家のMacにしか入ってない!」といった失敗を防ぐことができますし、Macで書きかけのPages書類を外出先でiPadで開き、続きを編集、といったことが可能です。インターネットに接続されている限り、全てのファイルは自動で同期されます。
容量は1アカウントあたり5Gバイトが設けられていますが、足りない場合は有料で増量できます。月額利用料金は以下の通り。
価格(月額、税込) | 無料 | 100円 | 400円 | 1200円 | 2400円 |
---|---|---|---|---|---|
容量(トータル) | 5Gバイト | 20Gバイト | 200Gバイト | 500Gバイト | 1Tバイト |
※2014年12月5日現在 |
なお、この容量はiCloud Drive占有ではなく、iCloudバックアップやApple IDのメールアドレス(xxx@icloud.com)とも共有ですのでご注意ください。
Documents in the Cloud(以下DIC)はiOS 5とOSX Lion(10.7.5以降)で導入されました。こちらもクラウドストレージなのですが、iCloud Driveと以下のような違いがあります。
サービス名 | Documents in the Cloud | iCloud Drive |
---|---|---|
動作環境 | iOS 5〜、OSX 10.7.5〜、ブラウザ | iOS 8〜、OSX Yosemite〜、Windows 7〜※1、Webブラウザ |
扱えるファイルの種類 | 限定的 | 何でも |
フォルダの自由な参照 | 不可 | 可 |
Finderとの統合 | なし | あり |
※Windows用iCloud 4.0をインストールする必要があります |
最も大きな違いは「フォルダの自由な参照が出来るか否か」だと思います。DICの場合、個々のアプリは指定された場所にしかアクセスできませんでした。例えばPagesだったらPages書類専用の保存場所、NumbersはNumbers専用の保存場所しか開くことができず、シンプルな反面プロジェクト単位でファイルをまとめるといった事はできませんでした。また、OSXのFinderとも統合されていなかったため、Finder上でのファイル操作も不可能でした。
iCloud Driveではその他のクラウドストレージサービスと同様、Finder(デスクトップ)から直接アクセスできるようになり、また各アプリがiCloud上の好きな場所を参照できるようになりました。これにより、DICでは難しかった「アプリAで作成し、クラウドに保存したファイルをアプリBで開く」ことが可能になったのです。少し特殊だったDICと比べ、「普通になった」とも言えます。
さらに対応ファイルの制限がなくなりました。WordでもPhotoshopでも好きなファイルをアップロードし、共有場所として利用できます。
iCloud Driveを利用するためには、各デバイスでiCloud Driveを有効にする必要があります。動作環境に満たないデバイスはiCloud Driveから排除されてしまうため、ユーザーが明示的に切り替える仕様になっています。具体的にはiOS 8未満、Yosemite未満、Windows 7未満のデバイスではiCloud Driveを利用できません。DICとiCloud Driveではサーバーが異なるため、互換性がないのです。
※2:DICのWindows版クライアントはなくブラウザを使用 |
上記を参考に、お持ちのデバイスでどれがiCloud Driveに対応するか、確認の上でオンにするようにしましょう。例えばiPhone 4や初代iPadはiOS 8を搭載できませんので、iCloud Driveの輪には入れません。その場合、引き続き全てのデバイスでDICを使用するか、古いデバイスには同期されないことを承知の上でiCloud Driveを利用することになるでしょう。
また、iWorkアプリでiCloud Driveを利用するには、それぞれ最新版にアップグレードする必要がありますのでご注意ください(Pages 5.5、Numbers 3.5、Keynote 6.5以上)。
オンにすると、DICに保存されていたファイルは全てiCloud Driveにコピーされますので、これまでのファイルが失われることはありません。また、一度オンにするとオフにすることはできません。
Yosemiteでは、「システム環境設定」→「iCloud」からiCloud Driveを有効にできます。
iOS8では、「設定」→「iCloud」から有効にできます。
さて、前置きが長くなりましたが一度オンにしてしまえば実際の使い方はいたってシンプル。対応するアプリで書類を作成しiCloud Driveに保存すると、他のデバイスから参照可能になります。
MacでiCloud Driveを有効にすると、Finderのサイドバーに現れるようになります。
表示される内容は環境によって若干異なります。Finderでは未使用のフォルダは自動的に非表示になるようです。上記例ではPixelmatorやSketchBookなど、一部サードパーティ製アプリでiCloud Drive対応のものも見えています。「ITmediaプロジェクト」の様に、任意のフォルダを作成することも可能です。
iCloud DriveはWebブラウザからも参照できます。iCloud.comにアクセスし、Apple IDでログイン後、「iCloud Drive」をクリック。ブラウザ版では未使用のフォルダも表示されるため、Automatorなどの項目が増えていることが分かります。
では、MacのKeynoteで何か作って保存してみましょう。
保存ダイアログの左手に、「iCloud - Keynote」と、「iCloud Drive」が見えます。前者はiCloud Drive直下のKeynoteフォルダと同じものです。ここではKeynoteフォルダの直下に、「ITmedia」というファイル名で保存したとします。
では、iPhone版Keynoteを起動してみましょう。同期が終わっていないとこの様に「アップデート中」と表示され、更新中のファイルにプログレスバーが表示されます。
同期が完了すると、iPhoneなどのiOS端末からファイルを開けるようになります。もちろん、通常通り編集や再生が可能です。
iPhone上で行った変更も自動的に同期されますので、他のデバイスでも常に最新版を開くことができます。
iCloud DriveはWebブラウザからもアクセスできることをご紹介しましたが、iWorkの書類はそのままブラウザ上で編集が可能です。Mavericks以前のMacや、Windows Vista以前のPC(あるいはWindows 用 iCloud 4.0が未インストールのPC)で書類を編集・確認したい場合に便利です。
では再度iCloud.comにアクセスしてみましょう。
Pages、Numbers、Keynoteのアイコンが確認できます。先ほどの続きを編集したいので、Keynoteをクリックします。
すると、iCloud Drive→Keynoteに保存されているファイルが表示されます。もし他のフォルダにあるKeynoteファイルを開きたい場合は、iCloud.comのトップからiCloud Drive経由で開くことができます。
編集したいファイルをダブルクリックで開きます。
その後はデスクトップ版iWorkとほぼ同様に作業することができます(一部使えない機能もあります)。ブラウザ上で行った変更も、他のデバイスに同期されます。Webブラウザ版固有の機能として、共有機能を使用した複数人での共同編集があります。
一般的なクラウドストレージサービスに近づいたiCloud Driveですが、DICの名残と思わしき仕様があります。フォルダによって受け付ける拡張子が限定されている点です。
保存ダイアログでiCloud Driveの直下を表示させると、グレーアウトされていて選択出来ないフォルダが存在します。これはファイルによって変わるようです。
以下はiCloud Driveに対応しているAutodeskのSketchBookアプリで、TIFFファイルを保存しようとしたところです。Numbers/Keynote/Automatorフォルダがグレーアウトしているのが分かります。
また同じくSketchBookアプリですが、拡張子をPXDにしたところ。上記に加えてPixelmatorフォルダもグレーアウトしました。
この拡張子によるアクセス制限はFinderにも適用されます。例えば上記で保存したPXDファイルを、Finder上でKeynoteフォルダに移動しようとしても受け付けられません。
この制限は子フォルダにもかかるので、プロジェクト単位でファイルをまとめたい場合はiCloud Driveの直下に新規にフォルダを作成し、その中で管理するのが良いでしょう。
iOS 8のリリースからまだ2カ月半。正直、先行するDropboxやGoogle Driveなどの競合と比べると、機能面でも安定性でも劣っていると感じます。特にFinderとの統合は、本家AppleよりDropboxの方が優れていると思います。すでに6年の歴史を持つDropboxと比較するのは酷かも知れませんが、本家の意地で頑張ってほしいところです。
ただ、無料で5Gバイト、月々100円で20Gバイトの保存容量はリーズナブルですし、特にiWorkを活用している場合には最強のストレージである事は間違いありません。また、機能が少ないということはシンプルで迷わないという長所にもなり得ます。
iWork書類はiCloud Drive、その他書類はDropbox、写真動画はGoogle Driveなど、使い分けを考えてみるのも良いかも知れません。
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