世界遺産「白川郷」で知られる白川村がKDDIと協定――地域活性化に向けたその中身とは?

» 2015年02月26日 23時16分 公開
[佐野正弘,ITmedia]

 KDDIは2月23日、岐阜県大野郡白川村と相互協定を締結し、共同で地域の活性化を推進すると発表した。白川村は世界遺産「白川郷・五箇山の合掌造り集落」を擁する観光の名所だが、その白川村が抱えている課題とはどのようなものか。またKDDIはその課題解決に向け、どのような取り組みを実施しているのだろうか。現地で取材した。

白川村の最大の課題は電波環境

 白川村は岐阜県北部の山間にあり、石川県、富山県に接する人口1710人の小さな村だ。1995年、同村に残る白川郷・合掌造りの集落が世界遺産に登録されて国内外から大きな注目を集めるようになり、現在では国内外から多くの観光客が訪れ、有数の観光地として広く知られるようになった。

 その白川村とKDDIが結んだ今回の協定は、白川村の地域活性化を推進するのが目的。KDDIは観光客のネット利用に対応するべく、基地局などのネットワーク環境を整備するほか、地域おこしや小中学生に向けた教育などでも協力していくとしている。この協定は排他的なものではないとのことだが、白川村にとっては非常に大きな意味を持つようだ。一体どのような理由から両者が結び付き、提携へと至ったのだろうか。

photo 左から、締結式に出席したKDDIの吉満氏、白川村村長の成原氏、そして白川村おこし協力隊の大倉氏

 人気の観光地を持つ白川村だが、村長の成原茂氏は同村がさまざまな問題点を抱えていると明かす。中でも最も大きな問題となっているのは、携帯電話の電波環境の悪さだ。白川村では、白川郷や村役場、人が住んでいる集落など、村内の主だった場所では各キャリアがネットワークをカバーしている。だが白川村は山間部にあるため、少し奥に入ってしまうと、途端に電波環境が悪くなってしまうという。

 白川村には白川郷以外にも、白水湖や平瀬温泉などさまざまな観光資源があるほか、石川県につながる有料道路「白山スーパー林道」(白山白川郷ホワイトロードに改称予定)沿いにも豊富な自然観光資源がある。だがそうした場所の多くは電波状態が悪いとのこと。現在では多くの観光客が、スマートフォンで写真を撮り、その場でSNSなどに投稿して楽しんでいることを考えると、観光客が不便な思いをしてしまうのは事実だろう。

 また携帯電話の電波環境が悪いということは、防災面でも深黒な問題を抱えていることを意味する。白川村は山間部にあることから災害と決して無関係ではなく、いざという時のための連絡手段は非常に重要だ。災害時は山岳救助隊の通信機器や衛星携帯電話を使うことも考えられるが、白川村は観光客も多く訪れることから、被災者が増えた場合は対応に限界が生じてしまう。そのため、携帯電話の電波がくまなく入ることが、とても重要な意味を持つのだそうだ。

電波環境実現の立役者は「地域おこし協力隊」

 しかしキャリアの立場からすると、利用者が少ない地域に基地局を建てても、コストと採算が合わないという事情もある。それゆえ各社は山間部など、地方の特に人が少ない地域でのインフラ改善には消極的で、要望を上げてもエリア化が進まないことが多い。

 そうした中で白川村の電波環境改善に手を上げたのがKDDIだ。KDDIの中部総支社長 兼 北陸総支社長 理事である吉満雅文氏によると、同社は協定を結ぶ以前より、通信環境の改善を進めてきたと振り返る。具体的には、アンテナの向きや高さを変えて調整したり、アンテナ自体の数を増やしたりするなどして、これまで圏外となっていた白山スーパー林道などのエリア化を進めてきたという。

 しかしながらこうしたエリア改善はアンテナの調整が主であり、基地局を新たに設置するなど大規模な投資をしている分けではない。もっと早く改善が進められてもよいように感じるが、やはり人の少ない山間部ともなると、キャリア側がその地域の要望をしっかり把握できなければ、設備投資による改善を進めるのは難しいという。

photo 白川村の白川スーパー林道付近に設置されているauの基地局。この基地局のアンテナを調整したことで林道のエリア化が進められた
photo 基地局付近は2メートル近い雪に覆われている。冬の積雪で埋もれないよう、合掌造り風の屋根を備え、さらに高床式とするなど工夫がなされているようだ
photo 村役場や食堂など、市内のさまざまな場所にauの4G LTEをアピールするステッカーが貼られている

 その気付きをもたらし、さらに協定の締結にまでに至ったのには、「白川村地域おこし協力隊」の存在が大きいという。地域おこし協力隊は、総務省が2009年より取り組んでいるプロジェクトであり、人口減少や高齢化が著しい地方に地域外の人材を誘致し、定住を図ることで地域の維持強化を図るというもの。白川村には2014年より地域おこし協力隊の着任が進み、現在は3人が活動している。観光資源開発やSNSなどを使った情報発信など、さまざまな活動を実施しているとのことだ。

 白川村地域おこし協力隊の大倉曉氏は、「(電波環境が改善されなかったのは)我々の声が届いていなかったのが大きかったのかなと思う」と話す。そこで大きな課題となっていた通信環境を改善するべく、協力隊が各キャリアに連絡を取って相談を進めてきた。その中で、改善に最も前向きな姿勢を見せたのがKDDIであり、白川村が抱える課題についても話し合いを進めた結果、今回の協定締結へと至ったのだそうだ。

観光振興から村民のIT環境整備へ

 白川村はKDDIの提携に関して、観光面での集客サポートにも期待を寄せている。先に触れた通り、白川村には白川郷以外にもさまざまな観光資源があるのだが、「知名度不足などから白川郷以外へのアクセスが広がっていない」と成原氏は話す。そのため温泉などへの宿泊につながらず、観光客が短時間で離れてしまうことから、客単価が上がらないと指摘されていた。

 今後はKDDIの「auスマートパス」などを活用して、集客に向けた取り組も進められる。すでにauスマートパスでは、2014年9月と12月から今年3月にかけて、白川村の観光施設利用に向けたクーポンを配信。その結果、合掌造り民家園での特製アイスクリーム提供数が、配信前の8月にはゼロであったのが、クーポン配信後は135個にまで増加するなど大きな成果をもたらし、集客に向け手応えを得た。

 さらに急増する外国人向けの対応として、ワイヤ・アンド・ワイアレスが展開している外国人向け無料のWi-Fiサービス「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」を提供。現在は村内の観光地2カ所のみの設置となっているが、将来的にはこちらの拡大も進められると考えられる。

photo 村内の主要観光スポット2カ所にTRAVEL JAPAN Wi-Fiを提供。この日はトラブルにより観光情報機能が動作しなかったが、インターネット接続は利用できた

 吉満氏は「今回の協定には2つの側面がある」と話している。短期的には観光振興に向けた取り組みが大きいが、中長期的には地域活性化に向け、住民による持続的な村の発展につなげるための、IT活用に向けた支援をしていく考えがあるようだ。

 そうしたことから今回の協定では、白川村のネットワーク環境整備だけでなく、村民のICTリテラシー向上に向けた支援も含まれている。具体的には、村内のコミュニケーションスペースへのスマートフォンやタブレットの無償提供、村内の小中一貫校に向けたタブレット端末の提供などIT環境整備、そして情報リテラシー教育などが検討されており、一部は既に進められているそうだ。

photo 白川村には携帯電話ショップがないことから、コミュニケーションスペースとなっている古民家にスマートフォンやタブレットを設置。実際の操作を体験できる環境を用意した

 成原氏は「今回の協定で、(KDDIと)もっと密に協力しながら地域活性化を進めていきたいという思いがある。KDDIとの連携は実直かつ実践的にできる期待がある」と話し、KDDIとの今後の取り組みに期待を見せている。地方創生に向けた取り組みが急速に進められるようになった昨今だが、今回の白川村とKDDIとの協定が、通信における“地方創生”の実現へとつながることを、大いに期待したい。

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