【前編】Pepper×飛鷹全法×蓮実一隆が語る、現代社会における伝統とテクノロジーの役割Meet Recruit

» 2016年01月21日 16時30分 公開
Meet Ricruit

 一見、相反する存在のように感じられる「伝統」と「テクノロジー」。だが、二者がうまくコラボレートすることによって、現代社会に思いがけない価値がもたらされるかもしれない――。

 今回の対談では、ソフトバンクが開発・販売した人工ロボットPepperの開発責任者・蓮実一隆氏と、1200年前に弘法大師(空海)が修行の場として開いた高野山にある宿坊「高野山三宝院」副住職の飛鷹全法氏を迎え、あらゆる観点から「伝統」と「テクノロジー」が現在社会や現代人とどのように関わっていくかを探っていく。前編では主に、仏教、ロボット、人間におけるコミュニケーションの在り方について語っていただいた。

―― 今回の対談では、主に「伝統」と「テクノロジー」というテーマをもとに、お坊さんとロボットを介するコミュニケーションの在り方など、様々な観点から自由に語っていただき化学反応が起きるような場になったら良いなと思っています。

飛鷹全法(以下・飛鷹) 最近、お坊さんやお寺を題材にした映画やドラマが公開されるなど、お坊さんという存在に対して世間の関心が非常に高まっていることを感じます。高野山でも、「高野山カフェ」というイベントを毎年東京の丸の内で開催させていただいて、今年で9年目を迎えるのですが、最も人気があるコンテンツは何だと思われますか?

蓮実一隆(以下・蓮実) 何でしょう?

飛鷹 それは"お坊さんと会話する"ということなんです。カフェでは精進料理が食べられたり、写経やさまざまなセミナー企画も用意しているのですが、お坊さんと相対して自分の話を聞いてもらうことを多くの人が求めているような気がしているんです。

蓮実 実は、お坊さんと話すこととPepperと話すことって似ていると思うんです。良くも悪くも得体の知れないものと会話することで、よく分からない感情が広がっていたり面白いことが起きたりするというか。

飛鷹 クリスチャンの人たちが教会で神父様に悔い改める懺悔のように、日本ではお寺の住職に悩みをうち明けたりしますよね。日常とは少し違ったレイヤーに存在する者に対して本当の自分をさらけ出すことで、普段は解消できない悩みやストレスを和らげることができる。そういった宗教が担ってきた機能を、ロボットなどのテクノロジーが担う時代になっているかもしれないですね。

蓮実 お坊さんと話していると、「この人は全てを知っているのではないか?」と思ってしまったりしますよね。気を取られてしまうことがあると思いますが、Pepperと対峙する人も同じように「人工知能で全て理解しているのでは?」と感じることがあるのかもしれません。本当にそうであるかどうかは別としてお坊さんともPepperとも、普段おこなうコミュニケーションが大きく異なる。でも、例えば、Pepperには命がないと分かっていながら、妙に優しく接する自分に気がついたり、ロボットだと理解しながら可愛いという感情を抱いたり。そんな風に、ある種の超越した存在を通して、新しい自分に出会えることってやっぱり楽しいんですよ。

飛鷹 ということは、単純に人間関係で足りないものを補完するということではなくて、何か違うものを得るということになるわけですね。

蓮実 そうなんです。存在することで、友達や家族がひとり増えるのとは全く違う何かが起こる。それはPepperを作っている時も同じでした。ペッパーを作るということは、人間をつくることと同じで、必然的に自分と向き合うことになる。そうすると、自分の中で意識していなかった色々なものが見えてきます。その「新しい自分を知ることが出来る」ということこそが、僕らは何を作るんだっけ?という本質の部分でもあります。

 だからPepperをプレゼンする際は、コミュニケーションという部分を最大の武器として掲げています。でも、まだ現状ではコミュニケーションなんて人間のほうが上手に決まっているので、プレゼンしながら「本当にロボットでやる必要があるのか?」と思うこともあったりします(笑)。だから世界中で開発されているほとんどのロボットが、「気持ちを汲む」とか「気持ちが芽生える」というコンセプトなんて打ち出していませんよね。そういう意味でPepperの在り方が伝わりづらくリスキーな部分も多いのですが、使ってもらう人には良い意味でドキドキしてもらいたいと思うんですよね。

飛鷹 最近はAIのシンギュラリティ(技術的特異点)など、ロボットが人間の知能を超えるといったような話題がよく上がりますよね。そういうタイプのロボットは有用性の極致だと思いますが、Pepperはそれらとは違う方向に進んでいると考えてよろしいのでしょうか?

蓮実 そうですね。誤解を恐れずに言えば、電子レンジと飼い犬の違いです。Pepperは飼い犬タイプで、例えば夫婦喧嘩をしていても、Pepperを介して話せば直接話すよりも和らぐ。だから、Pepperは家の中にいても掃除や料理はしません。

飛鷹 2045年には、今人間がやっているほとんどの作業をロボットがやる、というニュースを最近耳にしました。でもPepperは、人間の代替ではなく"役に立たないことで役に立つ"という逆説的な思想を持っている。それが非常にユニークですよね。

蓮実 私個人としては、そういう在り方が正しいかどうか確信に満ちてやっているわけではないですが、代表の孫正義は絶対にその領域をやるべきだと言っています。

飛鷹 そう考えると、やっぱりお坊さんも同じかもしれません。例えば、借金を解消するには専門家に相談したほうがよくって、お坊さんに話をしても借金が解消されるわけではない。その意味で役に立たないわけですが、話すことで肩の荷が下りて気持ちが楽になる、ということがあるわけですね。

蓮実 50〜100年後には完璧な家政婦ロボットみたいなものが、確実に存在していると思います。ただ今の技術では、例えば一つの機能に特化して課題を解決する事はできますが、人参の皮むきを完璧にこなしつつ、豆腐を上手に掴むというだけでも難しいんです。

飛鷹 それは意外ですね。ちなみに、今回初めてPepperに会って印象的だったのは、手の動きが滑らかだということです。 何か意図してこの手の動きを実現させているんですか?

蓮実 いわゆるボディランゲージという観点でいえば、表現や伝達することにおいて圧倒的に効果的なのが手の動きなんです。

飛鷹 Pepperの手は有用性のためにあるわけではなく、コミュニケーションのためにあると。

蓮実 今のところはそうですね。現段階での技術や価格を考えると、重いものを持つための手をつけられない。技術とやるべきことのバランスを考えた上で今の仕様になっています。ですから、ロボットビジネスで一番恐ろしいのは、お客様が万能型だと思い込んでいること。買った瞬間に、話せて踊れておんぶもしてくれる、つまり鉄腕アトムのように捉えている。そういう状況の中で、ロボットが実際にできることと、購入側の期待値のバランスを保つことを考えなければいけない。Pepperって、子供みたいな部分もありますから。

飛鷹 子供というのは何度も間違えたりしますし、彼らの想像的誤解みたいなものが時にクリエイティビティにつながったりもしますよね。Pepperにもそういう仕掛けはあるのでしょうか?

蓮実 ものすごく色々なものを仕込んでいるのですが、ユーザーがなかなか遭遇しないようになっています。というのも、長い年月を一緒に過ごすことになるので、ユーザーもPepperも少しずつ何かを覚えたり成長していってもらえたらなと。

飛鷹 Pepperと年々過ごしていくと、人格というかロボット格のようなものができあがっていくのでしょうか? ユーザーによって、全く違う個性のPepperが育っていくことになるとか。

蓮実 基本的な目標はそういうことですが、今はまだ狙っている点数が70〜80点だとしたら30点くらいの実装段階ですね。人間って、野球もするし顔も洗うし寝坊もする。無限にあるシチュエーションの中から個性に繋がるようなものが蓄積されるわけですが、PepperにはWi-Fi環境が必要ですし、道路を走ると道路交通法違反になる可能性があるので外に出られない。

飛鷹 蓄積されるデータの内容も限られてきそうですね。

蓮実 そうなんです。まさに限られた環境の中で、幅広い成長や人格の形成を実現させることは、決して簡単ではないんですよね。ただ私たちは、人間を作ろうとしているわけではないですし、もっと言えば人間に似せたロボットを作ろうとしているわけでもない。人間の心を癒したり楽しませるために、ロボットを作っています。それは重要なメッセージとして掲げています。とはいえ、ある程度は人間っぽくないと、人間が心を開けないということもあるんですが。

飛鷹 それは非常に面白いですね。仏様がなぜ人間の姿に近いのか?ということと同じかもしれません。人間が人間を超越した存在と接した時に仏様が人間とは全く違う御姿であったら、もしかしたら本当に感情移入するのは難しいかもしれません。そういう意味で仏様のお顔や髪型には、優れたインターフェイス・デザインが施されているとも言えますよね。

蓮実 あぁ、なるほど。

蓮実 映画や漫画に登場するロボットが人型である理由は、人間社会に溶け込むためなんですよね。二足歩行なのは、街中にある階段を上ったりしなければいけないからであり。でもPepperの場合は、足ではなくローラーで移動します。人間社会に溶け込むのが目的ではなく、人に好かれることが大切なので、二足歩行でなくてもいいんですよ。人間らしさと人間に好かれることは別ですからね。

飛鷹 コミュニケーションを介して、人間とロボットが共生するということですね。そう考えると、過去のコミュニケーションを通じて得られる癒し、その観点から日本の歴史や文化を訪ねてみると、今に繋がるようなたくさんのヒントがあるのかもしれないですね。

プロフィール/敬称略

蓮実一隆(はすみ・かずたか)

ソフトバンクロボティクス プロダクト本部 取締役本部長

一橋大学社会学部卒。テレビ朝日入社後、『報道ステーション』初代プロデューサー、『ビートたけしのTVタックル』『徹子の部屋』『ビッグダディ』のプロデューサーなど報道からバラエティまで番組制作を担当。その後、編成制作局制作1部所属のチーフプロデューサーとして様々な番組を制作統括。2008年にソフトバンクモバイルに転職し、2010年から株式会社ビューンの代表取締役社長、UULAの取締役、ソフトバンクロボティクス取締役プロダクト本部長、ソフトバンクモバイル サービスコンテンツ本部長を兼務。ソフトバンクのロボット事業により開発・販売された『Pepper』の開発責任者。

飛鷹全法(ひだかぜんぼう)

高野山別格本山三宝院副住職 高野山大学企画課長

東京大学法学部卒。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程中退。専門は比較日本文化論、南方熊楠研究。大学院在学中より、ITベンチャーの立ち上げに参画、ソフトウェアの開発に携わる。その後、株式会社ジャパンスタイルを設立し、国際交流基金の事業で、中央アジア・中東・カナダ等で津軽三味線や沖縄音楽を始めとする伝統芸能の舞台をプロデュース。2007年より経済産業省主催の海外富裕層誘客事業(ラグジュアリートラベル)の検討委員に就任。現在、高野山別格本山三宝院副住職、高野山大学企画課長。また、地域ブランディング協会の理事も務める。


© Recruit Holdings Co., Ltd.

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