2015年11月のMVNO(仮想移動体通信事業者)のデータ通信用SIMは、上り通信容量の制限がない法人向けサービスや、1日(24時間)単位で通信容量制限を設けた通信サービスなどが注目トピックとなった。
年をまたいだ2015年12月と2016年1月のデータ通信用SIMでは、サービスの“個性”を競うような流れが見受けられた。さっそく振り返ってみよう。(記事中の料金は、特記のない限り税別。2016年1月31日までの情報をもとに掲載)
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)が注目される昨今において、特定機器に特化したMVNOサービスは、今後増加傾向にあると思われる。前回の定点観測で紹介した「CamCast Mobile」は利用シーンに特化したサービスだったが、12月にはPC、1月には「スマホ機能内蔵デジタルカメラ」と、機器に特化したMVNOサービスが相次いで発表された。
VAIOがMVNOとして提供するプリペイドSIMカード「VAIOオリジナル LTEデータ通信SIM」は、機器に特化した通信サービスの1つだ。同社のモバイルノートPC「VAIO S11」で利用することを前提にしたもので、NTTコミュニケーションズがMVNE(※)としてVAIOを支援する。単品購入も可能だが、VAIO S11とセット購入すると特別価格で購入できる。
※Mobile Virtual Network Enabler:MVNOの業務を代行する事業者。自社ブランドでMVNOサービスを展開している場合もある
この通信SIMは、1〜3年の期間内で32〜128GBの高速通信が可能で、上下200kbpsの「常時接続モード」では通信容量無制限で使えることが特徴だ。VAIO S11は、Windows 10の「Connected Standby」に対応しており、スリープ中でも定期的にデータ通信を行える。「普段は速度出なくて大丈夫だけど、年に数回は高速な通信が必要」とか「低速でも構わないから、PCを開いたらすぐメールチェックをしたい」といった用途には最適なSIMカードといえる。
パナソニック コンシューマーマーケティングのMVNOサービス「Wonderlink」に、「Lシリーズ」というデータ通信専用プランが2月下旬に登場する予定だ。データ通信容量が3GBの「L-3Gプラン」は月額1480円、5GBの「L-5Gプラン」は月額1980円だ。
Lシリーズの「L」は、パナソニックのデジタルカメラ「LUMIX」のLである。LUMIXにはLTE/3G/GSM通信機能を備える「LUMIX CM1」「LUMIX CM10」が存在する。WonderLink Lシリーズは、これら2機種専用のSIMカードで、上りの通信容量制限を設けていない。まさしく、通信機能付きデジタルカメラに最適な1枚となっている。
今後、MVNOサービスにおいて、「特定」は大きなキーワードになるかもしれない。
ケイ・オプティコムが、12月17日に「mineo」で「フリータンク」というサービスを開始した。余ったデータ容量を「タンク」に入れて他のユーザーに使ってもらったり、逆にデータ容量が足りなくなったら「タンク」に入っている他のユーザーのデータ容量を付きに2回、計1GBまでもらうことができるというサービスだ。
注目すべきポイントは、容量をもらえる期間を毎月21日から末日までに設定していることだ。ちょうど、「あ、パケット(データ)が足りない……。どうしよう?」とやりくりに悩む頃合いだ。一方、預け入れる側の期間に制限はないものの、「あ、先月繰り越したデータ容量を使い切れない……。もったいないなぁ」と思う時期。パケットが足りない人と余らせている人、双方にとって「Win-Win」な関係を構築できるサービスとなっている。今後、このサービスに追随するMVNOが現われるか、注目したい。
スマートモバイルコミュニケーションズのMVNOサービス「スマモバ」に、「NIGHT PLAN」(月額1980円から)と「PREMIUM PLAN」(月額2480円から)が登場した。NIGHT PLANは1時〜9時の間、PREMIUM PLANは1時〜17時の間は無制限で高速通信が可能となっている。いずれのプランも、データ通信専用時間外の通信速度は上下128kbpsに制限される。
生活の「中心」となる時間帯に合わせてプランを選択すれば、より安い料金で、通信容量を気にせずに高速通信が楽しめるという意味では画期的なプランだ。高速通信できる時間帯を自由に選択できるともっと良いとは思うが、それでもこの「一歩」は見逃せないところだ。
2015年12月25日発売の「デジモノステーション 2016年2月号」(エムオン・エンタテインメント刊)に、ソネットのデータ専用SIMカード「0 SIM(ゼロシム)」が特別付録として同梱された。このSIMカードは、月間500MB未満の通信容量であれば、ユニバーサルサービス料金も含めて「0円」で利用できることが最大の特徴で、デジモノステーション 2016年2月号は、あっという間に書店から姿を消すほどの人気となった。
この雑誌の発売当初、0 SIMの一般提供は未定だったが、契約時に確認できる規約類に「データ+SMS対応プラン」と「音声通話対応プラン」という文言が存在したことから、一般販売に対する期待が高まった。そして2016年1月26日、これらのプランを含むかたちで0 SIMの一般販売が始まった。
データ+SMSプランは月額150円から、データ+音声プランは月額700円から利用できるが、データ専用プランとは異なりユニバーサルサービス料金が別途かかる。それでも、記事執筆時現在では、SMS対応データSIM(と、音声通話対応SIM)では維持費は最安値となる。ただし、データ専用プランとデータ+SMSプランは、契約から3カ月間連続で全くデータ通信をしなかった場合に自動解約となることには注意したい。
実は、日本通信も「基本料0円SIM」というデータSIMを以前販売していた(現在は販売を終了)。基本料0円SIMは“全く”通信しなかった場合のみ0円になるのに対し、0 SIMは500MB未満の通信量なら0円なので、採算を確保することが難しいように見える。500MB以上通信するユーザーが一定数以上いることを想定していると思われるが、0 SIMがいつまで提供されるのか、そして他のMVNOが追随するのか、目が離せないところだ。
年末年始を挟み、単純に価格の安さを競うのではなく、価格に対する「妥当性」を競うフェーズへの移行を感じさせるMVNOサービス。単なる「格安SIM」というだけではユーザーが振り向かなくなりつつあることを感じる動きだ。
もっとも、ソネットの「0 SIM」のように価格で勝負するサービスもある。ただし、単純に既存プランを「値下げ」をする旧来のやり方ではなく、既存サービスと並行する新サービスとする手法を取っている。
「新たな需要」を作り出すべく、MVNOも試行錯誤をしている。2016年は、どこまで「予想外」が広がるのか楽しみだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.