5月は、ケイ・オプティコムが「mineo」で9月からドコモ回線SIMも提供することを発表したり、「ぷららモバイルLTE」のプラン改定に、「DMM mobile」が対応値下げを行ったりしたことが大きなトピックだった。
6月は、新たなKDDI(au)回線を利用するMVNOが登場したり、パッケージが非常に特徴的な「5段階定額」SIMカードが登場したり、キャンペーン提供されたプランに最安値を更新された“あの”MVNOが対抗値下げを表明したりと、話題に事欠かなかった。さっそく振り返ってみよう。(本文中の価格は、特記がある場合を除いて税別。6月30日までの情報をもとに作成)
KDDIの子会社であるKDDIバリューイネイブラー(KVE)。au回線を利用するMVNOサービス「UQ mobile」を自ら提供しているKVEは、MVNE(Mobile Virtual Network Enabler)として、au回線を利用するMVNOを支援することも事業のひとつである。
2015年6月、MVNEとしてのKVEに動きがあった。島根県出雲市のほぼ全域でケーブルテレビサービスを提供している出雲ケーブルビジョン(ICV)のMVNO通信サービス「ICVモバイル」に、KVEのモバイルサービス基盤が提供されたのだ。
ICVモバイルのサービスは、専用窓口が用意されることを除くと、KVEが提供するUQ mobileと全く同等である。料金プランも同じなら、端末セットで提供されるスマホの機種や価格も同じで、ICV独自の特典はない。
一方、ドコモ回線を利用するMVNO通信サービスを、MVNEを介して提供している企業では、MVNEとは異なる料金プラン、サービスや特典を用意していることも少なくない。DMM.comの「DMM mobile」はその典型例で、MVNEであるインターネットイニシアティブ(IIJ)が自ら提供する「IIJmio 高速モバイル/D」では設定されていない容量のプランがあり、同一容量のプランでも価格設定が異なっている。さらに、DMM mobileでは、毎月DMMポイントが還元される特典も付いてくる。
ICVモバイルがUQ mobileと全く同じサービスになったのは、コスト抑制と、迅速なサービス開始の両立を目指した結果であると筆者は考えている。今後、ICV独自要素が追加されるのか、そして、今後登場するであろうKVEのサービス基盤を利用した新しいMVNOサービスが、どれだけ独自要素を盛り込めるのか、注目したいところだ。
日本におけるMVNOの草分けである日本通信。ここしばらくはサービス・料金の両面で驚きを与えることは少なかったが、6月5日に発表した「b-mobileおかわりSIM 5段階定額」(以下、おかわりSIM)は、久々にインパクトを感じるサービスとなっている。
おかわりSIMは、商品名にあるとおり月額料金が5段階制になっていることが特徴で、最安値(1段階目)の500円では、月間1Gバイトの高速データ通信ができるようになっている。以後、1Gバイトを使い切るごとに250円が“おかわり”として課金され、5段階目の1500円(月間5Gバイトの高速データ通信)が請求上限となる。5Gバイト以上通信すると、“ダイエット”として、上下200kbpsに通信速度が制限されるが、既存のb-mobile SIMで提供されている「Turbo Charge」を“食べる”ことで、100Mバイトまたは500Mバイト単位で高速データ通信を行うことができる。
おかわりSIMは、“節食”して通信容量を1Gバイト、2Gバイトに抑えると、「業界最安値」をうたう「DMM mobile」の1GBプラン・2GBプランよりも安価になることも注目を集めた。パッケージ・価格両面で大きなインパクトを与えるサービスであったと言えるだろう。
6月は、ニフティのMVNOサービス「NifMo」で、サービスの拡充の動きが活発だった。
まず、7月利用分から、当月に利用しきれなかったデータ通信容量を、翌月を限度に繰り越せる「データ繰り越しサービス」を提供する。また、8月1日からは、3G端末でもデータ通信できるようにするため、「3G専用APN設定」を追加する。
6月22日には、月額640円で月間1.1Gバイトまで高速通信ができる「1.1GBプラン」をプロモーションプランとして提供を開始した。有料オプションを追加することで、SMSや音声通話に対応することも可能だ。このプランは、開始当初はDMM mobileの1GBプランよりも20円安いうえ、100Mバイト多く高速通信できることで注目を集めた。
そして、6月26日には、Amazon.co.jpや家電量販店などで購入できる「SIM入りパッケージ」を発売した。従来のNifMoのパッケージは、オンライン手続き後、ニフティからSIMカードが送付されてくる仕組みだったが、このパッケージではオンライン手続きが完了すれば、すぐに通信を始めることができる。
ニフティがNifMoのサービス拡充を矢継ぎ早にしているのは、競合のインターネットプロバイダーがMVNOサービスを真剣に拡充する中、同社が何もしないわけにはいかなくなったからであると筆者は推測している。サービスが改善する方向で競争が行われるのであれば、大歓迎だ。
「全プラン業界最安値」をうたうDMM.comのMVNOサービス「DMM mobile」。6月は、まず日本通信の「おかわりSIM」における1Gバイト・2Gバイト利用時の料金に、次いでNifMoの1.1GBプランに、それぞれ最安値のタイトルを奪われてしまった。
おかわりSIMは、DMM mobileでは提供されていない段階制定額プランなので、追随の有無に注目が集まったが、結局追随しなかった。同一容量で最安値を更新されても、プランの組み立てが異なる場合は、対抗値下げしないということがこれで明らかになった。自分のレストランで取り扱わないメニューは、おかわりするぐらい“おいしくても”取りそろえない、ということなのだろうか。
一方、NifMoの1.1Gバイトプランは、DMM mobileと同じく月額固定料金制であるものの、一時的な提供にとどまる可能性のある「プロモーションプラン」であることから、筆者は追随しないと思っていた。しかし、DMM.comはこのプランには対抗する値下げを7月2日に実施し、1GBプランが30円引きの630円となる。これにより、NifMoの1.1GBプランよりも10円安くなり、業界最安値を取り戻すことになる。
自分のレストランで取り扱うメニューは、たとえ“期間限定”メニューであっても、ライバル店に対抗して値下げをする、ということだろうか。確かに、期間限定メニューが、レギュラーメニューに“昇格”することはよくあることなので、対抗しても不自然ではない。
ともあれ、料金の値下げは、ユーザーにとしてはうれしいので、ひとまず歓迎したいところだ。しかし、5月の音声通話編でも触れた通り、「レッドオーシャン」(血で血を洗うような、激しい競争状態)化が進むと、MVNO自身だけではなく、MVNO回線を使っている私たちにも避けられない“悪影響”が出てくるのではないかと心配になってくる。そろそろ、価格だけにとらわれない競争軸をうちたてないと、みんなアンハッピー(不幸せ)になりそうだが、どうハッピー(幸せ)な方向に持っていけばいくべきなのかな……と、たそがれ時に思い悩む筆者であった。
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