MVNOの急拡大を受け、SIMロックフリーのスマートフォンも徐々にシェアを上げている。MM総研の調査によると、2015年上期の出荷台数は66.8万台。スマートフォン全体の中で、5%を占めるようになった。この市場を“黒子”として支えるのが、ディストリビューター(卸売業者)だ。
キャリアが販路の大半だった日本の携帯電話市場ではあまり一般的ではないが、欧州やアジアでは、メーカーと販売店をつなぐ流通を担う企業として、ディストリビューターが大きな力を持っている。Mobile World CongressやIFAなどのイベントでも、こうした会社が出展し、さまざまなメーカーのラインアップを披露することが一般的だ。
シネックスインフォテックも、そうしたディストリビューターの1社である。同社は、米国に拠点を置く企業で、日本ではPCなどの機器を扱っていた。MVNOの台頭を受け、SIMロックフリースマートフォンにも注力しており、ASUSのZenFoneシリーズなどの流通を担当している。こうしたディストリビューターが日本でどのような役割を担い、今のSIMロックフリー市場をどう見ているのか。
同社のプロダクトマネジメント部門 モバイル&ホームエレクトロニクス本部 モビリティプロダクト部長 佐藤正隆氏に、お話を聞いた。
―― 最初に、シネックスインフォテックさんが、日本でどのような役割を果たしているのかというところから教えてください。
佐藤氏 メインのビジネスはPCやソフトの流通、その卸売りで、多くは海外ベンダーを相手にしています。HP、Lenovo、ASUS、Microsoftだったりで、今は時代がクラウドに変わっていますが、サービスの卸売りもしています。PCに関しては、Windows 95や98の時代から流通に関わっていて、中には国産のベンダーもありますが、主力は海外です。販売先としてはリセラーさんとよばれるところで、家電量販店、イーコマース、SIerだったりと多岐にわたります。
直近では、SIMフリースマートフォンやタブレットの流通量も増えています。MVNOさんのような通信事業者への販売も顕著に増えていますね。
―― SIMフリーのスマートフォンを始めたきっかけは、どういったところだったのでしょうか。
佐藤氏 最初は、7型のタブレットが出回ったときです。Wi-Fiモデルが主流でしたが、その別バージョンとしてSIMフリーのモデルがありました。当時は並行輸入で技適が取れていないものもたくさんありましたが、私たちはきちんと技適を取得したものを国内流通させようとしたのが始まりです。
―― その端末とは?
佐藤氏 ASUSさんの「Nexus 7」ですね。
―― なるほど。分担としては、御社はどのようなことをやっているのでしょうか。
佐藤氏 まず、技適がきちんと取得できているか。周波数帯の確認と告知も行っています。リセールの方々に、こういう周波数帯で使えるという告知をすることも含めて、流通体制を整えました。
―― そこから、スマートフォンに至る流れを教えてください。
佐藤氏 アクセスデバイスとして、ダウンサイジングは必然です。当初はSIMフリーの携帯電話を売るというイメージで始めていましたが、徐々にアクセスデバイスとしての用途が広がってきました。当時はSIMもデータ通信専用のものしかなかったころですが、MVNOの方々と協業して、端末も流通させています。
―― メーカーに対してのアピールポイントはどこにありますか。御社に流通を任せるメリットを教えてください。
佐藤氏 初めて参入されるメーカーさんにとっては、私たちが持っている情報は役に立つと思います。情報の中には、技適やMVNOとのパイプなどもありますが、例えばAPNのリストも私どもが最初にメーカーさんに依頼して始めたものです。また、そもそもの販売計画を一緒に立案するところからやっています。ほかには、コンシューマー向けのプロモーションだったりも一緒にやらせていただくことがあります。
また、法人向けのキッティングもやっています。アプリのプリインストールだったり、APNの設定だったり、取説や同梱品のセット、SIMを挿して出荷するというところまでをやっています。
―― APNのリストまで(笑)。
佐藤氏 SIMフリーの1つのハードルでしたからね。ユーザーさんが(APNの情報を)自分で入力しなければならないのが、MVNOの悩みの種でした。だったら最初からOSに入れてしまえばいいという、単純な発想です。数社MVNOともパイプがあり、お話をしたところ、もろ手を挙げて賛成していただけました。同時に端末の動作検証もやっていただき、よければリストに入れようとなったのが最初です。
ただ、本当のところを言えば、SIMカードを挿したらOTAでAPNリストが降ってくるのが理想です。MVNO委員会や総務省ともいろいろやっていますが、そこまでいったらユーザーの負担もなくなるのではないでしょうか。
―― 担当されているのは、例えば、どんなメーカーさんがありますか。
佐藤氏 ASUSやALCATELさん(TCL Communications)ですね。Coviaさんに、FREETELさんも立ち上げ当初からやっています。最近では富士通さんや京セラさんも担当しています。
ありがたいことに、最近では法人用途も増えてきているので、サービスのところと一緒に、「端末もいかがですか?」ということもしています。
―― 単に作って納品するというだけではないということですね。
佐藤氏 メーカーさんと一緒になって、国内マーケットを作るところからやっています。その点では、他社さんより経験があると思います。
―― 海外メーカーが多いとのことですが、日本語化についてはいかがでしょうか。
佐藤氏 過去何社か、日本の立ち上げに携わっていますが、OSを適切な日本語に変えるというのも、実は後ろでやらせていただいています。そのまま持ってきて、Google翻訳で出てくるような日本語だと、やはり私どもからすると「おかしい」と感じることがあります。そういった細かい部分を変えたりすることもやっています。
OSだけでも、多いときは5万行になりますからね。アラートやメッセージなどさまざまです。それでもやはり漏れはあり、発売されたもののフィードバックを見て、OTAでアップグレードしたりということもあります。
―― そういったカスタマイズが入っていると、安心感が違いますね。
佐藤氏 それをやらずに安いというのは、日本だと通用しませんからね。あとは取説も作ったりしています。弊社もオリジナルのプロダクトを、過去に端末以外でやってきています。そういったナレッジや、データベースもあります。例えば、保証書1つを取っても、海外だと「なくていい」というところがありますが、日本ではどうしても紙で提供しなければならない。クイックガイドに画像を入れて、「ここをタップ」というような簡単で分かりやすいものも作ります。
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