ソフトバンクは3月9日、最新の災害対策装備を使った臨時基地局の設営訓練を行った。訓練は社内公募した災害時復旧要員が参加。普段は携帯電話とは別の事業に関わる専門外の人員が、災害時の活動内容を確認した。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、4000以上の同社基地局が被害を受けた。その後のエリア復旧で活躍したのが、衛星回線を使った臨時基地局だ。ソフトバンクは震災時の教訓から、移動基地局車を100台、さらに可搬型の基地局を210台に増強し全国に配備している。
もう1つの教訓が基地局を復旧させる人員の確保だ。大規模災害で多くの基地局が停波した場合、現地で復旧作業を行う技術部門の人手不足が問題となる。ソフトバンクでは社内の別部署から公募で志願者を募り、災害時に復旧要員を増やせる体制を整えた。同社 大規模災害対策準備室の黄木寛之室長は、「どんな災害でも停波しない基地局を作るのは難しい。それならば1秒でも早く電波をつなげるようにしたい」と説明する。
公募要員と呼ばれる彼らは現在240人おり、普段はグループ内のさまざま部署で勤務している。全国で定期的に訓練を行い、災害が起きた場合は事前のマニュアルに沿って防災拠点に集合。全国に14箇所ある災害対策倉庫から、復旧支援用の機材を携えて被災地に向かう。東日本大震災以降では、2011年8月に紀伊半島で起きた台風12号による豪雨被害、2015年9月に茨城・栃木・宮城で発生した関東東北豪雨で本格的に出動した。
専門外の公募要員が増えたことから、災害時に使う機材の見直しも進んでいる。例えば可搬型基地局は、少人数でも運搬・設置できるよう軽量化した。現在の主な可搬局はシステム全体で120キロあり、分割状態から90分程度で組み立てられるが、最近導入した最新型は全体で96キロとさらに軽い。分割すれば30キロ程度のパーツに分かれ、「女性1人でも設営でき、梱包状態なら宅配便で送ることもできる」(災害対策室運用管理課の米原裕雄課長)ほどコンパンクトだ。こうしたダウンサイジングは、自衛隊などの装備で空輸する場合も考慮しているという。
もう1つが、通信衛星を自動で捕捉する仕組みの導入だ。被災地に展開した可搬局は上空の通信衛星と接続しないとサービスを提供できない。しかし地上のパラボラアンテナを微調整して衛星を捉えるのはベテラン技術者でも時間がかかり、専門外の人員にはさらに難しい作業だという。そこでソフトバンクは国内キャリアとして初めて、自動で衛星を補足する可搬型基地局を配備した。電源を入れてボタンを押せば、後はアンテナが自動で動いて衛星を補足、回線が開通する。
そして基地局を動かす電源にも新技術を取り入れた。停電したエリアで可搬局を使う場合、ガソリンや軽油を使う発電機が電源になる。しかし被災地では燃料の確保がままならないことも多く、避難所に近くでは深夜の騒音にも配慮しなければならない。そこでソフトバンクは、電気自動車の技術を取り入れたというバッテリー内蔵のポータブルAC電源を配備した。キャスター付きで小型キャリーバックそっくりなこの電源は、1つで可搬局を約6時間ほど駆動できる。並列で増設すれば、さらに長時間の電源供給が可能だ。
こうした可搬局は、1局で携帯電話やスマートフォンの音声通話を13回線程度提供できる。3G/LTEのデータ通信も可能だが「普段の4G通信のような速度は期待できない」という。使う周波数帯域は2GHz帯のみで、いわゆるプラチナバンドと呼ばれる900MHz帯は使えない。まずは一刻も速くエリアを復旧するのが目的で、本格的なエリア復旧はその後に行うことになる。
携帯電話キャリアの災害対策と言えば、どうしても基地局や伝送路といった設備面での対策に目が向く。ソフトバンクの公募要員制度と、いわば素人でも扱える可搬局の導入は、非常時の運用面にフォーカスした事例といえるだろう。訓練を終えた大規模災害対策準備室の田中幸男氏は、「われわれの強みは機動力。東日本大震災の教訓から、設備や物資だけでなく人員の面でも体制を見直した。これからも機動力を生かして、早期復旧にこだわっていきたい」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.