一問一答完全収録 NTTグループのブロッキング、なぜ実施?(1/2 ページ)

» 2018年04月26日 16時15分 公開
[井上翔ITmedia]

 NTTグループの通信事業者3社(NTTコミュニケーションズ・NTTドコモ・NTTぷらら)が、マンガや動画の「海賊版(無断転載)」サイトに対するブロッキングを実施する方針を発表した。

 この方針は、政府が打ち出した「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策(案)」(PDF形式)に基づく措置。しかし、この手法はブロッキングを“する”側が法的リスクを負うなど、問題点もある。

 そもそも「ブロッキング」とは何なのか。そして、それの何が問題なのか。そして、NTTグループはなぜ自らにリスクが降りかかるような方針を取るのだろうか。

NTTのリリース NTT(持株会社)とグループの通信事業者3社が発出したニュースリリース

「ブロッキング」とは?

 ブロッキング(Blocking)は、その名の通り何らかの手段で、ユーザーがリクエストしたサイト(接続先)に接続させない措置のことで、主に以下の方法がある。

  • パケットフィルタリング
  • プロキシフィルタリング
  • DNSブロッキング
  • ハイブリッドフィルタリング

 パケットフィルタリングは、通信設備内でユーザーのパケット(データ)通信の内容を解析する手法。一部のMVNOサービスの「カウントフリー」(特定のサイト・アプリの通信料金を減免するサービス)でも使われているが、「特定のサイト・アプリの通信を遮断する」という実装にすればブロッキングにも使える。

 ただし、設備投資に費用がかかるという課題がある。

 プロキシフィルタリングは、ネット接続時に経由するプロキシ(代理)サーバにおいて通信状況をチェックする手法。一般には企業でネット通信を監視する際に使われることが多いが、「特定サイトへのアクセスを検知したら接続を拒否する」という設定をすればブロッキングを実現できる。

 しかし、別のプロキシサーバを経由すれば「回避」できてしまう可能性がある。

 DNSブロッキングは、URLとIPアドレス(サイトの実住所)を結び付ける「DNSサーバ」において、特定のURLに対応するIPアドレスを返さない(あるいは別のIPアドレスを返す)ことでサイトへのアクセスを遮断する手法で、今回NTTグループの通信事業者はこの方法を採用する。

 だが、IPアドレスを直接指定してアクセスすると「回避」できてしまう可能性がある。だからといってIPアドレスを使ったブロッキングを併用すると、別のURLに対するアクセスも「巻き添え」を食らう形でできなくなる可能性もある。

 ハイブリッドフィルタリングは、フィルタリング手法を複数組み合わせることで、より確実にブロッキング(フィルタリング)を行う方法だ。

DNSブロッキングの仕組み 今回、NTTグループの3社が採用する「DNSブロッキング」の概要図。特定URLの問い合わせを検知すると、接続を拒否するか、別のIPアドレスにリダイレクト(転送)して警告画面を出すようにできる(内閣府 知的財産戦略推進事務局の作成資料より)

ブロッキングの何が問題なの?

 先述のブロッキング手法は、いずれもユーザーの通信を常時監視することで成立する。

 通信を常時監視した上でブロッキングをするということは、日本国憲法第21条第2項に定める「検閲の禁止」に反し、同項が定める「通信の秘密」も侵害する可能性が高い。さらに、電気通信事業者の規範である電気通信事業法の第3条「検閲の禁止」と第4条「(通信の)秘密の保護」に違反する可能性も高い

日本国憲法第21条

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。



電気通信事業法 第3条

 電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。



電気通信事業法 第4条

 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。

 2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。



 今回の政府の「緊急対策(案)」では、通信事業者の「自主的な取り組み」として海賊版サイトに対するブロッキングを行うように促している。自主的にブロッキングを行うとなると、刑事告発を受けたり訴訟を提起されたりするリスクは通信事業者が100%負うことになる。若干乱暴な言い方をすれば、通信事業者にリスクを丸投げして対策を行うことになる。

 「緊急対策(案)」では、このブロッキング行為は刑法第37条に定める「緊急避難」に当てはまり、違法性が阻却されるとしている。

刑法 第37条

 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

 2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。


 この条項の適用に当たっては、以下の3つの条件を満たすことが必要とされる。

  1. 現在の危難が存在すること
  2. 危難の回避方法が他にないこと(取り得る手を尽くしたこと)
  3. 危難の回避によって生じる損害が、危難を受けることによる損害を上回らないこと

 「緊急対策(案)」における海賊版サイトに対するブロッキング要請については、これらの要件を満たしていると断言できないという指摘がある。ブロッキングを行う“当事者”である通信事業者が議論に参加していない点も問題だ。

 ある意味で「先例」となる児童ポルノサイトに対するブロッキングは、「児童の人権侵害」という観点で上記3点を満たすとされた。しかし、それでも通信事業者を交えた議論を3年ほど行った上で、措置を実行に移している。

 それと比べると、今回の海賊版サイトへのブロッキング要請は唐突感が否めない上、法的根拠が薄弱で、通信事業者に一方的なリスクを背負わせるような構図となっている。少なくとも、根拠となる法令を整備するか、司法判断を受けてから実施するべき措置だ。

諸外国の事例 海賊版対策としてのブロッキングをすでに実施している国では、立法措置または司法判断を受けてからブロッキングを実行している(内閣府 知的財産戦略推進事務局の作成資料より)
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