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» 2011年02月15日 17時00分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:同じ製品をOEM元が売ると高くなるという不思議

同じ製品を製造メーカーが直接売る場合とOEM先が販売する場合、普通に考えると1社分の利益が含まれない前者の価格が安くなるよね。え、逆? なんでっ!

[牧ノブユキ,ITmedia]

OEM元メーカーのルートで売る製品は割高になる

 メーカーA社が製造している商品を、メーカーB社が仕入れて自社パッケージを用意して販売するケースがある。モノづくりに強いが販売ルートを持たないA社が、強い販売力を持つB社に委託する図式だ。

 このようなケースでB社をメーカーと呼んでよいかは異論もあろうが、PC周辺機器メーカーのようなファブレス企業では、こうした形態がよくある。B社はA社以外のメーカーからも商品を仕入れて自社パッケージで販売することで、ラインアップを充実させることも可能だ。

 さて、このような場合、B社に商品を供給しつつ、A社も自社で販売するケースがある。別に隠れてやるわけではなく、自社のパッケージで堂々と販売し、(販路が広いかどうかは別にして)ユーザーも普通に購入できる。

 OEM元のメーカー、この場合はA社の販売価格はB社の利益取り分が含まれないから安くなるはずだが、実際はそうならない。例外もあるが、店頭に並ぶ段階でB社経由の製品とA社の直販製品の価格差はほぼゼロになっているか、逆にA社の直販製品が割高なこともある。

 この“逆転現象”は、A社がB社に製品を卸している理由を考えると分かる。A社はモノ作りに強いが販売力は強くない。そのため、国内で強力な販売網を持つB社に“卸す”ことで大量の台数をさばこうというのがOEM供給を行う目的だ。自社販売より圧倒的に多い台数が出荷できることでボリュームディスカウントが発生し、B社への納入価格は安くなる。これがA社が直販する場合の利益分と相殺され、ユーザーが購入する段階でほぼ変わらないか、A社販売価格より安い価格になってしまう。

 「それでも、B社の利益取り分が価格に含まれるはずだから、利幅が薄くとも、B社の販売価格は高くなって然るべきではないのか?」と疑問を持つかもしれない。単純に原価と利益だけを積み上げて計算するならばその通りだが、実際には「さらに別の力」が作用して、A社とB社の価格は同じか、「やっぱり逆転」となるのが通例だ。その理由を詳しく見ていこう。

「OEM先にバンバン売ってもらい、自社もバンバン売る」選択肢はない

 いま説明したように、A社がOEM供給を行う理由は、A社だけでは1しか売れないところを、10倍20倍といった圧倒的な数が売れるB社の強力な販売網を利用するためだ。これが、10倍20倍ではなく2倍とか3倍しか売れないのであれば、OEMという形で手を組む必要性はない。流通業者と同じように、A社パッケージのまま卸すだけで済む。

 B社の販売網(B社のブランド)で製品が売れるようになると、A社はその販売ルートが消滅することを怖れるようになる。となると、A社はB社を刺激しないように行動することが求められる。こういう力関係において、B社が全国の営業部隊を動かして全面的に拡販していこうとしているのに、A社の販売部隊がB社の価格より安く販売というような、B社の怒りを買う行為は当然ながらできない。全国的に広い流通網を持つB社の販売力で知名度を上げたうえで、自社直販で利益を横取りしようと思われても仕方がない。

 B社が怒るとどうなるか。取引が停止になるだけならまだ生やさしい。一番怖いのは、B社経由で流通している店頭在庫とB社の倉庫にある在庫が、一斉に返品されることだ。自社で販売できる数量の10倍20倍という在庫が一気に戻ってくるわけで、置き場所といった物理的な問題以上に、キャッシュフローが大変なことになる。下手をすると会社が傾きかねない。

 B社との取引を完全にあきらめることを前提に、返品を断ることもできなくもない。だが、その場を切り抜けたとして、B社との関係が悪化した事実が業界内に広まっていれば、別のC社にOEMによる商品供給を持ちかけても、取り扱ってもらえない可能性は高い。OEM先の会社は数あれど、全国に販売網を持ち、強力な営業力で販売できる会社は限られている。自社直販の利益率に目がくらんで勇み足をしてしまうと、最終的に自分に返ってくるというわけだ。

 以上のように、A社にとっての選択肢は「自社だけで細々と売る」「OEM先にバンバン売ってもらい、自社はさらに細々と売る」の二択になる。「OEM先にバンバン売ってもらいながら、自社もバンバン売る」という選択は存在しない。

ネットワーク通販はごまかし可能なれど派手な宣伝はNG

 ただ、ネットワーク通販の登場で、これらの“商習慣”はかなり緩和されつつある。ネットワーク通販のいいところは、出荷台数が外部から分かりにくいところだ。B社の販売価格よりやや安めに設定してA社が販売しても、B社からクレームがついた場合は「市場調査目的で自社ルートから安く販売していますが、全然売れません。やはり、B社さんの販売網でないとだめですね」と“ごまかす”ことが可能になるのだ。

 ただ、この図式を成立させるには、自社ルートで安値で売っていることを宣伝しすぎないことが肝要だ。販売実数が隠せても、A社が拡販に注力していることをB社に知られると、ネットワーク販売限定であってもB社によく思われない。それゆえ、A社のWebページにバナー広告を掲げるのもありえない。こういう製品の情報は、口コミレベルの情報、もしくは、メルマガ限定やタイムセールなどが頼りになる。

商習慣が異なる業界をまたぐOEM関係は、足並みが乱れがち

 ここまで紹介してきた事情とは逆に、OEM先のB社が安く売りすぎて問題になるケースもある。販売価格を下げすぎてB社の競合にあたるほかのメーカーの値下げを誘発してしまい、そのカテゴリーの市場価値そのものを下げてしまう状況だ。1製品あたりの利幅が薄くなっても大量に売ることで利益が得られると見込んでB社に販売を委託したのに、市場の価格相場が下がったことで、そのカテゴリーそのものが“絶滅”してしまうこともある。

 このような事例は、商習慣が違う“異なる業界”におけるOEM関係で発生しやすい。例えば、文具系の商品をPC周辺機器業界で売る場合、後者は薄利多売に慣れているので、文具業界ではありえない低価格で販売することがある。自社では文具関係流通ルートの販路しかないから、PC周辺機器の流通でも売ってもらおうと思ってOEM供給を持ちかけたところまではよかったが、PC周辺機器市場の想像を絶する価格相場によってユーザーから文具市場は割高だと認識され、その結果、文具市場の衰退を招いてしまう事例がこれに当てはまる。同じ商品なのに文具売場だと割高で、PC周辺機器売場に行くと割安という現象はこうして起こりうる。

 このように「商習慣の異なる売場が、同じ製品を巡って争った」例として挙げられるのが、プリンタのインクカートリッジだ。最近ではあまり見かけなくなりつつあるが、かつてはスーパーやホームセンターなどで、同じ商品なのに文具売場では割高で、PC周辺機器売場だと割安という事態がよく起こっていた。最近では販売する側も“知恵”がついてきたので、同じ店内の異なる売場で扱っている場合は、双方の売場が価格を調整して高い側に合わせていることがあるので、ユーザーは注意したほうがいい。

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