「iPhone 4S」に見るスティーブ・ジョブズのDNA初日100万台突破(2/3 ページ)

» 2011年10月12日 00時00分 公開
[林信行,ITmedia]

アップルはデザインの会社

 アップルはデザインの会社だ。アップルのほとんどすべての製品の裏側に「Designed by Apple in California.」と書かれていることも、そのことを象徴しているように思う。ただ、誤解して欲しくないのは、デザインが単に色とカタチを決めることではないということだ。

 製品の色やカタチといった装飾的外観の絵を描かせて「デザイン」としている人たちも確かにいる。しかし、少なくともアップルにおけるデザインとは「ものごとの本質とは何であるかを見極め、それを無駄なく形にすることだ」と思う。

 人々が本当に喜ぶ音楽プレーヤーはどうあるべきか。それを考えるうえで、まず大事なのは製品としての完成されたコンセプトであり、それができて初めて、素材や形、ストレージ容量やFireWire/USBバージョン、そして価格との調整が始まる。

 アップルの場合は、この調整の部分でも、使用者の目線、購入者の目線、サポートスタッフの目線、販売者の目線など、多様な目線から検証されている。これは生半可な作業ではない。たまにアップル製品で使用されている部品の価格が調査会社から発表され、これを参照するとかなり低コストで製造されているような印象を受けるが、1つ1つの製品にかけている手間と努力と人件費でいえば、アップルはおそらく“異常な会社”に属するはずだ。

 しかし、そこまでしていい製品を作れば、今はきちんと売れる時代だ。だからアップルは、同じ製品を、世界中で、1台でも多く売れるような流通・販売の仕組みをデザインして回収する。これもアップルのデザインの一部だ。

 その製品をどんなパッケージに入れ、どのように店頭に飾れば最も魅力的に映るかもデザインされていれば、それをどのように輸送すれば最もコストを削減できるかも、どのような宣伝文句を添えれば世界中で同じイメージを発信できるかもすべてデザインされている。

 これまで携帯電話メーカーは、通信キャリアに製品を納品することで利益を出す、逆に言えば人々が電話を買い替え続けてくれないともうからないビジネスだった。しかしアップルは、iPhoneで利用されるアプリケーションの売り上げの3割、書籍の売り上げの3割、音楽や映画の売り上げの一部など、端末が売れた後もアップルにお金が落ち続ける収益モデルをデザインした。

 アップルは1つ1つの製品に、ほかの多くの企業をはるかに上回る手間をかけて作っている。だから無駄に製品を増やすこともしないし、意味のない形状変更も減らしている。そのほうが最終的には環境に優しく、サードパーティ企業にも優しいと学んできたからだ。

妥協しないのがアップルのデザイン

 こうした全体的アプローチ、完璧主義のアプローチは、まさに“スティーブ・ジョブズらしい価値観”と言っていいと思う。

 以前、ピクサーのジョン・ラセター監督をインタビューした時に、彼がこんな逸話を話してくれた。ジョブズ氏が映画「ファインディング・ニモ」の試写を見に来たとき、海藻の動きが不自然なのに気がつき、それを指摘したという。担当のCGエンジニアが「バレたか」という顔をして「今のコンピュータ技術で海藻の動きを自然にしようとすると、映画の公開が1年遅れるか、それとも巨額の追加制作費がかかってしまう」と答えた。するとジョブズ氏は、「映画は何十年にも渡って見られるものだ。見ている人がピクサーのすばらしい映像と、ストーリーの世界に浸っているところを、ただ海藻のために現実に引き戻して本当に後悔しないのか。お金や公開時期はそれに比べれば重要な問題ではない」といった返事をしたそうだ。

 ジョブズ氏は、おそらくアップルでも同じことをやってきたのだと思う。彼には確かに天才と言う一面もあるかもしれないが、何よりも本質的で本当にいいものを作れば、それは人々に分かってもらえると信じて、それを徹底的に貫いている部分が何よりも大きい。

 ほとんどの会社は、そこまで信念を貫くことができないので、アップルが大きな努力の果てに“直球ど真ん中”を決めてしまうと、どうにも太刀打ちしにくい。

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