前出のサムス氏をはじめ、同件を報じているメディアの多くは「ARM版Windows 10 for PC」との関係性を指摘する。これは2016年12月初旬に中国の深センで開催された開発者向けイベント「WinHEC Shenzhen 2016」で発表されたものだ。
ARMプロセッサであるQualcommのSnapdragon SoCが搭載されたデバイス上で、Windows RTやWindows 10 Mobileではないフル規格のWindows 10 for PCが動作可能になる。
詳細については不明なものの、バイナリ変換やエミュレーションの仕組みを使って既存のx86向けWin32アプリケーションもARMプロセッサ上で動作させられるとみられる。ただ、ARMプロセッサがもともと想定している利用環境のほか、変換作業を仲介することでパフォーマンス上の問題も懸念されており、こればかりは実際に実物が広く提供されて利用してみない限りは分からない状態だ。
ARM版Windows 10 for PCの提供時期は2017年後半が見込まれている。恐らくは次々回のWindows 10大型アップデート「Redstone 3(RS3)」が提供される9〜10月ごろか、さらにその1〜2カ月後くらいが対応製品の提供開始時期とみられる。5月上旬のBuild 2017で詳細情報を一般公開し、製品の提供はその半年後というわけだ。このパフォーマンス上の不安を抱える新製品を補完すべく提供されるのがCloud Shellではないか、というのがサムス氏の予想となる。
正直なところ、単にシンクライアントの仕組みを導入するのであれば、現在の最新のARMプロセッサほどの性能は必要としない。最近のCortex-AシリーズはIntelの省電力PC向けプロセッサと比較してもパフォーマンス的にそれほど遜色なく、より多くのタスクをこなすことが可能だ。
また、シンクライアントの問題として画面描画のために常にネットワーク帯域を消費する問題があり、回線事情の悪い場所では画面のリフレッシュもままならない。
2017年の念頭記事でMicrosoftがWindows 10の方向性の1つとして「常時接続」を目指していることを紹介したが、現時点ではまだまだシンクライアントと携帯電話回線との組み合わせは早いと筆者は考える。
Cloud Shellの可能性の一つとして考えているのは、この「回線事情」と「ローカルPCのパフォーマンス不足」の両方を補完すべく「作業内容によってクラウドとローカルでアプリの実行を使い分けることが可能」なハイブリッドな仕組みだ。
エンタープライズ向けにはクラウド経由での各種管理サービスやセキュリティ対策も包含した月額課金タイプの「Windows 10 Enterprise E3/E5」というWindows 10が提供されているが、コンシューマー向けも含め、ユーザーがより多くの作業をクラウド側で実行すべく提案を行っていくのがCloud Shellなのだと筆者は予想する。
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