強引なアップグレード手法に批判の声は多々あるが、「Windows 10」は過去のWindows OSと比較してハイペースでユーザー数を伸ばしている。米MicrosoftでWindows 10の開発を指揮するテリー・マイヤーソン氏によれば、2016年5月発表のデータでは累計3億以上のデバイスでWindows 10が動作しているという。
ただし、無料アップグレードのキャンペーンが2016年7月29日で終了することにより、一般ユーザーのWindows 7/8.1からの移行ペースはこれ以降大きくスローダウンし、今後は企業ユーザーの乗り換えや、新規のPC購入に伴うOSの世代交代でシェアを地道に伸ばしていくことになる。
こうした中、Microsoftが当初掲げた計画に比べて、Windows 10への移行は進んでいないのではないか、との予測が出て話題になっている。
これは米ZDNetのエド・ボット氏が7月15日(米国時間)に掲載したコラムで指摘したものだ。Microsoftが当初うたっていた「2018年度までにWindows 10デバイスの稼働台数を10億台に到達させる」というのが、現在のペースでは難しいのではないかという。
その後、すぐにMicrosoftから公式声明が発表され、同社の2018年度末にあたる2018年6月末時点では目標達成が難しいことを認めている。マイヤーソン氏自身は10億台の目標を覆していないというが、この目標達成にはもう少し時間が必要であり、その最大の原因はWindows 10 Mobileのビジネス的な困難にあるのではないかとみられる。
戦略変更の余波もあるが、同社が7月19日(米国時間)に発表した2016年度第4四半期(4〜6月期)決算では携帯電話部門の売り上げが71%も減少しており、OEMの増加分を考慮しても反転攻勢には厳しい状況だ。少なくともPC、Mobile、Xboxの3方面で描いていたWindows 10のエコシステム普及は、新たなかじ取りを迫られる局面に達しつつある。
Microsoftはエンタープライズ市場にWindows 10の活路を見いだしている。Windows 10 Mobileはエンタープライズ向けの支援にリソースを集中しつつあり、PC向けでも新しい施策を発表し、企業におけるWindows 10の普及に弾みをつけたい考えだ。
Microsoftが7月11日週にカナダのトロントで開催したパートナー向けイベント「Worldwide Partner Conference(WPC)」では、CSP向けの施策として「Windows 10 Enterprise E3」が発表された。
CSPとはCloud Solution Providerの略で、Microsoftのパートナー企業が自社のサービスやアプリケーションをMicrosoft Azureのクラウドサービスと統合し、パートナー企業の月額課金ビジネスとして提供が可能になるというプログラムだ。
そのCSP向けに販売されるWindows 10 Enterprise E3は、Windows 10の企業向けエディション「Windows 10 Enterprise」を月額7ドル(約730円)、年間84ドル(約8760円)で利用可能なサブスクリプションモデルとなる。2016年秋にも投入する予定だ。
これに企業向けOfficeアプリ/サービスプランの「Office 365 E3」と、モバイルセキュリティ管理ソリューションの「Enterprise Mobility+Security E3」を組み合わせた「Secure Productive Enterprise E3」というパッケージも用意され、クラウド経由でシステムを導入して一括管理したいというニーズに対応している。ちなみに、MicrosoftはSurfaceを法人向けにリースするサービス「Surface as a Service」も同時発表した。
Windows 10 Enterprise E3はまさに、MicrosoftがWindows 10のテーマとして掲げる「Windows as a Service」を体現するもので、Windows 7/8.1からの無料アップグレードに続いて、OSパッケージ販売モデルからの脱却を象徴的に示した施策と言える。
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