企業におけるPCの導入では「日々の運用コストも考慮しなければいけない」とよく言われるが、トラブルが頻発していたことが理由の1つに挙げられている。
日々の運用において、例えばSAPのような業務アプリケーションを提供するベンダーから提供される製品との互換性を重視するうえで、「標準的な製品」を選択する必要があったと市政府側は説明している。
ただ、オープンソースコミュニティー側の主張では「ソフトウェアそのものに問題があったとは考えていない」という意見が出ている。システム管理や組織的な問題により、最新のソフトウェアが十分に展開されず、前述のような運用や互換性における問題を引き起こしていたというのだ。いずれにしろ、システム管理上の問題が比重の多くを占めていたのは間違いない。
もう一つ、政治的な理由も指摘されている。2014年に新ミュンヘン市長としてドイツ社会民主党(SPD)のDieter Reiter氏が就任したが、同氏は当初からミュンヘンのオープンソース戦略に疑問を呈しており、Windowsエコシステムへの回帰をほのめかしていたようだ。
Free Software Foundation Europe(FSFE)プレジデントのMatthias Kirschner氏が米ZDNetに語ったところによれば、同氏はMicrosoftの(ドイツの)オフィスをミュンヘンへと誘致する計画を持っており、実際に2016年9月に移転が実施されたという。
「市職員にはWindows 10とMicrosoft Officeを利用できる環境を用意する必要がある」という調査報告を市長に行ったAccentureは、Microsoftのパートナー企業であり、市長の就任時点で一連のストーリーができていた、と考えているようだ。
とはいえ、今回の措置がLiMuxプロジェクトの終了を意味するものではなく、生産性アプリケーションは引き続きLibreOfficeが利用可能と市の担当者は説明しているようだ。
ただ、一連の問題は「ソフトウェアの更新が進まない」という管理上の問題のみならず、「市職員が制限された環境下での作業を強いられている」という面も強いため、もし今後もLiMux側で従来のトラブルの原因が改善されなければ、ユーザーは自然と「Windows 10+Microsoft Office環境」へと移行していくだろう。
Microsoft自身がここ10年で大きく変化したように、ITシステムの世界も大きく変化しつつある。さまざまな理由でシステムの刷新や移行がなかなか進まない企業ITの世界だが、当時は野心的で最新の試みだったミュンヘンのシステムも、いま再び見直しの時期が到来している。
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