米Microsoftは5月2日(米国時間)、米ニューヨークで教育分野向けの発表会を開催する予定だ。ここではUWP(Universal Windows Platform)アプリのみが実行可能な「Windows 10 Cloud」(仮称)という新OSと、それを搭載した「新型Surface」の発表がうわさされているが、この新型Surfaceにはもう1つのサプライズがあるかもしれない。
Windows 10 Cloudとは、UWPアプリが実行できる一方、従来型のWin32アプリには対応しないWindows 10のバリエーションの1つとみられる。Windows 10 Proなどの上位エディションに有料でアップグレード可能な仕組みも搭載されることから、あくまで既存のWindows 10と同じOSフットプリントで、ハードウェアスペックなどの最低動作要件を引き下げるものではないと予想される。
ただし、OSのライセンス料金が下がることで、OEMメーカーが安価なWindows 10 Cloud搭載PCを提供可能になるため、Chromebook対抗の廉価PCを増やすための戦略的なWindows OSだと考えられている。となると、Windows 10 Cloudを搭載して登場する新型Surfaceとは、「教育分野向け」という冠がつくものの、「Microsoftが自ら先陣を切って提供するChromebook対抗の廉価PC」になるのではないか。
しかし、Microsoft自身が率先してPCの極端な低価格化を推進するのは、OEMメーカーのビジネスに与える影響や同社自身の戦略からみてもマイナスだ。「なぜ、今あえてこのタイミングで?」という疑問符がつきまとう。
ただ、現時点で筆者が確認できている幾つかの状況証拠を踏まえると、この新型Surfaceこそが、長らくうわさされている「Microsoft SIM」を搭載した「常時接続PC」なのではないか、という期待も出てくる。これこそが、冒頭で述べたもう1つのサプライズの可能性だ。
Microsoft SIMについては、「Cellular Data」と呼ばれるMicrosoft製アプリが公開された2016年初頭から話題になっていた。このSIMを組み合わせることで「世界のどこにいてもデータ通信容量を購入さえすれば、インターネットが(Wi-Fiなしでも)使える」ようになると言われている。
一般に、データ通信サービスは世界各地の携帯キャリアと個別に契約し、選択した料金プランに応じたデータ通信容量が利用可能になる仕様だ。ただ、Googleの「Project Fi」のように同社がMVNOとして世界各地の携帯キャリアにローミングを行い、「世界のどこで使っても1GBで10ドルの月額料金」といったサービスを提供している例もある。
Project Fiは、どの国で接続しても「Fi Network」という共通のサービス事業者を利用しているようにユーザーから見えるので(実際には現地にある複数のキャリアをネットワーク状況に応じてつなぎ替えている)、こうした契約を特別意識しないで済むというメリットがある。
もしMicrosoftがMicrosoft SIMなるものを提供した場合、Apple SIMのように各国で個別契約を行うのではなく、GoogleのProject Fiのような共通契約方式を採用する可能性が高いとみている。
MicrosoftがSurfaceにSIMスロットを用意して常時接続を可能にしたのは、2015年に登場した「Surface 3」にさかのぼる。Surface 3はIntelのAtomプロセッサを搭載して登場したSurfaceのエントリーモデル的な位置付けだったが、日本向けにSurface 3が投入される際には従来のWi-Fiモデルではなく、Y!mobileとの提携でSIMスロットを搭載した常時接続可能PCとして発表された。
残念ながらAtomの後継製品キャンセル問題などもあり、2016年にはSurface 3に続く製品が登場することはなかったが、2017年にはもともとWindows RTの系譜として登場したSurfaceのラインアップに「常時接続で管理も容易なタブレット」が追加されるのかもしれない。
これが「Surface 4」のような名称になるかは不明だが(筆者の予想では、名称を変更してくる可能性が高い)、この製品ではSIMスロットの代わりに「eSIM」が採用されるとみられる。eSIMは携帯キャリアとの契約情報が記述されたICカードを物理的に抜き差しするのではなく、遠隔から「プロビジョニング(Provisioning)」、つまり契約情報を書き換えることが可能な仕組みだ。
本体基板にSIMに相当するICチップを組み込んでしまうため、実装スペースが節約できることに加えて、輸出品などで物理的にカードを抜き差しする作業の必要なしにリモートから現地の携帯契約情報を書き込めるメリットがある。主に産業機械や組み込み製品での用途を見込んでいるが、ユーザーが1つのデバイスを持って世界中を渡り歩く可能性があるPCやスマートフォンでも、そのメリットは計り知れない。
難点としては、現状のeSIMではIoT(Internet of Things)のようなデータ通信用途を想定しているため、スマートフォンのような通話を行う「電話」での利用に向いていないことだ。
一方でタブレットやPCの利用には向いており、実際に「9.7インチiPad Pro」ではeSIMベースのApple SIMが採用されており、オンライン契約でデータ通信が利用可能だ。前述のMicrosoftがMVNOになる説と合わせれば、ちょうどAppleとGoogleの中間に位置するようなサービスを新型Surfaceでは提供することになるだろう。
常時接続は管理側にもメリットをもたらす。Microsoft Intune for Educationのような管理ツールでは、常時接続されている方がデバイス管理が容易になるからだ。
またMicrosoft自身がSurfaceを使ったPCやタブレットの常時接続環境を、OEMメーカーとユーザー含めてアピールできれば、その影響力も含めてこれらデバイスの在り方を変化させるかもしれない。
こうした視点でも注目しつつ、5月2日の発表会を待ちたい。
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