ARは手段の1つ――KDDI研 小林氏に聞く「実空間透視ケータイ」の“その先”神尾寿のMobile+Views

» 2009年11月26日 15時02分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 AR(Augmented Reality:拡張現実)は古くて新しいキーワードだ。VR(Virtual Reality:仮想現実)と対になるデジタル情報を取り扱うUIの1つとして20世紀後半から研究されており、日本でもNTTグループやKDDIといったキャリアや、ITメーカーや自動車メーカーなど多くの企業が積極的に研究開発を行ってきた。昨今ではiPhone向け「セカイカメラ」の登場などで一躍脚光を浴びているが、ARの概念そのものは古く、裾野が広く研究されてきたテーマなのである。

photophoto 「実空間透視ケータイ」は、端末をかざした先にあるスポット情報や投稿写真を見ることができるARサービス。3Dグラフィックの画面に加え(写真=左)、CEATEC JAPAN 2009のデモンストレーション版ではカメラ映像に対する情報のオーバーレイにも対応していた(写真=右)

 そのような中で、KDDIがauの携帯電話向けに「実空間透視ケータイ」のコンセプトを発表。今年9月には東京大学で実証実験を行うなど、サービス化に向けて積極的に取り組んでいる。KDDIは以前から新機軸のUI開発に熱心であるが、その中でARはどのように位置づけられているのか。KDDI研究所 特別研究員の小林亜令氏に話を聞いた。

実空間透視ケータイで「UIが洗練」

photo KDDI研究所 特別研究員の小林亜令氏

ITmedia(聞き手:神尾寿) ここ最近、ARの話題が脚光を浴びていて、その中でKDDIの「実空間透視ケータイ」も注目されています。あらためて、実空間透視ケータイというのはどのようなコンセプトなのかお聞かせください。

小林亜令氏(以下、敬称略) 実空間透視ケータイはARという観点で注目していただいているのですが、プロジェクトの原点は『ケータイの中のセンサーの用途を広げよう』というところにあります。実はARありきで実空間透視ケータイをやっていたわけではないのです。

ITmedia なるほど。確かにKDDIは最初期にGPSセンサーを携帯電話に搭載するなど、センサー類の採用に積極的でしたね。

小林氏 ええ。(実空間透視ケータイで)センサー類を活用しようと考えた背景には、携帯電話が高機能になる中で、お客様が『機能やサービスを使い切れない』ケースが増えてきているという問題意識があります。ここが、顧客満足度にマイナスに働くと考えたのですね。この搭載機能とユーザーが使いこなすという部分のギャップを埋めたい。それが実空間透視ケータイのスタートラインです。

ITmedia 日本の携帯電話は多機能で高性能。だけど使いこなせない――というのが今の『ケータイが売れない』状況の一因にもなっていますね。

小林氏 すべてを使いこなせないというのは、これだけ多機能化するとしかたのない部分でもあるのですが、『自分のケータイができること』に気づいていただけないケースも多い。これをセンサーの力でどうにかしたかったわけです。

 例えば、いま我々はau smart sportsというサービスを提供していますが、このサービスの存在を認知していただくには、テレビCMなど広告の力を借りなければなりません。しかし本来は、お客様が走っているとそれをセンサーが感知して、『au smart sportsというサービスがありますよ』とお知らせした方がスマートですし、気づいていただけるわけです。ドコモのiコンシェルではありませんが、そういった(サービスやコンテンツに)気づいていただくための仕組みというものが今後さらに重要になっていくのです。

ITmedia センサー技術という点では、日本は世界でも有数の先進国です。これはモバイル分野というより、自動車や工作機械の分野での需要が牽引したわけですが、高度なセンシング技術のほとんどは日本製ですね。

小林氏 確かにその通りなのですが、センサーの活用という点では日本企業が弱いという面もあります。そこは我々も反省しなければなりません。

 UIという面で見ますと、センサーの活用によって、ユーザーを「操作」から解放しなければなりません。例えば、ユーザーがケータイをかざしたり、走ったりと、何か単純な動作をする。すると、そのバックグラウンドで複雑な(機能やサービスの)操作が行われるというのが理想ですね。

ITmedia 最近ですと、iPhoneの影響からか「直感的な操作=タッチパネル」というイメージがありますが、センサーの活用はそのさらに先にある、と言えそうです。

小林氏 ええ、対話型UIの理想型はユーザーが示唆的・象徴的な操作そのものをしなくても機能が実行されることです。これを(実空間透視ケータイでは)実現したい。

ケータイをかざして、モノやヒトの情報を取得

ITmedia 実空間透視ケータイの具体的な機能はどのようなものを考えられているのでしょうか。

小林氏 基本的な機能としては、実空間上にある『モノ』や『ヒト』に端末をかざして、対象に連動した情報を見るというものになります。

 展示会などではモノにかざして情報を取得するというデモンストレーションが中心でしたが、実空間透視ケータイが想定する機能の中には、ヒトを透視(メタ情報を見る)するというものも考えています。友達や家族、あるいは仕事で関わる人たちにケータイをかざすと、その人の情報やコンテンツが画面上に表示される。そういったサービスまで作っていきたいと考えています。

 その中で、まず手始めとして展示会などでお見せしているのが、位置情報をもとに情報を提供するという機能です。ここではかなり割り切った機能にしていまして、地図を見せず、ユーザーと対象物との位置関係を見せるようにしています。デバイス技術としては、位置情報と6軸センサーの情報を用いています。

ITmedia 地図ではなく、背景にCGやカメラで取り込んだ実空間の情報を使うことで代用しているわけですね。

小林氏 ええ。そして、実空間透視ケータイでもう1つ重要になるのが、ユーザーの状態把握システムです。こちらはTwitterでいうと、ユーザーの「つぶやき」にあたる部分ですが、ここをユーザー自身の入力を伴わずに今の状況を把握できるようにしたい。ここでセンサーを使います。

ITmedia Skypeなどのプレゼンス情報を自動で取得するようなものですね。

小林氏 そうです。今すでに実現できているものとしては、『移動状態』があります。歩く・走る・クルマ移動・バス・自転車・電車など、どういう移動手段をとっているのかを把握します。これが分かるだけでも、携帯サービスやコンテンツとの連携でさまざまなアプローチができるようになります。

 具体的には、GPS情報とマイクからの音声入力情報、そして加速度センサーの情報を複合的に分析し、移動手段を推定します。

photophoto センサーを使ってユーザーの状況を自動予測する「センサデータマイニング」の技術に小林氏は注力している。実空間透視ケータイの場合、ユーザーの位置や向きをセンサーで推測し、それに合った情報を提供する

ITmedia 交通手段の把握にマップマッチングは使うのですか?

小林氏 いいえ、使っていません。その代わりにマイクから取得した周辺音のパターンマッチングと、測定結果からその後の移動手段を推定するアルゴリズムを開発しています。このあたりはノウハウの固まりですね(笑)

 こういった実空間情報の把握ができるようになりますと、AR的な情報表示のサービスだけでなく、より携帯電話の使い勝手をよくするUI的な機能も実現できるようになります。例えば、電車に乗ったら自動的にマナーモードになり、降りたら通常モードになるといったことも、UIとして実装できるわけです。

 このような機能は、今後1〜2年のうちに段階的に導入していきたいと考えています。

将来的にはプローブサービスも

photo ユーザーそれぞれの状態(プレゼンス)だけでなく、個々の情報の分析から“場”の状態を把握できるようなサービスを目指す

ITmedia 実空間透視ケータイはAR的な技術や機能を、携帯電話のUIそのものに融合させる方向で進化していく。その先にある将来像とはどのようなものなのでしょうか。

小林氏 これはまだ目標という段階なのですが、個々のユーザーが持つ実空間情報をプローブとして集めていき、空間そのものの情報としていく仕組みを考えています。例えば、イベント会場の盛り上がりやレストランの混雑状況がリアルタイムで分かるなど、空間プレゼンス情報のサービス化をしていきたい。

ITmedia しかし、プローブ情報をやるとすると、普及の規模が大きな課題になりますね。

小林氏 ええ、おそらく1000万人くらい(実空間透視ケータイの)ユーザーが増えないと難しいでしょう。ですから、5年後くらいを視野に入れています。

 また、プローブシステムはKDDI 1社だけでできるものとも考えていません。他キャリアとの連携を視野に入れて、多くの企業とパートナーシップを結ぶプラットフォーム型の仕組みにしなければなりません。

 今後、ARの世界にはHTMLのようにプリミティブな部分の標準化が必要だと考えています。ここに実空間透視ケータイの仕様も入れていきたいと考えています。


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