Google排除でiPhoneにBing採用の可能性――利するのは誰か

» 2010年01月26日 11時40分 公開
[Clint Boulton,eWEEK]
eWEEK

 MicrosoftとAppleがBingをAppleのiPhoneのデフォルト検索エンジンにすることを検討しているのであれば、これはGoogleの検索エンジンそしてオンライン分野における同社の優位性にとって大きな打撃となるだろう。

 これはまだ確証のある話ではない。あなたはそれを信じるだろうか。信じるという人は、この世界では何が起きても不思議ではないことを知っている人だ。両社の交渉のニュースを報じた米BusinessWeekの記事が、そのことを雄弁に説明している。

 さらに同記事は「MicrosoftとAppleは今や、Googleを最大の宿敵と見なしており、両社は必ずしも互いを敵視しないようになった」と指摘する。MicrosoftとAppleは長い間、PCベースのオンプレミス型デスクトップの世界で死闘を繰り広げてきた。そこにGoogleというよそ者がやって来たのだ。

 AppleとMicrosoftがこの件で交渉していることを信じないという人は、GoogleがWeb上で極めて強大な勢力になり(検索市場のシェアは65%で現在も拡大中)、クラウドコンピューティングへの進出を目指すMicrosoftとAppleが、Googleを最大の障害と見なすようになったという事実を知らないのだろう。

 また、Microsoftが老犬になってしまい、元気のよい子犬を必死で追いかけようとしているという現実も直視すべきだ。BusinessWeekの記事は次のように述べている。

 “AppleとGoogleは互いに相手が最大の敵であることを知っている”とAppleの方針に詳しい情報筋は話す。“今やMicrosoftはこの戦いのポーン(訳注:チェスの駒の1つ。将棋の歩に当たる)にすぎないのだ”。

 いやはや、ポーンとは手厳しい。しかし何年にもわたって何十億ドルもの損失を垂れ流してきたMicrosoftのオンライン事業の状況を見れば、そう言われても仕方がないだろう。

 Bingは検索市場で2番手につけているが、トップには大きく水をあけられている(シェアは10.7%)。確かに、Silverlight Mapsなどの技術が大きく改善され、検索結果の画面が美しくなったことは認めよう。だが、Windows Mobileにはがっかりだ。Zuneは見ての通りだ。Zune携帯を欲しいという人は誰かいるだろうか。

 BusinessWeekの記事は、昨年11月の時点で米国のモバイル検索ユーザーの86%がGoogleを利用し、Bingを利用していたのは11%だったというNielsenの調査結果を引用している。Appleもそれを知っている。もしAppleが、将来有望なBingを人気スマートフォンで採用することによって、検索広告分野におけるGoogleの支配を覆すことができれば、GoogleではなくAppleとMicrosoftがWeb上で勝つことになる――今回だけは。

 Appleはそんなことを望んでいないと思う人は、考え直した方がいい。BusinessWeekの記事は次のように述べている――「同情報筋によると、Appleは自社の携帯端末上での広告掲載を管理することも検討しているようだ。この動きはGoogleの広告配信ビジネスを浸食する可能性がある」

 Appleは当然そのつもりだ。GoogleがAdMobの買収という力技に出た後で、Appleがモバイル広告企業のQuattro Wirelessを買収した理由は、それ以外に考えられるだろうか。

 AppleはモバイルWeb市場におけるGoogleの勢力拡大を恐れている。AppleがPlacebaseを買収したのも(PlacebaseはiPhone向けに独自の地図技術を開発するとみられる)、Google LatitudeをWebアプリにしたのも、iPhone向けにGoogle VoiceをGoogleが提供するのを拒んでいるのも、すべてそれが理由だ。

 Googleの「Nexus One」は、まるでiPhoneの分身のようだ(意図的にそれを狙っているのかもしれない)。GoogleがNexus OneをはじめとするAndroid携帯に自社のWebサービスを組み込むことによってiPhoneに対抗しているというのに、AppleがGoogleをデフォルトの検索エンジンとして使い続ける理由があるだろうか。

 対抗という意味でいえば、AppleもGoogle Apps(Gmail、Google Docs、Google Calendarなど)に対抗するWebアプリケーションとしてMobileMeを提供している。

 また、Appleは音楽サービス企業のLalaも買収した。これは、クラウドコンピューティングベースの音楽サービス事業への本格進出を目指した動きではないかとみる向きもある。Googleは音楽検索サービスを提供しており、Lalaもそのパートナーの1社だというから話はややこしい。

 もちろん両社が競い合う分野はほかにもあるが、今のところ、わたしにはそのすべてを思い浮かべることはできない。

 Bingの採用をめぐる決定は容易ではない。デフォルト検索エンジンとしてGoogleを捨ててBingを採用するというのは、大手ホテルチェーンが自動販売機のコーラをCokeからPepsiに切り替えるようなものだ。もちろん一部の人々はBingを使うだろうが、彼らは実際にはGoogleの方を好んでいるかもしれない。

 つまり、AppleはGoogleを使い慣れているユーザーを混乱させる危険があるということだ。これらのユーザーはBingに慣れるか、Search Engine Landのグレッグ・スターリング氏が予想するように、検索エンジンをGoogleに戻す必要があるだろう。

 それだけでなく、GoogleとAppleを好きになったユーザーの反発を招く恐れもある。これらのユーザーは、GoogleとAppleがMicrosoftを無力化する(数百億ドル規模の巨大企業の影響力を弱めるという意味で)Webアプリケーションとコンシューマーデバイスの最強タッグだと考えているのだ。

 米New York Timesのニック・ビルトン氏も次のように指摘する

 健全な競争が展開されず、ユーザーは携帯電話用に購入したアプリケーションや同様のデバイスで使用するソフトウェアのフォーマット戦争の巻き添えになる恐れがある。

 Bingをデフォルトの検索エンジンにするという形でGoogleを排除するのは、AppleとMicrosoftにメリットがあるかもしれないが、ユーザーには必ずしも良いことではない。それはAppleとMicrosoftにとっても良いことではない。

 それは結局、Googleを利するという逆効果になるような気がする。そう思うのはわたしだけだろうか。

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