「社内では“スパイ大作戦PC”と呼ばれている」――MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)が優秀なモバイルソリューションを募集・審査する「MCPC award 2010」の最終プレゼンテーションが3月19日に開催され、富士通の坂巻健士氏が同社のPC盗難・紛失対策ソリューション「CLEARSURE」(クリアシュア)による遠隔データ消去システムを説明した。PCにPHSモジュールを内蔵し、PHS網を介した遠隔データ消去や、基地局情報を利用したPCの所在地推定、データ消去後のリポートなど、「かゆいところに手が届く機能が充実している」と坂巻氏は胸を張った。
富士通グループでは国内で約16万台のPCが稼働し、そのうち持ち運び可能なものが7万台ある。これだけ膨大なPCが持ち出しできる状態では、ひったくりや車上荒らしなど、未然に防ぎようのないアクシデントでPCが盗難・紛失することも実際に起きるという。同社ではこうしたリスクに対処するため、申請書の提出フローや厳しい持ち出しルールが設けられ、「部署によっては理由を問わず禁止していることもある」(坂巻氏)など、モバイルPCメーカーといえどもPCのモバイル活用はハードルが高いのが実情だ。
そのため、同社ではPCの社外持ち出しが控えられる傾向にあり、「外出先でタイムリーな顧客対応を逃したり、報告書を作成するために出張先からわざわざ事務所に戻って作業をしたりと、業務効率の低下を招いていた」(坂巻氏)という。この状況を打破すべく同社のIT管理部門とPC開発部門が協力し、「事故発生後の最善の対策を徹底的に議論」(坂巻氏)して開発したのがCLEARSUREだ。
CLEARSUREに対応するモバイルPCにはウィルコムのPHS通信モジュールが内蔵され、PHS網を通じてデータを遠隔で消去できる。PCが電源オフの状態でもデータを消去できるのが大きな特徴で、「世界初の技術。社内では“スパイ大作戦PC”と呼ばれている」(坂巻氏)。CLEARSUREで採用するPHSモジュールは待機時の消費電力が少なく、「バッテリーが半分ぐらい残っていれば、PCの電源がオフの状態で1週間ほど待受ができる」(坂巻氏)
また、基地局が密にきめ細かく設置されているPHSの特徴により、GPSを搭載しなくてもPC付近の基地局情報からPCの所在地をある程度推測できる。これにより、紛失後に基地局情報を頼りにPCを探し、見つからなければデータを消去するといった段階的な運用が可能になる。「M2M用途に最適なナローバンドワイヤレスネットワークとして、PHSの可能性はアイデア次第で広がっていく」と、坂巻氏はPHS網のメリットに対して手応えを示した。
さらにデータ消去後の「消去結果レポート」機能では、消去の完了日時に加え、基地局の位置、PCへの最終ログイン日時が通知され、消去する前にPCが起動されたかどうかを確認できる。「従来はPCを紛失すると事故報告書の手続きなどが大きな負担になったが、レポートで手続きを大幅に省略できる」(坂巻氏)というのが、同機能のメリットだ。
情報漏洩の低減や業務効率の向上に加え、これらにまつわるコスト、さらに事故対応に伴うコストを削減できることが、坂巻氏が考えるCLEARSUREの導入メリットだ。2009年秋の発売以来、100社以上の企業が同ソリューションを導入しており、ランニングコストはもっとも安価な契約で1台の月額が500円程度だという。また、同社内では2009年の12月からCLEARSUREの導入が進んでおり、2010年3月末までに約7000台の運用が開始される見込み。さらに2013年度末までに持ち出し可能な7万台のPCのすべてをCLEARSURE対応PCに入れ替える予定だ。
CLEARSUREに対して審査員からは、「データを消去するまでの間に何かをされる」ことへの防止策が必要との意見が上がった。坂巻氏は「手元からPCが離れてしまうと何も手出しができなかった状況に対して、まずは遠隔地からの消去ソリューションを提供した。ほかにも、いつもと違うエリアに出た時点でデータを消すなど、アイデアは色々とあり、今後検討していきたい」と、機能拡張に対する意志を見せた。「社内導入が進んだことで、ソリューションに対する意見が社員から集まりはじめており、これらをスピーディに製品に反映させていきたい」(坂巻氏)
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