MicrosoftとNokiaの提携が開発者に与える影響とは

» 2011年02月15日 17時11分 公開
[Darryl K. Taft,eWEEK]
eWEEK

 フィンランドのNokiaが米MicrosoftのWindows Phoneを主要なスマートフォンプラットフォームとして採用したことは、開発者に大きな影響を及ぼすだろう。

 Microsoftのジェネラルマネジャー、マット・ベンケ氏は、2月11日付のブログ記事で、この提携がMicrosoft系開発者に与える影響について次のように述べている。

 この提携の長期的な可能性にわくわくしている。イノベーション、差別化、共同作業を通じて新しいグローバルエコシステムを構築し、これまで存在しなかったようなチャンスを生み出すことができるのだ。開発者にとって可能性に満ちた、まったく新しいエコシステムをわれわれは構築しようとしているのだ。Microsoftは何よりもまずプラットフォーム企業だ。つまり、われわれの取り組みはほとんどすべて、開発者コミュニティーのことを終始念頭に置いているということだ。今回の提携も例外ではない。

 さらに「ツールとプラットフォームという面でも、Microsoftは開発者がこの機会をできるだけ容易に利用できるようにするために努力している」とベンケ氏は記している。「NokiaのWindows Phone製品シリーズは、既存のWindows Phoneアプリケーションをサポートする予定だ。一方、従来のNokia系開発者は、Windows Phone向けに素晴らしいアプリやゲームを迅速かつ簡単に開発するために設計されたアプリケーションプラットフォームを利用できるようになる。言い換えれば、Windows Phone用アプリとゲームの開発には、今後も無償のWindows Phone Developer Toolsを使えるということだ。このツールセットには、Visual Studio 2010、Expression 4、Silverlightおよび XNA Frameworkが含まれる」

 Microsoftの分析と戦略サービスを専門とする米Blue Badge Insightsの創業者アンドリュー・ブラスト氏は次のように述べている。

 これは開発者にとってビッグニュースだ。話題の中心が、Windows Phone 7(WP7)の技術的長所という議論から、WP7が3つの主要プラットフォームの1つになったという議論へ移行する可能性がある。これは、新しいプラットフォームに最初から関わることで有利な立場を確保するというよりは、確固たる実績と巨大なインストールベースがあるプラットフォームをサポートするという意味合いが強い。このため、なぜWP7向けに開発すべきかということよりも、そうしなければ損だという方向に議論が向かうだろう。収益につながる技術を実装するコストが低くなったとき、その技術は大きく飛躍するのだ。

 この提携に関するブラスト氏の見解は基本的に好意的なものだが、問題がないわけではないという。同氏はNokiaがスマートフォン市場で巨大なプレイヤーであることを認めながらも、米国ではそれほど有力な存在ではなく、しかも市場シェアが低下していると指摘する。またWindows Phoneは「素晴らしいプラットフォーム」であり、Microsoftは巨大なブランドだが、モバイル市場では同社のブランドが色あせているのは明らかだという。

 「両社はいずれも劣勢に立たされている。だが互いに助け合えることは確かだ。MicrosoftはNokiaのグローバルな影響力と市場シェアを手に入れる。Nokiaは成長が止まった感のあるSymbian OSから、タッチスクリーンに対応し、現代的なデザインを備えたMicrosoftのWP7にアップグレードできるのだ」(ブラスト氏)

 Nokiaの広報担当者は米eWEEKの取材に対して、「Qtは今後もSymbianとMeeGo用の開発プラットフォームとしてとどまる。Windows Phone用にはSilverlightがベストなツールだ。われわれは開発者との関係を大切に思っており、優れたエコシステムを構築する上で開発者が果たす役割の重要性を両社ともに認識している」と述べている。

 米IDCのアナリスト、アル・ヒルワ氏は、NokiaのSymbianビジネスの見通しは暗いと考えている。「スマートフォン向けのQtのエコシステムはまだ非常に初期の段階だった」とヒルワ氏は話す。「Nokiaは、タッチスクリーンという新しい世界でQtをメジャープレイヤーにするのに苦しい戦いを強いられてきた。どんなモバイルエコシステムであれ、複数のフレームワークに対応したモバイルプラットフォームを持っている方が有利だと思うが、今回の提携は、現在のWP7をNokiaのハードウェアに載せることに主眼が置かれているようだ。この市場の変化の速さを考えれば、QtをWP7に対応させることを優先する時間的余裕はないだろう。長期的に見れば、それは良い考えかもしれないのだが。JavaがWP7に対応するとも思えない。このため、NokiaはSymbianの開発者ベースを失う恐れがある。しかしNokiaが次の段階に進むのに、Symbianではどうにもならなくなった。だから彼らはSymbianを見捨てなくてならなかったのだ」

 一方、Microsoftのベンケ氏は開発者にとってのチャンスを強調しており、Nokiaとの提携はWindows Phoneの顧客ベース、ひいてはWindows Phone用アプリとゲームの顧客ベースを劇的に拡大すると述べている。「これは、携帯電話用アプリとゲームのコンシューマー市場の拡大とローカライズが進むと同時に、バックエンドのサービスとコアインフラのイノベーションが加速することを意味する」と同氏は語る。

 「Nokiaは既に190以上の国・地域で通信事業者と強力な関係を築いており、毎日400万ダウンロードを提供するアプリストアを運営している」とベンケ氏は話す。「これに、8000本以上のアプリケーションとゲーム、2万8000人の登録開発者、100万件以上のツールダウンロードを誇るWindows Phoneの開発者コミュニティーが加わるのだ」

 ブラスト氏によると、開発者が留意すべきことは2つあるという。「1つは、現在、スティーブン・エロップ氏がNokiaのCEOであり、同氏は改革に熱心だということだ。このため、Nokiaのこれまでの不振は、同社の将来を占う指標にはならない。もう1つのポイントは、Windows Phoneが今後、2つのチャネルを通じて販売されるということだ。Nokiaのチャネルと多数のOEMが利用するチャネルだ。Nokiaチャネルはそのブランドと影響力という点で米Appleと似通った部分がある。一方、今後もWP7が推進されるOEMチャネルの方は、米Googleの現在のモデルと同じだ。つまり2つの戦線で戦いの火ぶたが切られるわけだ。これはすごいことになる」と同氏は語る。

 ベンケ氏によると、Microsoftのモバイル開発者のエコシステムは、同社の最も強力な資産の1つになっており、Nokiaとの提携はそれをさらに強化するという。「活躍の舞台がさらに広がるということだ」

 ブラスト氏は、MicrosoftとNokiaの提携により、両社がGoogleやAppleなどの企業と競争するチャンスが拡大するとみている。

 「Microsoftの元幹部で現在はGoogle幹部のビック・ガンドトラ氏が“2羽の七面鳥を合わせてもワシにはならない”とTwitterで発言して不評を買ったが、この指摘はもっともだと思う」とブラスト氏は話す。「しかし同氏の考えが間違っているケースもある。BingとYahoo!の結合は、Googleの検索エンジンにとって技術面でも市場シェアという面でも、厳しい競争を生み出した。このことを考えれば、WP7とNokiaがGoogleのAndroidプラットフォームにとって脅威とまでは言えないにせよ、軽視できない競争相手になる可能性は十分にある。もちろん成熟化が進むiOSプラットフォームも挑戦を受けることになる」

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