コスト負担の不公平感をなくす料金設定とは? 「中の人」が語るIIJの個人向けMVNOビジネス:ワイヤレスジャパン2013

» 2013年06月05日 15時29分 公開
[平賀洋一,ITmedia]
photo ワイヤレスジャパン 2013のIIJブース

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は6月1日から、モバイルデータ通信サービス「IIJmio高速モバイル/D」の提供内容を「増量先取り!ご愛顧感謝キャンペーン」として拡充した。9月から正式なサービスとして提供する。

 IIJmio高速モバイル/Dは、NTTドコモのLTEネットワークを利用したMVNO形式の通信サービス。加入者は提供されたドコモのSIMカードを対応端末に装着することでモバイル通信を利用する。料金プランは月額945円の「ミニマムスタートプラン」と月額1974円の「ライトスタートプラン」、そして3枚のSIMを同時に利用できる月額2940円の「ファミリーシェアプラン」の3つが用意されている。

 これまでのミニマムスタートプランは、通信速度が上り/下り200Kbpsに制限されていたが、6月からは月に500Mバイト分のバンドルクーポンを無料で付与。同社のWebサイトや専用アプリからクーポン利用のオン/オフを行うことで、下り最大112.5Mbps/上り最大37.5Mbps(対応端末とエリアを組み合わせた場合)の高速通信が500Mバイト分まで利用可能になる。ミニマムスタートプランとファミリーシェアプランにはもともと月1Gバイト分のクーポンが付いていたが、こちらも6月から2Gバイト分に倍増して提供する。クーポンを使い切った場合は通信速度が上り/下りとも200Kbpsになる。

 また6月からは、料金プランの契約変更にも対応する。従来は利用中のプランを変更することができず、新規にサービス契約を行って既存の契約を解約する必要があった。その場合は初期費用(3150円)がかかるため、プランを変更してサービスを使い続けるユーザーから改善を求める声が寄せられていたという。

 ワイヤレスジャパン2013で行われたIIJのスペシャルセッションでは、同社の個人向けMVNOサービスの経緯や上記のサービス内容拡充に至った背景などが、担当者から説明された。

通信サービスの負担ギャップを減らすには

photo IIJの佐々木氏

 IIJは2008年にドコモ網を使った法人向けのMVNOサービスを開始。その後、イー・モバイル(現イー・アクセス)のネットワークを採用した個人向けサービスもスタートした。当初はどちらもレイヤー3接続だったが、2009年にドコモとレイヤー2接続が可能になったことで、法人向けの閉域接続など自由度の高いサービスの提供が行えるようになった。ただこの時点でドコモ網を使ったサービスは法人向けのみで、個人向けのサービスは2012年にドコモのLTE網とレイヤー2接続した時点で開始した。

 2008年以降のモバイル通信サービスでは法人用途が多いIIJ。同社モバイルサービス課の佐々木太志氏は、「法人と個人ではトラフィックのピークと傾向、そしてユーザー間のトラフィック分散の3点が大きく異なる」と分析する。

photophoto IIJのMVNOサービスの経緯(写真=左)。個人向けサービスの料金プラン(写真=右)

 法人向けサービスのトラフィックは平日の業務時間帯(9時から18時ころ)にまんべんなく発生するが、個人向けでは通勤通学の時間帯である8時から9時、昼休みの12時から13時、そして帰宅する時間帯の18時から21時という3つのピークがある。トラフィックの傾向は法人向けが業務に必要なアプリケーションに依存する一方、個人向けは広い範囲で使われ、最近は動画が占める割合が増えてきているという。そして法人の場合、ユーザー間でトラフィック量の分散はあまりないが、個人ユーザーは分散度合いが高くなっている。

photophoto 法人向けMVNOサービスと個人向けMVNOサービスの違い(写真=左)。個人向けサービスには「負担ギャップ」の低減が欠かせない(写真=右)

 「トラフィックの分散傾向とは、ユーザー間で通信料がどれくらいバラついているのか――ということ。通信業界ではよく『1割のヘビーユーザーが9割のトラフィックを占める』といわれる。もしこれが定額料金なら、ユーザーの9割は(残された1割のトラフィックを分け合うことから)本来負担すべき設備コストの9倍を負担していることになる。この行き過ぎた“負担ギャップ”が通信料金に対する不公平感を生むことになる」(佐々木氏)

 負担ギャップは不公平感だけでなく料金の高止まりの原因になるうえ、インフラのひっ迫が通信品質の悪化を招く要因にもなる。これを回避するために、ユーザーごとに利用できる通信量を期間で定める総量規制や、特定のサービスやアプリの通信を制御するプロトコル規制、そして通信量に合わせてコスト負担を求める従量制課金などの対策が考えられるが、佐々木氏は「プロトコル規制は効果が大きいが、ユーザー間で新たな不公平を生みかねない。またISPがネットの利用方法を制限して良いのか? という指摘もある。従量課金はユーザーにも分かりやすい方法だがなにより“パケ死”が起こる可能性がある。また定額料金が日本にネットを普及させたのは間違いなく、完全従量課金は時代に逆行しかねない制度」と述べ、こうした対策を単独で適用するのは難しいという考えを示した。

 そこでIIJは、個人向けサービスを開始する際に総量規制と従量制課金を組み合わせた料金の導入を選択した。IIJmio高速モバイル/Dでは、低速だが使い放題という基本的なサービスに、通信量ごとに高速通信が可能になるクーポンを組み合わせて提供している。

photophoto 「負担ギャップ」への対策方法。MVNOに限らず、モバイルサービスで良く目にする内容だ(写真=左)。3GPPでは柔軟な料金設定を実現するための標準化モデル「PCC」を定めている(写真=右)

 3G通信規格の標準化団体である3GPPでは「PCC」(Policy and Charging Control)という課金制御のモデルを定めており、IIJではこのPCCに沿って上記の料金体系を導入した。具体的には、ユーザーごとの通信量をリアルタイムに監視するシステムとユーザーが選んだ料金プラン(ポリシー)を管理・適用するシステムを自社で開発、ドコモのLTE網とレイヤー2接続するタイミングでネットワーク設備に組み込んだ。

 IIJではPCCの導入により「上位利用者10%によるトラフィック占有が50%に減った。負担ギャップが全くなくなったわけではないが、90%という数値よりはかなり是正されている。全体のサービス品質の維持にも役立っている」(佐々木氏)と説明しており、その効果は大きいようだ。

IIJでも“やりましょう”

 セッションで講演した佐々木氏は、IIJmioのユーザーサポートを行う同社Twitterアカウント「@iijmio」の“中の人”でもある。中の人という視点から、ユーザーとの関わりも語られた。

 90年代からPCやインターネットを利用しているユーザーにとって、IIJと言えば日本企業で最初の商用ISPとしておなじみの存在だ。しかし最近の、特にスマートフォンユーザーにとってはそういったイメージは薄く、コンシューマー層へのブランド浸透は「ほぼゼロ」だったという。そこで佐々木氏らは、IIJmio高速モバイル/Dで“IIJらしくない”ポップなデザインのパッケージを採用し、同時にSNSを活用したユーザーとのコミュニケーションも積極的に展開している。

photophoto 「IIJmio高速モバイル/D」のちょっと変わったパッケージ

 6月からキャンペーン的に提供しているサービスの拡充も、Twitter経由で寄せられた要望がもとになったものだ。@iijmioは佐々木氏を含む4人が担当しているが、いずれもサービス運用やサポート、企画も担当しているエンジニアやサポートの中心的なスタッフでもあり、アカウントに寄せられた要望を実現しやすい環境にある。

 佐々木氏は今後の計画について、SMSに対応することでいわゆる「セルスタンバイ問題」を解決する方針であることや、音声通話サービスの提供は課題が多いため予定していないこと、またIIJmioブランドでスマートフォンやタブレットを提供する計画は現時点でないことを述べ、セッションを締めくくった。

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