対称構造を意識して言葉の選択を考えようプロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(3/3 ページ)

» 2009年02月27日 10時45分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]
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対称構造は「対極」にある概念について使うもの

 さて次に質問2を検討しましょう。再掲すると、

  • (質問2)「自由化」の反対概念は何ですか?

 という内容でしたが、結論から言うとこの問題では「自由化」というのは対称構造の片方に使う言葉としては不適切です。この問題についての概念分析をきっちりやるとだいたい図5のような構造で理解するのが適切です。なお、原文にはない情報を一部追加して使っています。

 大きな対称構造としては「原則禁止 対 原則可能」という転換がありました。この転換が起きたのが1999年ですが、その後2004年に「製造業への解禁」という「例外範囲の縮小 = 可能な範囲の拡大」が起きています。これらは全体を通して「自由化への大きな流れ、方向性」としてとらえるべきで、「自由化」という言葉自体は「対称構造」の片方として扱うべきではありません。

 例えば「東 対 西南」を対称構造といったら不自然ですよね? 要するに対称構造というのは「対極」にあるものに使うべき概念なのです。1999年というのは、派遣問題に関しては「自由化の方向性の中の通過点」でしかありませんので、「自由化」という表現をその1点に結びつきやすい形で使うのは不適切です。

 こういった概念分析を踏まえて原文を書き直すと、以下のようになります。

派遣自由化・改善案2

 労働者派遣業務に関しては、1999年に原則禁止から原則可能へという法律の大きな改正がありました。1999年以前は原則禁止で、例外として派遣の可能な業種が指定されていました。1999年以後は原則可能となり、例外として派遣の禁止業種が指定されています。これ、要するにだめなものをリストにするので、ネガティブリストなんて呼んだりします。製造業は当初その禁止業種に入っていましたが2004年からは解禁されました。つまり、大きな流れとして労働者派遣は自由化されつつあるのです。


 最初に「禁止 対 可能」という大枠の対称構造を明示し、次いで細部を語り、最後に全体のまとめとして「自由化」に言及しています。この「大きな流れとして自由化である」という話は最初と最後に2回語っても大丈夫です。

 また、「大きな流れとして自由化の方向である」と言うことがわかれば、受講生は図中の(Z)の欄についてある仮説を持つことでしょう。つまり、

受講生 ひょっとして、1999年以前の(Z)の欄でも、可能な業種の拡大といった自由化の動きがあったんですか?

 こんな質問が出てくることを期待できます。人間、自分が質問したことについては非常によく理解できるものなので、学習効果が高まるのです。

 ちなみに、「禁止 対 可能」 を 「禁止 対 自由」にすると、「自由」という言葉が原則の大枠と方向性の2カ所で出てくるため、あまりよくありません。1つのテーマについて教える間は、1つの言葉は1つの意味でだけ使うほうが良いので、「自由」と「可能」で区別しておきます。

 教えるのが上手な人はこのような細部の言葉遣いがうまいものですが、そのためにはやはり事前に概念分析が必要なのです。この問題の場合、「概念分析」というのは図5のような構造化を行うことです。それをやっておくと、適切な言葉を使って口頭の説明を組み立てることができます。

 今回は「対称構造」を軸に説明してきましたが、「対称構造」というのは専門知識の概念分析をすると本当に非常に良く出てくるものなので、利用価値が高いのです。ぜひみなさんも、最初から「対称構造を探す!」という意識を持って情報を読んでみてください。

筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)

 IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『ITの専門知識を素人に教える技』『図解 大人の「説明力!」』


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