私が主催している文書化能力向上研修の受講者に、ある日、折れ線グラフ向きと棒グラフ向きの2種類のデータを渡しました。そして「グラフにしてください」と指示したところ、折れ線グラフと棒グラフを使い分けた解答は非常に少なかったのです。
数回の機会があり合計100人ほどから解答を得ましたが、適切に使い分けていたのは10人に1人以下で、ほとんどの人は「2枚とも折れ線グラフ」または「2枚とも棒グラフ」で書いていたんですね。
これが意味するのは「折れ線グラフと棒グラフには向き不向きがあって、使い分けなければいけない」意識を持っている人自体が少ない、ということです。そのため、たまたま1枚目に折れ線グラフを思い付いた人は2枚目もそのまま折れ線を使い、逆も同様。それでそのような結果になったと思われます。
折れ線グラフと棒グラフは、複数の系列のデータを比較したグラフを作りたいときに特にその差が大きく出ます。例えば、次の2つのグラフを見てください。
A社(青色)とB社(赤色)の2008〜2010年の売り上げ推移を、棒グラフと折れ線グラフの2種類で表したものです。元のデータは同じものなのですが、棒グラフと折れ線グラフでは少々印象が違います。どう違うかというと、
のような印象が強く出るのは折れ線グラフの方なんですね。
折れ線グラフは、時系列のような「一連のシリーズで関連性のあるデータを表現する」のに向いています。線がつながっているため、シリーズの中での変化に目が向きやすいわけです。
一方棒グラフは、測定点が独立していて相互に関連が薄いデータを表現することに向いています。従って2008〜2010年の売り上げ推移のように、相互に関連が強いことが明らかなデータには棒グラフは向いていません。
これが例えば「宮城と長野と東京の3地域の売り上げ」であれば、逆にそれぞれ独立したデータですから、折れ線グラフではなく棒グラフを使う方が適切です。
というわけで繰り返しになりますが、
・一連のシリーズで関連性のあるデータは折れ線グラフ
・複数の独立した測定点のデータなら棒グラフ
これが折れ線グラフと棒グラフの使い分けの基本中の基本です。もちろん、他にも円グラフ、面グラフなど多様なグラフ形式がありますが、最も使用頻度が高いのは棒と折れ線の2種類なので、まずはこれだけでも把握しておかれると良いでしょう。
何にしても大事なのは、グラフを作る時に「このデータに最もふさわしいグラフの形式は何か?」と、1分だけでも考えてみることです。何も考えないとたまたま最初に思い付いたグラフを作ってしまいますが、1分だけでも考えるようにすれば、いずれは適切な選択ができるようになります。
何ごとも「これでいいのか?」とほんの少しでいいから自問するようにしたいものですね。
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