ノンフィクションで5万部突破 『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業をつくった男』著者に聞くヒットの理由リクルート創業者の肖像【前編】(2/4 ページ)

» 2021年08月12日 05時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
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オーディオブックで好評

 広く読まれているもう一つの要因は、オーディオブックで好評だったことだ。audiobook.jpを運営するオトバンクの久保田裕也社長は、6月18日に「『起業の天才!』信じられないほど聞かれています」とツイート。6月はランキング上位を維持していた。ノンフィクションの新しい読み手を開拓した作品といえる。

 もちろん、支持されたのは内容だ。江副氏が1960年に23歳でリクルートの前身になる大学新聞広告社を創業し、以後、革新的なビジネスを生み出していく過程を詳細に追う。起業することが今よりも困難な時代に、既得権益を壊しながら新事業を次々と生み出した江副氏が、今の時代に受け入れられたのではないかと大西氏は分析する。

 「僕らの時代は一度就職したらその会社で定年を迎えるイメージでした。でも、今の若い人は違いますよね。入社する時から辞めるタイミングを考えている。それに、終身雇用自体も無くなりつつあります。会社を辞めた後の選択肢には、転職もあれば、起業もある。今はサラリーマンだけど、起業してみたいと考えている人は多いのではないでしょうか。

 インターネットの技術によって、今はビジネスを立ち上げることが極端に簡単になりました。AWS(アマゾンウェブサービス)などのクラウドサービスを使えば、人材を集めなくても会計や経理、税金処理などがネットで代替できます。そういう意味では、今はまさに起業の時代です。

 大成功をしなくても、自分が食べていくだけなら困らないと言った人たちは、これからどんどん増えてくるでしょう。そこに『起業の天才!』というタイトルがうまく刺さったのだと思います」

 本書では江副氏がリクルートの急成長を成し遂げた「大いなる成功」だけではなく、リクルート事件につながる「大いなる失敗」についても描き切っている。江副氏のドラマチックな人生を題材にした背景を大西氏は次のように説明する。

 「戦後70年以上盤石に見えた、経団連を筆頭とするエスタブリッシュメントの世界や、エリートの世界が今揺れています。就職活動をしている学生も、働いている人たちも、自分たちの会社は大丈夫だろうかと、そこはかとない不安を抱いています。

 江副さんは痛快なスター経営者であると同時に、光があって影があって、上りと下りを両方経験した経営者でもあります。この不安な時代に、江副さんをもう一回見直してみましょうというのが本書のメッセージです。このメッセージが読者に届いたのではないでしょうか」

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