東京・新宿の歌舞伎町で、深夜に営業している「ニュクス薬局」。2014年のオープンから夜の街で働く人々に口コミが広がり、「相談できる深夜薬局」として知られている。テレビや新聞などに取り上げられたほか、取材を受けた書籍『深夜薬局 歌舞伎町26時、いつもの薬剤師がここにいます』(小学館集英社プロダクション)も出版された。
国内でも有数の繁華街である歌舞伎町は、20年からのコロナ禍で大きな打撃を受けている。その中でも「ニュクス薬局」は休むことなく深夜の営業を続けてきた。1人で薬局を切り盛りする代表の薬剤師、中沢宏昭氏は、今後も歌舞伎町で営業を続け、一緒に働く仲間を増やしていきたいと語る。前編「歌舞伎町26時 唯一の「深夜薬局ビジネス」が成り立った理由」に続き、「ニュクス薬局」の今後について中沢氏に聞いた。
ニュクス薬局の店頭に並んでいるのは、精力剤や栄養ドリンク、女性用の化粧品や膣カンジダ用の治療薬など、風俗店やラブホテルが立ち並ぶ歌舞伎町で需要がある商品だ。これらの商品を買い求める客も少なくない。その一方で、最も多く訪れるのは病院からもらった処方箋を持ってくる女性たちだという。
処方箋を持ってくる客は通院しているので、薬局にも定期的に通う。ニュクス薬局を訪れては、中沢氏と長く話をしていく人も少なくない。たあいない話をする人もいれば、自分の悩みについて語る人もいる。それは「深夜に営業している薬局ならではでしょう」と中沢氏は言う。
「日中に薬局に行っても、薬剤師に自分の悩みだとか、プライベートのことを深く話すことはあまりないですよね。夜の街で働いていて悩みを抱えていると、『どうせこの人たちは自分とは違う』と思うのかもしれません。その点で言えば、私は皆さんと同じように夜に働いて、しかも深夜まで営業しているので、話しやすいと思ってもらえているのかもしれないですね」
中沢氏自身も、気軽に相談してもらえるような工夫をしている。無理に話をするのではなく、その人の口数に合わせることで、徐々に会話が増えていく。
「悩みがありそうなお客さんには、薬を渡す時、飲み方や副作用について説明する以外に、少し会話を入れるようにしています。処方されている薬についてズバリと聞くのではなく、少し遠いところから会話のボールを投げていくイメージですね。そういうやりとりをある程度していると、お客さんから話していただけるようになります。
お客さんは圧倒的に若い人が多くて、20代から30代の夜の仕事をされている方がほとんどですね。オープンしてすぐに気付いたのは、丁寧語で話していると、私が年上ということもあって距離感ができてしまうことです。それで、わざとため口のような言葉遣いに変えました。その読みが当たって、気軽に話してもらえるようになりました」
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