トップインタビュー

歌舞伎町26時 唯一の「深夜薬局ビジネス」が成り立った理由「ニュクス薬局」のビジネスモデル【前編】(1/5 ページ)

» 2021年11月05日 05時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 東京・新宿の歌舞伎町で深夜に営業している薬局がある。その名は「ニュクス薬局」。2014年のオープンから夜の街で働く人々に口コミが広がり、「相談できる深夜薬局」として話題になった。テレビや新聞などに取り上げられているほか、取材を受けた書籍『深夜薬局 歌舞伎町26時、いつもの薬剤師がここにいます』(小学館集英社プロダクション)も出版されている。

新宿・歌舞伎町の深夜薬局「ニュクス薬局」(8月までの旧店舗)

 「ニュクス薬局」は、薬剤師でもあり、経営者でもある中沢宏昭氏が1人で切り盛りしている。中沢氏は10年以上、薬局に会社員として勤務しながら1000万円を目標に自己資金を貯めて、35歳で起業した。今では歌舞伎町になくてはならない存在だ。歌舞伎町で深夜薬局というビジネスモデルが成り立っている理由を、中沢氏に聞いた。

中沢宏昭(なかざわ・ひろあき)ニュクス株式会社代表取締役。管理薬剤師。新潟薬科大学卒業後、関東・東北地方で小児科・内科クリニックの門前薬局を展開する調剤薬局チェーンと、東京都杉並区にある総合病院付近の調剤薬局で調剤業務を経験。2014年、新宿区歌舞伎町に深夜に営業するニュクス薬局を開局。1人で接客するほか、処方箋の応需や事務も手掛ける。取材を受けた書籍に『深夜薬局 歌舞伎町26時、いつもの薬剤師がここにいます』(小学館集英社プロダクション)

ファンビジネスのようなもの

 JR新宿駅東口を出て、北に歩いたところに広がる大歓楽街・歌舞伎町。ひときわ高層の建物にホテルや映画館、飲食店などが入居する新宿東宝ビルを目指して歩くと、通りには飲食店がひしめき合っている。新宿東宝ビルからさらに北に進み、細い通りに入っていくと、一般の飲食店は少なくなり、キャバクラやホストクラブなどが立ち並ぶエリアに入る。この一角に店を構えているのがニュクス薬局だ。

 ニュクスとは、ギリシャ神話に出てくる夜の女神のこと。深夜に開いているこの薬局には、客がぽつり、ぽつりと入ってくる。女性であれば、処方箋を持ってくる人や、膣カンジダ薬を買い求める人も少なくない。

 病院で処方された精神安定剤の調剤や、膣カンジダ薬などの第1類医薬品は、薬剤師の資格を持つ人がいなければ販売することができない。深夜でもこれらの薬を買うことができる薬局は貴重な存在で、歌舞伎町で働く人だけでなく、いろいろな街から客が訪れる。

 接客をしているのは、薬剤師でもあり、経営者でもある中沢宏昭氏。女性客が入ってくると、長く話し込むことも珍しくない。薬や体調について話すというよりも、仕事やプライベートについて相談してくる人も少なくないという。中沢氏はじっくりと客の話に耳を傾ける。長い時には1時間以上話を聞くこともあるという。

 深夜に営業していて相談もできるのは、ニュクス薬局の特徴でもある。客の回転率や、経営の効率から考えればプラスにならないのではないかと中沢氏に聞くと、「お客さんの話を聞くことも仕事です」と話す。

 「うちの薬局はファンビジネスと似たところがあると思っています。医者であれば、大きな病院で『この先生に診てもらいたい』と希望するケースがありますよね。普通の薬剤師にはそういうことはないのですが、ここは私が1人で経営していて、いつでも私だけがいるので、私と話がしたいと思って来てくれる方がいます。もちろん、他のお客さんを待たせてまで長く話すことはできませんが、可能な限り話をさせてもらっています」

ニュクス薬局の店内
       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.