急接近する自動車とケータイモバイルクロスオーバー(5/5 ページ)

» 2004年01月13日 15時53分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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 改正道路交通法は、今年年明けの通常国会に提出されるもので、現在、このドラフトとも言える「道路交通法改正試案」(http://www.npa.go.jp/comment/kouki1/honbun.htm)が警察庁のWebページで公開されている。この中で、運転中の携帯電話利用の罰則強化が行われているのだ(2003年12月の記事参照)。具体的には、

 「自動車や原動機付自転車の運転中に、携帯電話等を手で持って通話したり、メールの送信等を行ったりした者に対して、5万円以下の罰金を科すこととします。また、この違反行為に対しては、交通反則通告制度を適用することとします」(道路交通法改正試案抜粋)

 となっている。従来も携帯電話の利用は禁止されていたが、「道路における交通の危険を生じさせた者は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」になっていた。改正後は「危険を生じさせなくても」取り締まりの対象になり、警察も検挙に力を入れる方針だ。

 改正道路交通法が施行されれば、ドライバーはイヤホンマイクかハンズフリーフォンの利用を強制される。一方で、これまでのイヤホンマイクは携帯電話につながるケーブルが邪魔であり、ハンドル操作の妨げになる危険性もあった。

 日本に先駆けて運転中における携帯電話利用の罰則強化を行った欧州では、これがBluetooh型ヘッドセットマイクの需要を喚起し、携帯電話のBluetooh内蔵を促す呼び水になった。Nokiaなど欧州メーカーの携帯電話がBluetooh対応しているのは、このためだ。

 日本でも既にトヨタ自動車がBluetoothでハンズフリー通話が可能な純正カーナビを発売しており、後を追うようにこれに対応した外付けBluetoohユニットがauから発売された(2003年11月の記事参照)。改正道路交通法の施行や検挙の実施状況によっては、欧州と同様のシナリオで、携帯電話のBluetooth内蔵が進むだろう。

ロードサイドスポットが携帯電話のFeliCaに注目

 昨年末にNTTドコモ、KDDIが対応を発表した非接触IC「FeliCa」も、自動車業界が牽引していくかもしれない(2003年12月の記事参照2003年12月の記事参照)。

 まず大きなニーズがあるのは、ガソリンスタンドチェーンだ。最近、日本でもセルフ式ガソリンスタンドが増えてきているが、クレジットカード決済をした場合でもサインが必要な場合が大半で、ガソリンスタンド側のオペレーションコストや人員は大きく減らせない実情がある。

 そこで大手ガソリンスタンドチェーンは、高速道路でワイヤレス決済を行うシステム「ETC」の発展系である「DSRC」をガソリンの決済で使えないかと検討しているが、昨年末から携帯電話のFeliCaへの期待が高まっている。

 「DSRCも検討しているので大きな声では言えないが、重要なのはユーザーが簡単かつ手軽に使えて、セルフスタンドのオペレーションの削減になり、(屋外に設置される)機器メンテナンスコストの低い決済システムであること。DSRCは設備コストが数百万から1千万円規模と高額で、ユーザー側装置の早期普及が難しそうだが、(携帯電話の)FeliCaなら設備投資が少なくて済むかもしれない。ユーザーに広く普及したら非常に魅力的」(大手ガソリンスタンドチェーン幹部)

 また、セルフ式ではないガソリンスタンドでも、最近はクレジットカードのスキミング(情報の盗み取り)被害を警戒する顧客が増えており、ユーザー自身にFeliCa対応携帯電話で支払ってもらう方法も考えられるという。

 ガソリンスタンド以外でも、ドライブスルーの飲食店や、有料駐車場の支払機など、これまでDSRCが唯一のワイヤレス決済装置と考えられていた分野を、携帯電話のFeliCaが総取りしてしまう可能性があるだろう。

ケータイ文化がクルマと融合〜新たな時代を拓くか!?

トヨタ自動車の近未来自動車コンセプト「PM」。可変ホイールベースやインホイールモーターなど自動車技術としてもユニークだが、注目すべきは「個」と「コミュニケーション」という携帯電話カルチャーの洗礼を受けたクルマであること

 技術やサービスではなく、“文化”の面でも、携帯電話と自動車の急接近は起きている。

 その顕著な例が、昨年の東京モーターショーでトヨタ自動車が参考出品した「PM」だ。これは1人乗りのパーソナルヴィークルで、PM同士が車車間通信でコミュニケーション。ドライバーがメッセージ交換をしながら、コミュニケーションとドライブを楽しむヴィジョンが示されている。1人乗りの「個のスペース」同士を、ワイヤレス通信でヴァーチャルにつないで「空間」を作るという考え方は、携帯電話カルチャーそのものだ。

 「モバイル」をキーワードに、今後、自動車と携帯電話は、技術から文化まであらゆる分野で、さらに接近し、融合していくだろう。

神尾寿

通信・ITSジャーナリスト。IT雑誌契約ライターを経て、業務委託で大手携帯電話会社のデータ通信ビジネスのコンサルティングを行う。1999年にジャーナリストとして独立。移動体通信とITSを中核に通信が関わる分野全般を、インフラからハードウェア、コンテンツ、ユーザーのニーズとカルチャーまでクロスオーバーで取材している。ジャーナリストのほか、IRICommerce and Technology社レスポンスビジネスユニットの客員研究員も努める。

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