ITmedia Mobile 20周年特集

端末総販売数、2割減──新販売方式の影響は、そして国内端末メーカーの未来は2008年の通信業界を振り返る(3)(2/3 ページ)

» 2008年12月30日 14時00分 公開

2008年、印象に残ったメーカーは?

ITmedia 市場全体が落ち込むという大きなうねりの中で、三洋電機は携帯電話事業を京セラに売却し、三菱電機は端末事業から撤退しました。また前述のとおりNokiaは、2008年も個性的なモデルをいくつか出したものの、結局日本市場向けの端末供給からは手を引くという結論を出し、大きな波紋を起こしました。そんな中で元気があった端末メーカーや印象に残った端末メーカーはありますか?

Photo 「NECは組織が変わって成果が出つつあると思う」(石川氏)

石川 組織が変わって成果が出つつあるのはNECなのかな、と思います。クリエイティブスタジオができてから、「N-01A」のような折りたたみではない面白い端末も出てきていますし、一方で「N-02A」のような究極の折りたたみ端末が出てきていることを考えると、現状は厳しいながらも頑張ってほしいという状況はあると思います。

 またVIERAケータイこと「P905i」「P906i」が非常に売れましたね。パナソニック モバイルコミュニケーションズがVIERAという軸をもって復調の兆しにあることは非常いいことです。ただ、2008年冬モデルでは、これまでのWオープンスタイルを踏襲して「P-01A」と「P-03A」という兄弟モデルを作ったのはどうなのかなぁと思います。あまりにVIERAケータイの成功軸にすがってはいないだろうかというのが少し気になるところです。

 かつて薄型軽量路線で売れていた時はその路線を踏襲していたし、「P900i」から始めたカスタムジャケットの時もそうでしたが、パナソニック モバイルはそういった傾向が強いと思います。ヒット商品が出ると守りに入ってしまうのは仕方がないのですが、もう少し新たな軸を出してほしかったです。

神尾 シャープがユーザビリティやユーザーインタフェースの洗練といった点で先行した時に、手綱を緩めなかったので、なんだかんだ言いながらも他社のUIより1周半くらいリードしているんだな、というのが、特にドコモのPRIMEシリーズ(「SH-01A」「SH-03A」)を見て思ったことです。

 QRコードや名刺リーダーの自動認識機能とか、細かな使いやすさの向上がすばらしい。あのあたりはユーザーからしてみれば「なんで今までできなかったのか」と言いたいところだったのですが、そういった部分をキッチリやってきています。Appleとはアプローチやセンスが違うのだけれども、シャープはApple並に使いやすさを重視した端末が作れるメーカーになってきていると感じました。UIへの投資や、ノウハウの蓄積はシャープの強みになってきていますね。

 海外も含めて、シャープはまだ余裕があるという気がします。今までも地道に使いやすかったのですが、シャープはそこに安住せずに使いやすさに磨きをかけてきました。ただ、今年は“飛び道具”が足りなかったという印象はあります。フォームファクター的な目新しさがないので、そこはシャープの今の弱点かもしれません。中身はすごくよくなっているのだけれど、その中身の変化を店頭で感じられるだけデザインの訴求力がないんです。

Photo 「シャープが本気を出したコンパクトなハイエンドモデルが見たい」(神尾氏)

 あと、個人的にはシャープが本気を出したコンパクトなハイエンドモデルが見たい。シャープもスリム端末を出していますが、ハイエンドモデルだと、どうにも大きくて野暮ったいのが不満です。機能・性能とデザイン性の両立はチャレンジしてもらいたいテーマです。

 シャープ以外では、「不況に強い富士通」というのがポイントかなと思いますね。2008年の年末商戦はより一層厳しい販売状況になると思いますが、そういった状況では富士通のシェアは相対的に安定していますので、ほかのキャリアよりも上に行ける。そこは富士通の強みだと思います。富士通はUIを中心にいい端末を作っているので、もう少し個性がでてくれば、厳しい状況下でも生き残れるメーカーだと思います。

石川 メーカー関係者に聞いた話なのですが、割賦販売制度が導入されたことによってらくらくホンが売れなくなりつつあるそうですよ。プレゼント需要として気軽に買って渡せなくなったのは、富士通にとってかなりマイナスな気がします。今までのように、らくらくホンという絶対的な数があってその上に乗るということがだんだんできなくなってきているのは、やや厳しくなる面ではないかと思いますね。

 ドコモの2008年冬モデルでは、富士通は防水という軸を強く推して「防水端末メーカー」になろうとしています。とりあえずPRIMEシリーズは上手くいっているので、この次にどう行けるか、というところが鍵になるのではないかと思います。

 今年、三洋電機の携帯部門が京セラに買われ、三菱電機が撤退したというのは非常に象徴的なことだったと思いますし、恐らくその流れはまだまだ終わるものではなく、さらに撤退するメーカーは出てくるだろうと思います。キャリアが黙認している以上、それは避けて通れないでしょう。もしかしたらキャリアが口添えして「このメーカーとこのメーカーをくっつけよう」といったような話も出てくるかもしれません。

 ただし今後の話をするならば、日本国内を見た時、メーカーの数は少なくなり、年間販売台数が4000万台前後と言われる市場を2〜3社とか4〜5社のメーカーで分け合って、ある程度体力をつけて世界に出て行くというシナリオになると一番いいのかな、と思います。

 もし総務省がそこまでのことを考え、メーカーを減らすことが前提で販売奨励金の見直しを考えていたのであれば、総務省って素晴らしいなぁと思うのですが……(苦笑)。多分そこまでは考えられていないですよね。

ITmedia ファンが多いソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズはどうでしょう。ドコモの2008年冬モデルにはSOがありませんでしたが、au向けでは意欲的なモデルも出てきていますよね。海外ではWalkman PhoneやCyber-shot Phone、それにスマートフォンの「Xperia X1」も人気です。

石川 Walkman Phone, Xminiみたいな端末は非常にソニエリらしいなと感じました。KCP+の初期モデルに比べたら。

神尾 そりゃあそうですよ(笑)。それは比較が悪いと思います。

 ソニーなのかソニー・エリクソンなのかというのはありますが、やはりソニーらしさで行くのであれば、Xminiはもう少し質感にこだわってほしかったですね。もう一歩、高級感がほしかったところです。

ITmedia ソフトバンクモバイル向けに、W-CDMA端末の供給を始めたカシオ計算機はいかがですか? よく見ると中身はNECのOEMのようですけれど。

神尾 あれを「始めた」といっていいのか、という議論はありそうですが。

石川 ソフトバンクモバイルへの参入第一歩としてああいう形になったんだろうなと思いますね。将来的には当然“カシオとしてのW-CDMA”を作ってくるでしょう。

 2009年以降は、そういったOEMといったものも増えてくるでしょうし、そのOEMで調達してきた中で、どれだけ自社の味を付けられるのかという部分も力の見せ所になるでしょう。

神尾 メーカーを超えてのOEMやプラットフォームの共有はこれからは増やさざるを得ないでしょうね。自動車などの成熟産業の中では、普通にやっていることです。それこそ富士重工業(スバル)がトヨタ自動車から車台を買ってきて、デザインだけ少しいじってコンパクトカーを作ったりしているわけですから。

石川 なぜ携帯メーカーというのはOEMとかODMといった話をしないんでしょうかね。そこが良く分からない。

神尾 プライドでしょうか?

ITmedia ソフトウェアやユーザーインタフェースなどの使い勝手の部分にはしっかりとしたポリシーを持つようにして、内部のハードウェア的な部分は共用する、というモデルはあって然るべきですよね。

神尾 少なくとも、ある程度の部材共有化をしないとコストは下げられません。それこそNokiaくらいボリュームを作れるのならいいのですが、そうでないのならOEMやプラットフォーム共有は恥じることではないと思うのですけどね。むしろ、隠す方がやましく感じるわけで。

石川 プラットフォームが共有化されても、そこにプラスしてどれだけ差別化できるのかというのが、今後メーカーとしては生き残りを賭ける部分だと思うし、それができないメーカーは多分落ちていくんだろうな、と思います。

 例えばauの2008年秋冬モデルでは、シャープの「W64SH」なんかがKCP+の上にいろいろな機能をゴリゴリに載せて差別化しているじゃないですか。ああいった例を見ると、勝ち残れるメーカーは共通プラットフォームにでもさまざまなものを載せるだけの体力もあるし、それで勝ち残ってきているように見えます。共通プラットフォームだけで勝負しようとすると厳しいのかなぁと感じます。

神尾 W64SHは、あまり美しくはないんですけどね。独自仕様なのはいいのですけど、ツギハギ感がけっこう見えてしまっていて、ちょっと興ざめです。KCP+の独自拡張という心意気はいいと思いますが、ユーザーインタフェース全体がシームレスに統合できるようにならないと、かえって商品力を落としてしまうかもしれません。KCP+は、もっとUI設計の自由度を上げるべきなのかもしれません。

石川 他キャリアと比べたら、KCP+は明らかに2周くらい遅れていますからね。

神尾 あと、2009年を見越して言えば、端末の投入サイクルはもう少し伸ばしてもいいと思います。特に3商戦期制は、もはや無意味なだけなのでやめるべきでしょう。キャリアとしてラインアップ単位で発表・投入するより、モデルごとにこまめに製品投入していくべきです。

石川 それも変わってくるかもしれないですね。かつては新製品がパラパラと発表されていましたが、あるタイミングからキャリアがまとめてドーンと端末を発表して技術を見せる、という状況を作ってきました。それがまただんだん変わっていって、製品ができたら発表するという流れになってくるのかもしれません。

神尾 3商戦期制そのものが、もはや時代遅れなのかもしれません。キャリアも、もうまとめて発表・発売しなくていいと思いますよ。その点では、今回のauのXminiの打ち出し方はよかったですね。無理に3商戦期に合わせないで、端末に合わせてメーカーと一緒にどうプロモーションを打つのかを考え、端末を作り、発表会を行うというのは。これからは新モデル発表会は、メーカー単位で1〜2機種ずつ毎月こまめにやった方がいいと感じました。

石川 Xminiの発表会は、メーカーのソニー・エリクソンや着うたフルプラスをメインに非常に盛り上がった発表会にもなったし、メディアの質問も多かったと思うし、そう考えるとああいった成功モデルはあってもいいのかな、という気がしますね。

神尾 例えばドコモはカメラを軸にしたシャープの2機種だけの発表会があってもよかったと思うし、KDDIは「EXLIMケータイ W63CA」だけの発表会をやった方が製品の魅力がよく伝わったと思います。結局メーカーが個性を出せば出すほど、キャリアがラインアップをまとめて発表するとぼやけてしまうんですよ。

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