ITの急速な普及により、今世界各国で年齢に関係なく、さまざまな依存傾向が報告されている。具体例としては、韓国で起こったネットゲーム依存、日本で起こったメール依存、米国を中心としたSNS依存などがあるが、これらはトータルでいえば、インターネット上の、あるいはインターネットを経由してもたらされる情報への接触性が上がってきたことに起因すると考えられる。
特に携帯電話やスマートフォンといったモバイル機器は、いつでも身につけていられることや、プッシュ型のアテンション――例えばメールやSNSからのメッセージ、新しいニュースなどの着信――によって、常に我々の注意を引きつけるようにできている。PCがネット利用の主流だった時代よりも、さらに我々は押し寄せてくる情報の処分に、より多くの時間を割かねばならなくなった。
これらのテクノロジー依存、筆者はIT依存だと思っているが、これについては東洋経済新報社刊「毒になるテクノロジー」が参考になる書籍だ。著者のラリー・D・ローゼンは、カリフォルニア州立大学の心理学教授である。
ローゼンはテクノロジー依存の傾向を、2タイプの強迫行動に分類している。タイプ1はそもそも機器が好きで、長時間ネットサーフィンをしたり、アプリを利用するタイプ、タイプ2は大事な情報を逃さないか不安で、ネットやスマホから目が離せないタイプだ。
タイプ1の人は、テクノロジーから得られるメリット、例えばコミュニケーションやニュース、動画、音楽といったものを享受しているわけだが、それによって人間関係や日常生活に支障をきたした時点で依存と判断される。
依存になりやすい性格として、以下の6つのポイントが挙げられている。
テクノロジー依存になりやすい性格 | |
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衝動性 | よく考えないで行動しがち |
刺激追求 | 常に新しいものを求める |
精神病質 | 時に攻撃的になる |
社会的逸脱 | ルールや規範に従わない |
危険回避 | ネットでは実社会よりも責任や被害が少ないことを知っている |
報酬依存 | 環境から受けるポジティブな刺激に過敏に反応する |
青少年の場合は、まだ性格が固定されたものではなく、環境や教育によって変わる可能性は十分にあるので、現時点で上記に当てはまるから問題であるとは限らない。それよりも、テクノロジーの利用が過剰ではないか、常に保護者が関心をもって観察していることのほうが重要である。
従来型の精神療法の中で、テクノロジー依存に対してどれか1つのアプローチで十分な効果があるものはいまだ見つかっていない。ピッツバーグ大学のキンバリー・S・ヤングは、過度のテクノロジー利用を回避するため、以下のようなアプローチを提唱している。
タイプ2の強迫行動は、米国の音楽系放送局「MTV」が青少年を中心に調査した結果から、「FOMO(Fear of Missing Out)」と命名された。見逃してしまうことへの恐怖、とでも訳しておく。
これはすでに日本でも、中高生のメール依存の問題が表面化したときに現象として確認されている。例えばケータイを家に忘れたら学校や職場に遅刻してでも取りに戻る、ケータイが鳴ったような、あるいは振動したような気がするが確認すると何もない、特に用事がないのにケータイを開いてしまう、といった行動である。
FOMOの脅迫行動としての特徴は、これらの行動が自分でも不合理であるということを分かっており、それが自分でコントロールできないことである。
実際に半日や1日ネットに接続しなかったからといって、自分にとって決定的に不都合になるようなことは起こらない。例えば筆者は時折海外出張をするが、その時はネットで日本のニュースをチェックする暇がない。1週間ほどして日本に帰ってくると、まったく日本のネットのトレンドに付いて行けなくなったような気がする。しかし1日2日でその感情は消える。付いて行けなくなったと感じるのは、錯覚だ。
FOMOに対処する方法として、アメリカン大学の研究者は、スマホアプリの通知機能を調整して、通知を減らすことを推奨している。また米国のある科学ジャーナリストは、次の4つを提唱している。
FOMOに対処する方法 | |
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再考 | テクノロジーの使用時間を計算する |
再起動 | テクノロジーの使用を一定期間絶つ |
再接続 | 再びテクノロジーを徐々に取り入れていく |
再生 | できるだけ多くの人との直接手系なふれあいを優先する |
これらの対処法は、韓国のネットゲーム依存のリハビリ施設でも行なわれており、成果を上げている。ここでのポイントは、テクノロジーの利用を禁止したり排除したりすることではなく、節度ある利用に戻すことにある。
テクノロジーは、麻薬やギャンブルのようなものとは違い、使わなくて済むようなものではない。利用すれば生活が向上するものであるにも関わらず、過剰な利用によって生活が破綻するという本末転倒なことになるのが問題なのである。
子どもの生活は学校の課題や行事に縛られる比率が高く、学齢が上がるに従って自由な時間が減少していく。もし依存傾向を示せば生活態度にすぐ現われるので、保護者は気づきやすいはずである。
反抗期の子どもはとかく扱いづらいものだが、遠慮なしに干渉できるのは保護者しかいない。子どもの方向性は常に調整する必要があることを、忘れないでおきたい。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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