青少年のネット依存を考える(3):小寺信良「ケータイの力学」

» 2012年11月19日 14時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 前回までは青少年のネット依存について、韓国の例を見てきた。韓国のネット依存はオンラインゲームを中心としたものであり、他国ではあまり類を見ない特徴的なものである。

 一方日本で近頃急速にメディアなどで取り上げられ問題視されているのが、SNSに対する依存である。Twitter、Facebook、mixiが日本においての三大SNSだが、日本で発達したソーシャルゲームもその切り口で一緒くたにされてしまう例も多い。

 ソーシャルゲームは、プラットフォーム上にはSNS的な機能はあるものの、各個人のアイデンティティを発揮して個人的な人間関係を築くような仕組みにはなっていない。一時期その傾向もあったが、青少年ネット規制法と出会い系規制により、SNS的な切り口では語れないものへと変質した。これは現時点では、オンラインゲームと見るべきだろう。

 また昨今急速にユーザーを増やしているLINEや、その対抗であるcomm、カカオトークといったコミュニケーションツールが、どのような独自世界を形成するのかはまだこれから観察が始まる段階である。現時点の研究を、これらの新興サービスに当てはめるのは性急すぎる。

 もちろん日本でも、SNS依存に関して心理学を中心に研究が進められているが、特にSNSというものが米国を中心に発達したことを考えると、先に体系化が進んでいる米国の研究をまずは知っておくべきだろう。

 米国には、SNS依存の症状を、既存の精神的疾患である“自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder:NPD)”と比較した研究がある。以下にNPDの特徴的な例を示す。

  • 根拠もなく自己の重要性を過大に評価する
  • 成功や理想にとらわれすぎている
  • 自分は生まれつき特別な存在であると信じている
  • 過剰な賞賛を要求する
  • 人間関係が搾取的で、他人を利用する傾向が強い
  • 他人への共感が不足している

 NPDそのものはすでに1960年代から提唱されていたが、近年日本のネットでも、いわゆる“中二病をこじらせた”などということばで表わされる現象と酷似している。

 これを見て、自分にも当てはまると早速反省する人もあると思うが、実際には皆多かれ少なかれ、上記のような傾向は持ち合わせているものだ。というのも、そもそも自己愛はアイデンティティの確立に不可欠なものであり、ちょうどそれが確立する思春期に、過剰にナルシシズム的な傾向を表わすのは、ごく当たり前の事である。

 問題は、SNS(あるいはもっと古いパソコン通信時代の掲示板までさかのぼって含めてもいいかもしれない)が、これらの症状を助長するのではないかと考えられることである。

自己愛を増長するSNSの構造

 具体的な例を見てみよう。例えばFacebookでは、「いいね!」の数によって賞賛の「量」が測定される。誰でも人から「いいね!」と言って貰えるのは、心地よいものだ。そうなると必然的に、人から「いいね!」を押させるための写真を選択したり、人からうらやまれる発信したりするようになる。

 Facebookでは、ポジティブな発言が多くなれば、いわゆる粘着や炎上のようなことが起こりにくくなるという設計思想が根底に見られる。それはおおむね良好に機能していると言えるだろう。だがそれがある臨界点を超えると、Facebookユーザーはいかに自分が良い思いをしたかを報告することに熱心になり、自分の幸せを過剰に演出する傾向が現われてくる。

 また友達関係がアイコンによって可視化されるシステムでは、自分の価値や存在を高めてくれる人と友達になろうとする傾向が見られる。このような行為は「トロフィーフレンド」という言葉で象徴されるが、自分のページに表示される友達に有名人や成功者のアイコンを飾ることで、自分も同等の価値がある人物としてみられたいという願望を叶えている。

 有名人からすれば、向こうはこちらを知っていて、こちらは向こうを知らないというのがデフォルト状態なので、SNSの友達申請も「ファン」として見ている。もっとも、本人が自分で管理しているかどうかも分からないが、自己顕示のためのバッジとして利用する側からすれば、それは大した問題ではない。

 一方Twitterでは、ニュージャージー州ラトガース大学による研究で、ユーザーには“インフォーマー”と“ミーフォーマー”のタイプがあると分析している。

 インフォーマーとは、他者に何かを知らせるのを主な目的とする人で、情報共有のハブとなるため、コミュニケーション活動も活発で、フォロワー数が増える傾向がある。

 一方ミーフォーマーとは、自分の行動や思考、感情について発言する人で、フォロワーはごく親しい人に限られ、コミュニケーションは不活発である。調査対象である3000以上の発言のうち、ミーフォーマー型ユーザーによるものが80%に上ったという。

 いわゆる「○○なう」的な発言では、コミュニケーションは成立しづらいのは道理だが、そもそもTwitterが日本で火が付いたのは、たわいのない発言から流れ出す思考が興味深いからだった。ただそのような下地が、過剰な自己愛的傾向を生み出しやすい土壌となっているという指摘である。

 青年期におけるアイデンティティの確立とは、他者に対して自分を表現し、その反応を受けて内面的な自己像を調整していく行為である。現代の青少年がネットという広大かつ強烈な表現の場を持つことは、自己のアイデンティティ確立にとって少なくない影響を与えている事だろう。ただそれは、ネガティブな影響があると断言するほどの根拠はなく、場合によっては高い付加価値が得られる可能性があることが指摘されている。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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