KDDIが発表した“プリペイド電子マネーサービス”「au WALLET」は、これまでau IDという名で提供していた、サービスの認証キーとしての役割に加えて、実際の買い物に利用できる決済機能を用意した新しいサービスだ。2月にその構想を発表していたが、5月21日のサービス開始を控えた8日、その詳細を明らかにした。
最大の特徴は、決済に利用するプラスチックカードを発行すること。そして、au WALLET専用のインフラを必要としないことだ。プリペイド式なので、ポイントカードのように事前審査なしでカードを発行でき、未成年やクレジットカードを持っていない人でも利用できる。
電子マネーと聞くと、「楽天Edy」や「Suica」のような、リーダー/ライターにカードやスマートフォンをかざす非接触IC(FeliCaやNFC)を利用するサービスを思い浮かべる人が多いかもしれない。au WALLETも、自分でチャージしてカードで決済するという点では、楽天EdyやSuicaのようなICカードに近いものと言える。ただし、au WALLETは既存のクレジットカードのインフラで利用する。代金は、ピッとかざすのではなく、クレジットカードのように磁気ストライプをカードリーダーに通して支払う。MasterCardプリペイド決済システムを活用しており、クレジットカード決済に対応した店舗の多くで利用できるのは、ICカードを利用するサービスとは異なる点だ。海外でも多くの店舗で利用できることをウリにする。
また既存の非接触ICカード型の電子マネーサービスでは、カード側に残高情報が記録されているため、残高の確認にはFeliCaやNFCの読み取りに対応したスマートフォンやリーダー/ライターが必要だ。しかしau WALLETは、カード型ながら残高はサーバ側で管理されているため、専用のスマートフォンアプリやWebサイトで簡単に残高確認やチャージができる。カードをかざす必要がないので、カード型ながらモバイルSuicaなどに近い使い勝手を実現している。オートチャージ機能を利用すれば、チャージ金額が一定額を下回ったときに、自動的に指定した額をチャージできる。
なお、au WALLET カードはNFCチップを内蔵しているが、現時点ではNFCの通信機能は決済には利用していないという。おサイフケータイのような独自の仕組みも不要なため、iPhoneユーザーもAndroidユーザーも、当初から同等のサービスが利用できる。auひかりやauひかりちゅらの契約者もカードを発行してもらえるので、スマホを持っていなくても利用可能だ。
ちなみにauショップのキャンペーンで設置する「au WALLET ウェルカムガチャ」ではNFCを認証に利用しているほか、AndroidスマートフォンにはNFCを搭載するものも多いので、今後はこのカードに搭載したNFCチップを活用する新たなサービスも登場する可能性は高い。
興味深いのは、今回のau WALLETのポイントサービスに、独自の電子マネーサービス「nanaco」を擁するセブン-イレブン・ジャパンや、楽天Edyを早期から導入しているマツモトキヨシなどがポイントアップ店として提携していること。現時点では、au WALLETとnanacoの相互乗り入れなどの話は出ていないが、単なるポイントサービスだけでなく、決済まで用意したau WALLETに可能性を見いだしたということなのだろうか。
通信業界では、ソフトバンクモバイルがすでにポイントプログラムを「Tポイント」に切り替えている。7月1日以降はソフトバンク端末の購入代金や修理代金、付属品の購入などにTポイントが利用可能になる。Tポイントは、TSUTAYAやファミリーマートなど、2014年2月末現在、全国110社、6万8734店舗が参加しており、Yahoo! JAPANなどでも導入している日本最大の共通ポイントサービスだ。
NTTドコモのドコモポイントは、まだコンビニやレストランで利用できるわけではないものの、JALマイルへの交換が可能なほか、コンテンツの購入やカタログギフトへの交換などに対応している。ドコモ端末やオプション品の購入、修理などにも充当できる。先の2社と比べると、利用できるところはまだ少ないが、今後どういった提携を進めるのかは気になるところだ。
ポイントサービスは、規模の大きさがユーザーメリットの大きさに直結する部分もあり、多くの陣営がさまざまな合従連衡を画策しているはず。その中で、KDDIが採った戦略はどんな波紋を呼ぶのか。多くのユーザーを抱える通信事業者が、自社のサービスとしてどのようなポイントプログラムを提供するのかは、今後の契約獲得にも大きな影響を及ぼしそうだ。
発表会でau WALLETの説明をしたKDDI 代表取締役社長の田中孝司氏は、「グッバイ、おサイフ!」というキャッチフレーズを誇らしげに示した。あえてプラスチックカードを発行し、これまで通信事業者各社が進めてきた「おサイフケータイ」との決別を示唆するかのような文言を掲げる背景には、日本独自のおサイフケータイを利用する電子マネーからの脱却を目指す意図もあるのかもしれない。
FeliCaをベースとした非接触ICカードやおサイフケータイで利用できる電子マネーサービスは、2001年に初めてカードが発行されてから10年以上が経過し、交通機関やコンビニエンスストアなど、さまざまな場所で利用できるようになっている。一定の認知は得ており、電子マネーの利用率が増加しているのは間違いない。
しかし、フェリカネットワークスによる2013年5月の調査では、おサイフケータイ所有者のうち電子マネーの利用率は68.1%に上るものの、おサイフケータイの利用率は20.3%にとどまっている。残りの47.7%の人は、おサイフケータイを持っているにもかかわらず、カードで電子マネーを利用している。
こうした実状と、AppleやSamsung Electronicsといったグローバルメーカーを中心に進むスマートフォンの普及を踏まえると、おサイフケータイ対応スマートフォンをベースにサービスを設計するのには無理があると言わざるを得ない。多くの人に、電子マネーの利便性と安全性を提供する取り組みとしてスタートするau WALLETが、扱いやすいカードをベースに、スマートフォンと連携する便利な機能を用意し、利用を促進する中で、おサイフケータイへの対応を後回しにする、あるいは対応しないという判断を下すのは、必然だったのだろう。ポイントサービスの変更と相まって、おサイフケータイの今後を占う上でも大きなトピックと言えそうだ。
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