SIMフリー時代に最高ランクの製品を――ジョニー・シー会長が語る「ZenFone 2」

» 2015年04月30日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]

 2014年11月に発売されたASUSのSIMロックフリースマートフォン「ZenFone 5」は、MVNO市場の拡大を追い風に販売台数を順調に伸ばしている。全体の規模はまだ小さいが、SIMロックフリー端末の中ではシェア1位。MVNO各社も、影響力の大きい端末であると口をそろえる。こうした状況の中、ASUSは1月に米・ラスベガスで開催されたCESで、機能に磨きをかけた後継機「ZenFone 2」を発表した。

photo 「ZenFone 2」

 このZenFone 2が、5月に日本に上陸する。日本に導入されるのは3モデルで、いずれもディスプレイはフルHD(1080×1920ピクセル)のもの。上位2機種は、64ビット対応の特徴を生かし、4Gバイトのメインメモリを搭載する。CPUにはインテル製の「Atom Z3580」を採用(ただし、「ZE551ML」のみZ3560となる)。カメラも1300万画素に上げ、画質を大幅に向上させるなど、機能に磨きをかけている。必要十分な性能で、値ごろ感のある価格を実現したZenFone 5に対し、ASUSのフラッグシップモデルとして性能を追求したモデルがZenFone 2といえるだろう。

 下位のモデルから3万5800円(税別、以下同)、4万5800、5万800円と、価格はZenFone 5より上がっているものの、性能を考えれば依然としてコストパフォーマンスもいい。ヒットモデルの後継機とあって、MVNOの期待値も高く、導入を表明する会社も相次いだ。ASUSによると、発表から2日で予約が2000台を突破。MVNO各社の発注分を含めると、台数はさらに増える見込みだ。ZenFoneはグローバルでの販売も好調だといい、展開国を増やし市場を拡大している。

 そんなASUSを率いるのが、会長のジョニー・シー氏。テクノロジーに明るく、新製品発表会では自ら壇上に登り、パワフルなプレゼンテーションを行うことで有名だ。ZenFone 2の発表時にも、同社が考案したキャラクターの「禅太郎」とともに、茶目っ気たっぷりのポーズを取り、端末の特徴を積極的にアピールしていた。そんなジョニー・シー氏に合同インタビューを敢行。ZenFone 2の特徴や、ASUSのスマートフォン戦略を伺った。

photo ASUSのジョニー・シー会長

ZenFone 2は世界で2500万台出荷する

―― 最初に、グローバルと日本、それぞれの発表後の反響を教えてください。

シー氏 発表した各国で、予想を上回る反響をいただいています。日本でも、かなりの反響だと感じています。

―― ZenFone 5がヒットし、ZenFone 2で2世代目になりますが、これからどのようにZenFoneを育てていきたいとお考えでしょうか。

シー氏 ZenFone 5は、四半期ごとに150万台の出荷ができるようになりました。年間では、800万台の計算になります。今回のZenFone 2に関しては、前向きな反響を踏まえ、2500万台と予想しています。

―― そのうち、日本ではどのくらいのシェアを目指しているのでしょう。

シー氏 日本の市場では、SIMフリーのマーケットでかなりいいシェアになっています。ただ、まだ新規に立ち上がったばかりのマーケットなので、まずはユーザーのクオリティエクスペリエンスを担保したいと思います。オペレーションが安定してきたとき、初めてターゲットを設定します。そうした手法を取らないと、数字ありきになってしまうからです。どう目標設定をしたらいいのかということは、常に社員と話し合っています。私たちのフィロソフィー(哲学)は一貫していて、ベストなエクスペリエンス、ベストなクオリティをお届けすることです。

 ZenFone 2に対しては前向きな反応が返ってきていますし、これから日本もSIMフリーのマーケットが急拡大します。結果も自然と伴ってくるでしょう。これは、弊社の新製品がどうというよりも、全体の話です。ですから、どのくらいの伸びになるのかは、苦労しながら推測していきたいということです。

―― 発表会での明かされたパートナーには、MNOのワイモバイルが入っていました。今回は「ワイモバイル端末」という形ではありませんが、MNOをパートナーにした意図を教えてください。

シー氏 SIMフリーのマーケットが開放されるにあたって、できるだけたくさんの選択肢をお届けしたいと考えています。そういう意味でも、今回のパートナーシップはいいものだと思っています。

「オープンな力」も活用していく

photo

―― MNOには競合も多く、ブランド力の強いシリーズもあります。こうしたメーカーに対し、どう対抗していくのでしょう。

シー氏 方法は2つあります。1つは、ASUSに「ワンランク上のぜいたく」をお届けしたいというビジョンがあることです。iPhoneやGALAXYと比較しながらも、ベストは追求する。汗と涙と寝る前を惜しんだ努力によって、ブレークスルーが生まれます。パフォーマンスが高く、バッテリーの寿命も長い、そして持ちやすいアーキテクチャを作っていくと同時に、私たちの端末には「禅」の精神が反映されています。

 また、シグナル(無線強度)も強く、ボリュームキーを背面の中央に置き、人間工学を駆使しています。同時に薄くて、画面占有率も高いのがZenFone 2の特徴です。研究所には「ダヴィンチ・ラボ」と呼ばれるものがあり、Ph.D.(博士号)を持った職員が集結しています。ここでは、例えばカメラを研究して、iPhoneやGALAXYでは撮ることができないシチュエーションでも撮れるような機能を研究しています。

 2つ目の方法は、オープンな力を活用することです。世界のトレンドを見ると、どんどんオープン化が進んでいます。インターネットで世界の境界線がなくなり、メーカーとユーザーの距離も縮まっています。昔は広告を打って、それを見るだけでしたが、今では自分で実際にチェックすることも簡単にできます。世の中が、分散型、オープンなコラボレーション型に移っているということです。ユーザーはパワフルで、これはグローバルで同じ方向に向かっています。最高のバリューを妥当な価格で手に入れられれば、それは口コミにつながります。

インテルとのパートナーシップが安さの鍵

―― ZenFone 5はいわゆるミッドレンジモデルでしたが、ZenFone 2はハイエンドにかじを切っています。その理由を教えてください。

シー氏 第1世代(ZenFone 5)は、国を選んでの展開でしたが、ZenFone 2はフルパワーで展開していきます。そのためには、ランクを上げなければいけません。さまざまな人を網羅するために、グローバルではレンジを広く取っています(※グローバルでは、CPUやディスプレイの解像度が異なる廉価モデルもZenFone 2として販売されている)。日本の場合は、ハイエンドでランクが高い製品が好き(な人が多い)ということもあり、そうした製品を取りそろえています。

―― ネットの反響を見ると「高い」という声もあるようですが、近い性能の機種の価格帯を考えると、やはり割安に思えます。この価格は、なぜ実現できたのでしょうか。

シー氏 私たちもそう思っています。インテルの研究所に招かれるCEOは私ぐらいで、エンジニアとともに内部アーキテクチャの話もしています。インテルとは早くから一緒にやってきていて、彼らが苦労していたときにも白板を前にいろいろな議論を交わしました。何が言いたいのかというと、CPUがすごく大事だということです。内部アーキテクチャを徹底的に理解すれば、システム全体を考えながらそれをベストなデザインにすることができます。

 また、「PixelMaster 2.0」(ZenFone 2に搭載された画像処理エンジン)を見ても、これはお分かりいただけると思います。発表会でもお見せしましたが、1ルクス以下の環境だとiPhoneではチョウチョウを撮ることができませんでした。私たちはノイズを特定し、演算処理を行い解決しています。(チップセットに搭載されている)GPUを活用するのは無料ですからね(笑)。このような技術的な努力をしている一方で、最高のユーザーエクスペリエンスを実現するにはどうしたらいいのか。これは「Eee PC」のころからずっと考えています。

―― 話が少々抽象的なので、より具体的に、なぜCPUを理解することがローコストにつながるのかを解説していただけないでしょうか。

シー氏 ASUSはWintel(Windowsとインテル社の密接な関係を指す造語)時代から、パフォーマンスとコストを両立させることに取り組んできました。それは、コンポーネントサプライヤー(部材メーカー)も巻き込んでのことです。こうした動き方、働き方については、長年経験を積んできています。

―― より突っ込んで伺いますが、インテルとの間にチップセットを安く卸してもらえるような契約があるということでしょうか。

シー氏 機密事項に関わるので抽象的なお話になりますが、1つ言えるのはパートナーシップが鍵になるということです。相手がどういう状況にあるのかを、しっかり理解することが必要です。先ほどお話したように、インテルとは彼らのラボに招かれるほどの関係性を構築できています。私は彼らに「コアの数を増やせば増やすほどいいわけではない」というようなことを訴えます。そうした意見は彼らに評価され、お互いにとっていい関係を築けるのです。

 また、インテルはCPUに対して長い歴史を持っています。ARMのCortex-A15だと、インテルと同じパフォーマンスにするのに3倍の量のトランジスタが必要です。逆にインテルのSilvermontであれば、3分の1のトランジスタで済むのです。これがインテルの実力です。お付き合いも長いので、誰もがインテルが信頼できないと言っても、私は信頼しています。そして、こうした技術はモバイルに取り込む必要があります。

SIMフリー時代は世界のトレンドとも一致する

photo

―― タブレットも含めてみると、スマートデバイスのブランドが統一されていません。ZenFoneのヒットを受け、そちらにブランドを寄せていくようなことはありますか。

シー氏 とてもスマートな質問ですね(笑)。温かく見守っていてください。近日中に、お分かりいただけると思います。

―― Windows 10の登場が間近に控えています。Windows 10では、PC、タブレット、スマートフォンが緊密に連携しますが、モバイルにWindowsを採用する構想があれば、教えてください。

シー氏 Windowsの強みがどこにあるのかを理解することが大切です。Windowsは仕事の生産性を上げることに、長い歴史があります。生産性を上げようとすると、スクリーンサイズは必然的に大きくなります。スマートフォンだと、Excelはいまだに使いづらいですからね(笑)。

 小型タブレットはまだAndroidの力がものすごく強い。アプリが多く、メディアを消費するために使われているからです。ここは、Windowsが苦労しているところです。私自身も仕事にはWindowsを使っていますが、用途に合わせて組み合わせることが重要になります。Windows 10は積極的な改善を加え、タッチ機能も強化していますが、全部をカバーするのはものすごく大変なことです。私としては、スクリーンが小さくなると、Windowsの強みが発揮されないのではないかと考えています。

―― グローバルで見たとき、ZenFoneは拡大期とおっしゃっていました。地域についてはどのように広げていくのでしょうか。

シー氏 ちょうどパリでのプレスカンファレンスが終わったところで、中国、インド、東南アジアではローンチしています。来月(5月)にはアメリカでのプレスカンファレンスも予定しています。

―― 日本のユーザーに向けて、メッセージをお願いします。

シー氏 まずはASUSのユーザーに、心から感謝をしたいと思っています。日本にも、新たなSIMフリーの時代がやってきます。これは、グローバルのトレンドとも一致しています。私は、日本人のクオリティを重視する姿勢を、とても尊敬しています。その姿勢に見合うような、最高ランクの製品を作っていくために全力を尽くします。

取材を終えて:高機能志向のユーザーから受け入れられるか

 同クラスの端末の中で一段低く価格を設定し、コストパフォーマンスの高さを売りにするASUS。PCで培った技術を生かし、お金をかけるべきところとそうでないところをしっかり見極めていることが、コストパフォーマンスの高さの理由と言える。この「ワンランク上のぜいたく」というコンセプトはZenFone 2でも継続しており、SIMロックフリーのスマートフォン市場をにぎわわせる存在になりそうだ。値ごろ感を出しながら、他社のハイエンドモデルと比べても遜色ない性能を実現しているだけに、ミッドレンジのZenFone 5で取りこぼしていた高機能志向のユーザーから受け入れられる可能性も高い。

 一方で、シー氏はハイエンドが好まれる日本市場にフィットするモデルを選定したと語っていたが、毎月の割引がなく、端末価格が裸のまま評価されるMVNO市場では、コストに敏感なユーザーも多い。ラインアップ全体の価格帯がZenFone 5より上がっている点が、どう評価されるのかは気になるところだ。とはいえ、冒頭で述べたように、予約状況を聞く限り出足は好調。シー氏が述べていた通り、性能に対する価格の安さが口コミでしっかりユーザーに伝わった結果なのかもしれない。

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