SIMフリー市場へ本格攻勢をかけるASUSとZTE――日本での戦略を読み解く石野純也のMobile Eye(4月13日〜24日)

» 2015年04月25日 10時15分 公開
[石野純也ITmedia]

 MVNO市場の拡大を受け、SIMロックフリー端末メーカーの動きが加速している。2014年11月に発売された「ZenFone 5」をヒットさせた台湾メーカーのASUSは、1月に米・ラスベガスで開催されたCESでお披露目した「ZenFone 2」を日本に導入。「Blade Vec 4G」で実績を積んだ中国のZTEも、NTTレゾナントとタッグを組み、SIMロックフリースマートフォン事業に本腰を入れ始めようとしている。5月にはZTE製の「Blade S」「Blade S Lite」「Blade L3」をベースにした「g01(ぐーまるいち)」「g02(ぐーまるに)」「g03(ぐーまるさん)」が、NTTレゾナントから発売される予定だ。

 両社ともこれまで日本のスマートフォン市場では強い存在感を発揮できていなかったが、SIMロックフリー端末市場の拡大を突破口にしようとしている。台数ベースではまだ従来型のキャリアモデルには遠く及ばないものの、これらのメーカーの端末を評価する声は日増しに高まっているのも事実。メディアからの注目度も高く、口コミが急速に拡大している印象を受ける。これら2メーカーは、日本でどのような手を打ってくるのか。今回の連載では、ASUSとZTEの新機種や戦略を紹介するとともに、日本市場に与える影響も考察していきたい。

SIMフリー市場の拡大をにらみ、「ワンランク上のぜいたく」を提供するASUS

 2014年11月に発売されたZenFone 5が好調な売れ行きを示しているASUS。ユーザーはもちろんMVNOからの反響も大きく、ある関係者によると「(ZenFone 5が対応している)microSIMの出荷数が一気に増えた」ほどだ。SIMフリーのiPhone 6/6 Plusが発売されたこともあり、nanoSIMの需要が増加していたが、ZenFone 5がその流れを変えてしまったという。台数ベースで見ると規模はまだ小さいものの、「SIMフリースマートフォン市場でシェア1位」(ASUS会長 ジョニー・シー氏)を獲得したのも、うなずける話だ。

photophoto SIMロックフリー端末市場でシェア1位を獲得したとアピールするASUS。ZenFone 2の発表会には台湾から会長のジョニー・シー氏が来日して、製品の魅力を力強くアピールした

 ZenFone 5がヒットした最大の理由が、コストパフォーマンスのよさ。Snapdragon 400シリーズのチップセットを搭載しながら、2万円台を実現している。2Gバイトのメモリを搭載したり、720×1280ピクセルながらディスプレイが5型だったりと、パフォーマンスや使い勝手の障壁になりそうなところには手を抜いていないのが特徴だ。フロント下部やボタンなどは“メタル風”に加工してあり、コストダウンの努力の跡も見える。

photo SIMロックフリー端末としてヒットした「ZenFone 5」。機能とコストのバランスのよさが魅力だ

 体感に直結する部分には手を抜かず、そうでないところでコストを落とす。一言でまとめると、緩急のつけ方がうまい端末といえるだろう。ASUSの言葉を借りれば、これが「ワンランク上のぜいたく」ということだ。またASUSはタブレット分野で大きなシェアを持っており、PCに歴史があるだけにインテルとの付き合いも深い。スマートフォンでコストパフォーマンスのよさを出せるのも、こうした製品と部材をある程度共通化できるからだ。

 このコンセプトは新たに発表された「ZenFone 2」でも継承されており、シー氏は会見で「誰でも気軽に堪能できる、ワンランク上のぜいたくを届けする」と述べている。一方で、後継機だけに違いもある。1つは、スペックを大幅に上げ、ハイエンドと呼ばれるクラスの端末に仕上げてきたことだ。

photophoto 大幅にスペックを上げ、「性能怪獣」をうたう「ZenFone 2」

 ディスプレイは5.5型にアップしながらフルHD(1080×1920ピクセル)となり、CPUにはインテルの「ATOM Z3580」を採用(型番が「ZE551ML」ものは「Z3560」)。上位2モデルは、64ビットCPUの特徴を生かしてメインメモリ(RAM)に4Gバイトを搭載するなど、パフォーマンスには徹底的にこだわっている。カメラの画素数も1300万に向上。発表会ではソニーモバイルの「Xperia Z3」や、アップルの「iPhone 6 Plus」などと画質を比較しており、こうしたクラスの製品を意識していることがうかがえる。

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photo CPUやメモリを強化したことは、ベンチマークの数値にも直結する。会見ではPCメーカーらしいアプローチで、性能をアピールした
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photo カメラ機能にも磨きをかけ、HDRや暗所での写りを大幅に強化

 ただし、当然ながらZenFone 5よりも価格は上がっている。構成によって異なるが、下から3万5800円(税別、以下同)、4万5800円、5万800円。ミッドレンジの中でコストパフォーマンスのよさを狙ったZenFone 5に対し、ZenFone 2は手に取りやすい価格のハイエンドを目指した製品といえるだろう。

photo スペックによって価格は異なるが、ZenFone 2よりも価格は上がっている

 ASUSがZenFoneを投入したのは、MVNO市場、SIMロックフリースマートフォン市場の拡大を商機ととらえているからだ。シー氏は会見の冒頭でGfKジャパンのデータを挙げ、「約6割のユーザーがSIMフリーを試してみたいと思っている」と語った。その中で、ASUSは「日本のSIMフリースマートフォンの(シェア)10%を達成したい」と言う。

 総務省は2016年までに、MVNOの契約者数を1500万にしていく方針を掲げている。仮にこの規模の契約者が全員SIMロックフリー端末を買い、10%がASUSのスマートフォンを選んだとすれば、150万台という数字が見えてくる。買い替えを含めれば、もっと大きな需要も期待できるだろう。ただし、シー氏は「まだ台数目標は設定していない」とも述べており、あくまでMVNO市場の拡大をにらんだ助走期間であることがうかがえる。

photo SIMロックフリー端末への注目度が上がっていると語るシー氏

 一方で、コストパフォーマンスのいいハイエンド端末というのは、この市場にとって未知の領域でもある。一般層には「格安スマホ」というネーミングで認知が進んでいるだけに、4万円を超える上位モデルがどこまで伸びるのかは未知数だ。ただし、MVNOでも割賦販売が徐々に浸透してきており、24回の分割払いを選べば月々の代金は上位モデルでも2000円前後。900円から1500円前後の通信サービスとセットで使えば、負担感も軽減される。ASUSによると、発表から2日後には2000台の予約が入ったという。ここにMVNOが販売する分を加えると、数字はさらに大きくなる。発売前の現時点で判断をくだすのは難しいが、ひとまず滑り出しは順調といえそうだ。

キャリアビジネスとのシナジー効果を狙い、SIMフリー市場に本腰を入れるZTE

 ASUSと同様、ZTEもSIMロックフリー市場の拡大を商機と捉えている1社。ASUSとは異なり、MNO(大手キャリア)に端末を納入している実績も多く、スマートフォンはソフトバンクモバイルが取り扱っている。4月には、プリペイド端末の「Blade Q」が発売された。Blade Qと同様、ソフトバンクではメインストリームのスマートフォンよりも“企画物”が多く、過去には「STAR 7 009Z」や「シンプルスマートフォン 008Z」などを販売している。ただ、残念ながらスマートフォンの分野ではヒット商品が出せていなかった。Wi-Fiルーターや「みまもりケータイ」シリーズは販売台数も多いが、スマートフォンのメーカーとしての認知度は決して高くない。

photo 日本市場に対する取り組みを語る、ZTEの執行副総裁 曽学忠氏

 一方で、グローバルで見るとZTEは販売台数を大きく伸ばしており、業績も好調。2014年度の出荷台数は1億を超えており、4800台がスマートフォンだ。スマートフォンでは北米市場が堅調で、「シェア4位。プリペイドマーケットでは2位のポジションを確立している」(ZTE 執行副総裁 曽学忠氏)。アジア・パシフィックでは「オープンマーケット(キャリアを通さないマーケット)において、前年度比の増加率はほぼ100%になっている」と勢いを加速させている。

 基地局やコアネットワークも手掛けるZTEは、通信技術に強みを持ち、「特許も過去5年で、出願数トップ3を維持している」(曽氏)。こうした技術力を生かしつつ、リーズナブルな価格の端末を開発するのが得意なメーカーだ。Bladeシリーズのようなラインとは別に、フラッグシップのGrandシリーズや、音声認識機能など先端技術を盛り込んだStarシリーズ、カメラにこだわったnubiaシリーズなど、手厚いラインアップを擁している。

photophoto グローバルでは、大きな成長を遂げている。スマートフォンの出荷台数は4800万を突破

 そのZTEが、SIMロックフリー端末をNTTレゾナントに納入した。しかも一気に3機種をだ。グローバルで販売されるBladeシリーズをベースに、g01、g02、g03を取りそろえた。発売は5月を予定しており、現在は予約を受け付けている。ビジネスモデルはASUSとは異なり、「gooのスマホ」ブランドが冠され、型番もgooのものが付けられる点は現状のキャリアビジネスと同じだが、MVNOの回線とセットで販売され、SIMロックフリーであるという点を考えると、オープンマーケットといえるだろう。

 g01はBlade L3をベースにしたエントリーモデル。LTEに対応していないが、1万円という低価格が魅力だ。g02はミッドレンジモデルで、本体はg03と共通しているがチップセットがSnapdragon 410で、メインメモリも1Gバイトと少ないが、価格は2万円に抑えられている。これに対しg03はBlade Sがベースになっており、オクタコアのSnapdragon 615を搭載。メインメモリも2Gバイトで、1300万画素のカメラを採用する。また、今後のソフトウェアアップデートで、網膜認証にも対応する予定だ。ハイエンド寄りのミッドレンジといった端末で、価格は3万円となる。

photophoto LTE非対応だが、1万円という超低価格で販売される「g01」(写真=左)。3機種の中では中間のスペックとなる「g02」。本体は「g03」と共通(写真=右)
photo もっとも高機能で、ジェスチャー操作にも対応する「g03」

 ZTEがここまでラインアップを充実させてきた背景には、やはりMVNO市場の伸びがある。同社は2014年にBlade Vec 4Gを試験的にSIMロックフリーモデルとして日本で販売しており、この売れ行きが同社の想定を大きく上回っていたという。手ごたえをつかみ、満を持して投入したのがg01、g02、g03というわけだ。ZTEにとって「日本は、グローバル市場の中で最も重要な市場」(曽氏)という位置づけ。g01、g02、g03も「日本発のプロジェクトとして、その他の地域より一歩前に進んだ取り組みをしている」という。また、日本にはスマートフォンの部品を供給するメーカーが非常に多い。

 ZTEがSIMロックフリー端末を投入する目的は、2つあるという。1つ目が「潜在的な顧客を開拓したい」(ZTE アジアおよびCIS地域CEO 張樹民氏)というもの。MVNO市場の拡大をにらみ、販売台数を伸ばしたいというのが同社のもくろみだ。ただし、「オープンマーケットはステップバイステップで、これからがんばっていく」といい、徐々にではあるが、存在感を高めていく方針だ。

photo アジアやロシア地域を管轄する張樹民氏が、SIMロックフリー端末投入の狙いを語った

 長期的な視点に立ったもう1つの目的が、キャリア向け端末を伸ばすことだ。張氏は「オープンマーケットにおける口コミやSNSでのフィードバックを吸収して、次のキャリアビジネスにその蓄積を反映する」と述べており、今回の取り組みがキャリア向けと両輪であることを力説する。オープン市場であれば、ユーザーのフィードバックはキャリアではなく、メーカーに直接跳ね返る。この反響を生かし、キャリア向けの端末にも磨きをかけていきたいという。


 ASUSやZTEが本格攻勢をかけてきたSIMロックフリー市場だが、まだまだ規模は小さい。ヒットした端末でも、キャリア端末とは台数のケタが1つ違い、メーカーのビジネスモデルとして定着するにはもう少し時間がかかりそうだ。一方で、競争環境が徐々に変化している兆しも感じる。ASUSやZTEのように、きちんとした品質とコストパフォーマンスのよさを打ち出せれば、キャリアを通さなくてもユーザーに受け入られる可能性が見えてきた。また、ZTEがキャリアビジネスへのフィードバックを方針に掲げているように、こうした動きは、今後、キャリア端末のラインアップにも影響を与えることになるのかもしれない。

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