―― 先ほどODMのお話がありましたが、カバーは日本で製造されていると、発表会では説明していました。その理由をあらためて教えてください。
星川氏 カバーの、C型に巻き込んでいる部分が、全然今までのスマートフォンと構造が違うところです。やはり触感を大切にしたかったので。実際手に持って見ていただくと分かりますが、手が触れているのは両サイドの部分なんです。背面の部分は、手から浮いています。木やレザーを後ろに貼っている端末はありますが、横が樹脂だと、触感としてはプラスチックになってしまうんです。持ったときに、ふんわりとした感覚が出せるのは横になりますが、それがすごく難しい。ここは、インモールドといって、生地を金型にそのまま流し込んでいます。これをC型にするのが、今まではできませんでした。
これをやりたかったのですが、中国に行ってもできず、諦めかけていたところに、技術コンサルタントとして入っていただいている、K'S DESIGN LABさんが、こういう技術を持った会社がある、こういう素材があるという話をいただき、できることになりました。
日本製をうたう理由は、最近だと1つは円安だからということもあるかもしれませんが、われわれは、日本でしかできない必然性があるから日本で作っています。東レさんもクラレさんも、日本でしか作っていない素材です。日本でしかできない素材で、日本でしか作れないものを作りたいのです。
普通の格安スマホだと、樹脂をそのまま成型するだけです。もっと質感や触感をやりたい。といっても、ウレタン塗装だと、加水分解した後、テカテカになってしまいます。そういうのが嫌でした。クラレのクラリーノも、東レのウルトラスエードも、実際に、ポーチ、スカートなどの服や、車にも採用されている由緒正しい素材です。ただ、この業界では使われていなかっただけなんですけどね。
―― お話を聞いていると、フィーチャーフォンのころ、吉岡徳仁さんがデザインした、auの「MEDIA SKIN」のようなこだわりを感じます。あの端末も、触感にこだわってデザインしていましたよね。
星川氏 ああいうのが、すごくいいですね。あとは、(ドコモの)amadanaケータイのときに、革や木のような素材を使って、色もオレンジや茶色をラインアップしていました。カラーとしては、革小物に近い。デザイナーが、ちゃんと考えて作っていたものです。あのamadanaケータイは、確かamadanaのショップでも売っていましたよね。ああいうように、買う場所も変えていきたいと思っています。
販路は、伊勢丹さんやBALSさん、ロフトさんなどです。SIMと端末のひも付けが外れてくれば、「これ、かっこいいね」と気軽に買うことができるようになります。逆に、キャリアショップや家電量販店ではないところで販売したい。伊勢丹さんもBALSさんもロフトさんも、携帯電話を売ったことはありませんが、チャレンジをしてくださいます。逆にテクニカルなことに強い方や、Windows 10 Mobileがほしいという方は、ぜひオンラインを利用していただければと思います。
―― なるほど。そういった販路のすみ分けがあるんですね。ところで、Windows 10 Mobileは、未知のOSともいえます。そこに賭けることに、心配はなかったのでしょうか。
星川氏 それはありますよ(笑)。そもそも、Windowsが心配というより、僕自身がWindows 10 Mobileを生活の中で、本気で使ったことがないですからね。Continuumにしても、コンセプトやできることは分かっていますが、家でディスプレイにつないで作業して、そのままモバイルで電車の中でそれを継続して、オフィスでも仕事をするという一連の流れが、どのようにワークスタイルを変えるかが、まだ経験できていません。
―― 確かに、技適が取れてない状態だと、実利用はできませんね。
星川氏 そんな状態で本当に売っていいのかという声はあるかもしれませんが、まずはそこを実際に使い込んでいけば、もうちょっと違った提案や言い方ができるかもしれません。
とはいえ、今、スマホは一時期と比べて、成熟しています。自分自身も、半年以上、新しいアプリを入れていません。ほとんど、使い方が固定されています。重要なのはSNS、メール、ブラウザと、Google系のアプリ、あとはマップなどで、それ以外はほとんど使うことがなくなっています。そこは、Windows 10 Mobileでもできます。Officeもあって、Edgeもありますから。ビジネス用途であれば、困ることはほとんどないと思います。
ただ、やはりエンタメ系はまだまだ弱いですね。あくまで受け売りになってしまいますが、Windows 10 Mobileは開発環境が非常に整っていて、UIをうまくモバイル用に入れ込めれば、アプリも簡単に作れます。こういうアプリが増えてくると、PC向けに作ったものがそのまま出せる。Mac用に作って、iOS用に作ってというのとは、根本が違います。
アプリの開発者にとっても、逆にチャンスがあると思います。プラットフォームが新しく、ライバルが少ない。例えば、今、カメラアプリでものすごくいいものがあれば、ダントツで売れるのではないでしょうか。AndroidやiOSだと埋もれてしまうのもでも、今Windows 10 Mobileでローンチとなれば、注目されます。
―― だんだんお話が、Microsoftの人のようになってきましたね(笑)。最後に、この端末を海外展開する意思があるのかを教えてください。
星川氏 現状だと、(2016年の)CESに出展する予定があります。また、MWCでもブースを持ちます。この2つに出ていれば、スマホという意味で、北米と欧州、両方の方に1回ずつ見てもらえます。われわれはまだ14人しかいない会社なので、そう簡単に現地法人を作ったりはできません。販売パートナーを探し、できれば各国で考えていきたい。現状だと、バンド設計も日本に最適化されているので、海外で多少はいけても難しい部分があります。そういうことがあるため、すぐに持っていくことはできないですが、徐々に進めていきます。
インタビューからも分かるように、トリニティのNuAns NEOには、さまざまな挑戦が詰まっている。OSがWindows 10 Mobileなのはもちろん、形状や素材、売り方に至るまで、既存のスマートフォンとは大きく異なる。成熟期を迎え、少々停滞感のあったスマートフォン市場に、新風を吹き込む存在として期待したい。
一方で、現実的な目線で見ると、やはりWindows 10 Mobileが一般的なユーザーにとって未知の領域な上に、初めてスマートフォンを開発したトリニティが、どこまで販売を伸ばせるかは未知数な部分もある。実際手に取ることになるのは、いわゆるアーリーアダプターやイノベーターと呼ばれる、先進層になるだろう。
こういった目新しい端末を起点に、どれだけユーザーの層を広げていけるかが、Windows 10 Mobileにとっても重要になってくる。トリニティの奮闘に期待したいのはもちろんだが、日本マイクロソフトが、今まで以上にきちんとバックアップしていくことも必要になりそうだ。
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