2015年開催された総務省のタスクフォース、総務大臣要請を受け、ドコモが低容量の新たな料金プラン「シェアパック5」を打ち出し、3月から提供する。低容量だが、家族でシェアすることを前提にしており、ソフトバンクの発表した1GBプランよりもトータルでの使い勝手はよくなっている。
一方で、低価格なプランは減収要因にもつながる。その“反動”は、2月1日から「月々サポートの削減」という形で表面化する格好だ。総務省では、端末の販売を公平化しつつ、既存ユーザーへの還元を求めてきた。ドコモのシェアパック5は、その方針に忠実に沿ったものといえるだろう。
また、2年間の継続契約に対しても、解除料のかからない期間を2カ月に増やしていく方針だ。今回の連載では、一連のドコモの発表から、春商戦以降の業界与えるインパクトを考察していきたい。本稿で紹介している価格はいずれも税別。
1GBのデータパックを導入し、スマホ放題ライトと合わせて4900円を実現するソフトバンクに対し、ドコモは“家族でシェア”すれば5000円以下になるという料金プランを打ち出した。新たに導入したのが、「シェアパック5」。名前のとおり「シェアパック
」の1つで、月々5GBのデータ量を、家族で分け合うことができる。料金は単身用で月5GBの「データMパック」より1500円高い、6500円だ。
ただし、これだけだと、3人家族で契約した際に、1人あたり5000円を超えてしまう。カケホーダイの2700円、spモードの300円で、3人合計9000円になり、個回線にはそれぞれ500円のシェアオプションもかかる。これをクリアするために、ドコモは、1700円で1回5分までの通話が無料になる「カケホーダイライト」を、全シェアオプションに開放する。これまでは、シェアパック10は対象外だったが、これもカケホーダイライトの契約が可能になる。
全員がカケホーダイライトにして、家族3人でシェアパック5を契約した場合、トータルでの料金は1万3500円。1人あたり4500円になる計算だ。父と母が1GBずつ、子供が残りの3GBを使うというのが、ドコモの考えているモデルケース。15年以上の長期契約をしているユーザーには、「ずっとドコモ割」が適用され、合計金額は1万2700円に下がる。
モデルケースとしては提示されていなかったが、夫婦2人で子どもがいない家庭や、子どもが小さくスマートフォンを契約していない家庭にも、向いているプランといえそうだ。この場合、夫と妻がそれぞれ2.5GBずつ利用でき、カケホーダイライトであれば金額は1万1000円。1人あたりの料金は、5500円になる。
個別に2GBプランの「データSパック」を契約すると、カケホーダイしかセットにできないため、料金は最低6500円になってしまう。しかも、1人あたり2GBずつしか利用できないため、シェアパックを2人で契約するより割高だ。タスクフォースで示された5000円という金額は少々超えてしまうが、音声通話をあまり利用しないユーザーには、こうした部分がお得に思えるはずだ。
では、なぜドコモは“家族でシェア”にこだわったのか。加藤薫社長は「新料金プラン契約者の6割以上の方がシェアを組んでおり、うまく利用していただいている」と話し、このプランの方が実態に合っていることを明かす。確かに、夫婦に子供1人の核家族であれば、ソフトバンクの導入した1GBのデータパックより1人1人のデータ量が多くなり、料金も安くなる。それ以上、契約者が増える場合は、上のプランを選べばいい。
加藤氏は「シェアパック5を入れたことで、さらに増えてほしい」とも語っており、金額の低いシェアパックを入れることで、導入のハードルを下げたかったようだ。シェアパック5の導入でより多様な家族に対応できることになったため、先ほどの「6割以上」という数値は上がっていくかもしれない。総務省の指導に文字通り従うのではなく、ある程度利用実態に合わせてきたのはドコモのしたたかなところ。家族を丸ごと、ドコモに呼び込む効果も出てくるかもしれない。
実際、この料金プランの導入で、ドコモは減収を見込んでいるようだ。加藤氏は、「なかなか予想は難しいが、一定の減収の芽もある」と話し、収益にマイナスの影響が出てくる可能性を示唆した。シェアパック5だけでなく、カケホーダイライトを全シェアパックに開放していることのインパクトも大きくなるかもしれないとのことだ。また、3月からは、「2年契約の更新月を2カ月の幅にしようと思っている」といい、より解約もしやすくする。
同時に加藤氏が明かした月々サポートを減らす動きには、この“埋め合わせ”という意味合いもありそうだ。ドコモは、2月1日から月々サポートを減少させ、「(実質)0円以下になる販売は謹んでいきたい」という。この販売方法の変更によって、「出てくるもの(プラス)もある」といい、料金プランの改定で減収した分を、ある程度補っていく構えだ。ただし、「それだけでは全てを賄い切れない」ため、他の部分でのコスト削減も続けていく。
月々サポートが減り、実質0円がなくなれば、端末が高くなると受け止められかねない。その結果、「販売台数は減ることもあると思う」(加藤氏)とし、端末からの収益が減る恐れもある。これは、総務省のシナリオ通りともいえるだろう。タスクフォースを受けた取りまとめでは、「公平性」を重視することが掲げられていた。MNP利用時の不公平な値引きをなくす一方で、それを原資にして、既存のユーザーに還元することも盛り込まれていた。ドコモの月々サポート減少は、シェアパック5やカケホーダイライトの拡大と、切っても切り離せない関係にあるということだ。
とはいえ、端末の販売台数が一気に減れば、メーカーに与える影響も大きくなってしまう。加藤氏も「その影響はできるだけ極小化するようにしていきたい」と語っており、値引き自体は続けていく方針だ。代理店に対しての「販売奨励金は、そんなに変化しない」ため、キャンペーン的に、大きな値引きをする店舗が出てくる可能性はある。ただ、以前のように、大幅なキャッシュバックは減り、端末を無料でもらった上に、月々サポートが大きく付いて、毎月の利用料まで安くなるということは、なくなりそうだ。
また、より調達価格が安い端末を軸にして、値ごろ感を保っていくという動きも加速しそうだ。こちらに関しては、すでに各社が準備を進めており、ドコモだけでなく、KDDIやソフトバンクもミッドレンジモデルを強化している。ドコモでいえば、2015年夏モデルとして導入した「AQUOS EVER」や、冬春モデルの「arrows Fit」がそれに該当する。一方で、全体のラインアップを見渡すと、まだまだハイエンドモデルが中心で、本体価格も7〜10万円の機種が多い。こうした部分にメスが入り、ミッドレンジの割合が増えていくということはあるかもしれない。
販売方法の適正化に関するガイドラインが発表されれば、他社もこの動きに追随してくることになるだろう。ただし、その結果として値ごろ感のある料金プランが出てこなければ、本末転倒といえる。単に端末を買う際の負担感だけが大きくなってしまうからだ。その点で、利用者がドコモのシェアパック以上に限定されそうなソフトバンクの1GBプランは、まだまだ改善の余地がある印象を受ける。
学割発表時に「カミングスーン」(KDDI 代表取締役社長 田中孝司氏)と宣言していたauも、まだ低容量の料金プランを発表しておらず、端末の価格についても大きな変動はない。2社の新料金プランを受け、どのような手を繰り出してくるのかを期待して待ちたい。
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