「IoT」に「LTE/5G」はどう関わっていくのか――通信モジュール開発の大手Telitに聞く

» 2016年03月28日 19時22分 公開

 5Gと並んで、Mobile World Congress 2016で華やかなテーマだった「IoT」。数多くの企業がIoT関連の講演や展示をしており、スマートフォンそのものやウェアラブルなどに代わって話題が沸騰していた。IoT市場の過熱ぶりを冷静な視点で見るのが、古くからM2MやIoT分野に取り組むイタリアのTelit(テリット)である。同社はM2MおよびIoT市場向けのモジュールやソリューション開発における大手企業の1社であり、以前からMWCでこの分野への取り組みをアピールしていた。

 Telit アジアパシフィック地域のマーケティング・ディレクター、キュンジュン・リー(Kyungjun Lee)氏に話を聞いていく。

Telit MWC 2016のTelitブース
Telit インタビューに応えてくれたTelit APACマーケティングのキュンジュン・リー氏

LTEモジュールの市場は拡大する

――(聞き手 : 神尾寿) TelitはIoT市場の現状をどう見ていますか。また、その中でTelitの特徴は何でしょうか。

キュンジュン・リー氏 Telitはもともと、M2Mや通信関係のモジュールで成長してきた会社です。2015年は約1800万のモジュールを納入し、車のマーケットシェアで31%を獲得しました。さらにBloutoothなど短距離通信のモジュールなども取り扱っています。

 今のIoTのビジネスといえば、チップからモジュール、モジュールから端末機、端末機からシステムインテグレーター、システムインテグレーターからオペレーター、と(提供する事業者が)ぶつ切りに分かれています。しかしTelitはモジュールからコネクティビティまで全部の製品を持っています。このように統合的なソリューションとして提供できるのが、今後のIoTの流れです。

 以前のTelitは、モジュールや端末自体を取り扱うM2M企業でしたが、今はサーバ側のSI、コネクティビティまで全部の役割を担っています。2013年にIBMからスピンアウトしたILS Technologyも買収しました。市場はどんどん増えてきています。エナジーモニタリングやテレマティクスだけではありません。

Telit 展示されていたモジュールのボード。TelitはCDMA、WCDMA、LTEなど全てのモジュールを持っており、現在は150種類以上を販売している
Telit 車両のトラッキングはマップ上で全部チェックできる。コンテナ単位でのトラッキングもできるため、応用分野はかなりあるとのこと
Telit とある場所にあるセメントの入ったコンテナをモニタリング。在庫がどのくらい残っているか、リアルタイムのデータが送られていた

―― IoT市場が急拡大しているというのが業界内の共通認識ですが、とりわけ成長のスピードや勢いで、どの分野が一番けん引していると思いますか。

リー氏 単純に数量でいうなら、まだエネルギー関係のモニタリング(テレメトリング)がいちばん多い。その次が自動車関係のテレマティクス。3位はヘルスケアやポスト端末機など、いろいろ成長セグメントがあります。

―― 去年(2015年)から今年(2016年)にかけて、コネクテッドカーという形で自動車メーカーが車のオンライン化を進めています。Telitとして車のモジュールの需要は伸びましたか。

リー氏 Telitはヒュンダイやアウディなどにモジュールを納入していますが、全世界へ向けて幅広く需要が伸びています。米国の自動車メーカー、ロシア向けのe-CALL関係のモジュールなど、数量としても急増しています。これから1〜3年はすごく需要は伸びると思います。ヒュンダイなどの大きな車メーカーによると、今すぐに使わないとしても、来年(2017年)にわたって生産の50%の車でモジュールを入れるそうです。2020年になれば、車のモジュール搭載率は80%〜100%近くまで行くのではないでしょうか。

―― 自動運転が2020年に向けて注目されていますが、それが今後、自動車向けIoTモジュールへの需要に影響があると考えていますか。

リー氏 もちろんその側面はあると思いますが、自動運転の普及には時間がかかるのではないかと私は考えています。車にモジュールが搭載されれば、e-CALLやカーエンプテイメントのサービスはすぐにできるでしょう。しかし法律関係の問題や安全性など、今は解決する課題が数多くあるので、実現には時間がかかると思います。

Telit Telitの従業員の車をトラッキングしているデータ。燃料の量、速度、急ブレーキをかけた回数などを全部データに取り、保険料に影響を与える。ただし国によって法律が異なる

―― 去年(2015年)はまだまだ3GやGSMのモジュールの需要があり、LTEはこれからだという話でした。この1年でLTEモジュールの需要は変わりましたか。

リー氏 LTEモジュールの市場は拡大すると思います。その上で重要なのが価格です。今まではLTEのチップは価格が高く使いにくかったのですが、Telitが昨年(2015年)発表したように、LTEのカテゴリー1はより安く使われるようになりました。そういう技術が出てくることで、2Gや3GからLTEへ移行が起きるでしょう。恐らく2〜3年でかなりの数が移るのではないかと考えています。TelitもLTEのカテゴリー1、0、Mだけではなく、NB-IoTやNB-LTE(携帯電話網を活用した狭帯域、低速の通信規格)のロードマップを全部持っています。

IoTの「低消費電力市場」はどう広がるか

―― 2016年のMWCではNB-IoTの話題が多かったですが、Telitから見て、NB-IoTの成長性をどう捉えていますか。

リー氏 最も市場が大きいのはエネルギー関係のモニタリングだという話をしました。モニタリングでは高速の通信が必要ありません。使用量がどのくらいだとか、短いデータを読むだけです。したがって、NB-IoTはエネルギー関係で利用量が増えるのではないでしょうか。

―― Qualcommに話を聞くと、NB-IoT以外にもIoT向けの低消費電力のソリューションを出していました。NB-IoTと通常のLTEを利用したLow Power for IoT、どちらが来るかまだ分からないという話でした。Telitとしてはどう見ますか。

リー氏 私の考えでは、既存のLTEベースのLow Power for IoTの方が“勝つ”のではないかと思います。なぜなら既存のスペクトラムを使う方式の方が、オペレーターがビジネスにしやすいからです。今後技術がどういう風に進化するか分からないので予想は難しいですが、NB-IoTが事業として立ち上がるには一定の時間と(NB-IoTならではの)需要が必要だと感じています。

1つのプラットフォームでIoT全域をカバーできる

―― コネクティビティやプラットフォーム事業にも取り組むという話ですが、この分野は競争相手も増えています。Telitとしての競争優位性はどこにあると思いますか。

リー氏 IoTのプラットフォームをローンチした3年前は、ライバルが少なかったですが、今は1000社以上がIoTプラットフォームをやると言っています。

 Telitの特徴、強みは幾つかあります。

 まずは1つのプラットフォームでIoTの全域をカバーできる点です。エネルギー分野のモニタリングも、テレマティクスも、ヘルスケアも、ポスト端末機も、その他さまざまなテレメトリングも全部1つのプラットフォームでカバーできます。

 2つ目は実績と導入事例が多いことです。世界の大企業500社の中で、100社以上がTelitのデバイスを使っています。これらの企業への導入実績からのフィードバックを受けて、われわれのプラットフォームは進化と洗練をしており、とても使いやすいものになっています。短い期間で開発が完了できるし、使いやすい。この2点がわれわれの強みです。

Telit コーヒーチェーン店の「illy」は5年前からTelitと協力し、コーヒーの販売数をIoTで管理している。Telitのブースにあるillyでも、「エスプレッソ」「ラテ」など種類別に出た数が画面にリアルタイムで表示されていた

―― しかし、「IoTプラットフォーム」をセールスポイントにする企業は、かなり増えています。

リー氏 IoTプラットフォームは一朝一夕にできるものではありません。Telitもものすごく前から準備してきたから、今こうやってサービスを提供できています。最近、参入してきた企業はどのようにしてうちに勝つつもりなのか。ちょっと厳しいと思います。

Telit IoTが各家庭に導入されれば、部屋の明るさや温度、湿度などを管理・コントロールできる。例えば夏は部屋が暑くなるので、帰る前に外出先でエアコンを付けておく……といったことが可能になる

IoT市場ではまだ5Gは必要ではない?

―― 今回のMWCでは5Gの展示が増えました。Telitは5Gに対して、どのような姿勢で臨みますか。

リー氏 もちろん将来的なロードマップには入っています。しかし、IoT市場で今すぐ高速通信が必要な分野は1つ2つくらいしかありません。例えばCCTV(監視カメラ)で映像を送ったり、車の中で映画を見たりするくらいです。5Gは高速な分、チップの価格が高くなります。次世代への準備はしますが、安い5Gチップが出るまではまだ時間がかかるでしょう。

――  5Gを推進する人々は、5Gは低遅延が強みであり、それが今後のIoTで重要になると言っています。

リー氏 確かに自動運転などは低遅延が大変重要です。時速100キロで0.1秒の遅延があれば命に関わる。しかしそれは当面、車車間通信など限られた分野にとどまるのではないでしょうか。

―― IoT市場の全体規模で考えると、5Gよりも従来のLTEベースのビジネスが大きい、と。

リー氏 今でも需要数がいちばん多いのは2Gや3Gだ。5Gへの移行には時間がかかります。テクノロジーのスピードとマーケットのスピードは、全然違うということです。

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