ASUS JAPANは4月13日、GoogleのAR(拡張現実)技術「Tango」とVR(仮想現実)のプラットフォームである「Daydream」を搭載するスマートフォン「ZenFone AR」を夏に発売することを発表しました。
ZenFone ARは、世界初のグーグルのARとVR両対応するスマートフォンとして発表されました。VRといえば、スマートフォンやゲーム機、アミューズメント施設など でも体験できるほどの広がりを見せています。
しかし、ARと言われてもピンとこないかたもいるでしょう。以前、「セカイカメラ」というスマートフォンアプリがありました。このアプリは、「エアタグ」と呼ばれる情報タグを、利用者の位置情報を元にカメラの映像に重ねて表示するというサービスでした。最近では、現実世界にポケモンが現れたような楽しみ方ができる「Pokemon GO」が有名です。
「なるほど、現実世界に情報を重ねて表示するから拡張現実か」と理解しても間違いではないのですが、現実を拡張するのは視覚だけではなく、聴覚や嗅覚、触覚などさまざまです。
それでは、ZenFone ARが搭載するTangoは、これまでのAR技術とはどう違うのでしょうか?
今回、ZenFone ARのエンジニアリングサンプルを試用する機会を得たので、Tangoがどのようなものなのかを紹介します。
※夏発売の製品版とは仕様が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承下さい。
なお、気になるZenFone ARの使用感を少しだけ紹介しておきます。画面は5.7インチWQHD(1440×2560ドット)Super AMOLED(有機EL)ディスプレイを搭載しています。大きな画面は、ディスプレイの見やすさと、VRプラットフォームDaydreamに対応するためのものでもあります。狭額縁と薄型デザインを採用しているため持ちやすく、ディスプレイの発色がきれいです。ただし、標準設定では屋外の画面表示が暗い印象です。
チップセットには、3D空間を扱うARとVRを処理するためにQualcommのハイエンド向け「Snapdragon 821」(クアッドコア)を搭載。さらに、最大8GB RAMのモデルもラインアップしており、通常動作も快適です。
カメラはアウトカメラが2300万画素、インカメラが800万画素です。画質はASUSらしいチューニングが施されており、自然な発色で好印象です。また、4K動画撮影にも対応しており、テストでは10分以上の撮影が可能でした。ちょっと気になったのは4K動画のビットレートが低く、ブロック状のノイズが出てしまうことがありました。製品版では長時間撮影とハイビットレート対応に期待したいところです。
Tangoは、カメラがとらえた映像だけではなく、奥行を調べて空間認識します。従来のARではカメラの2D映像にCGを貼り付けているだけでしたが、Tangoは2D映像の中に奥行、つまり床や壁などの障害物を認識していることが異なります。こうすることで一見普通のカメラ映像に思えても、画面の中にボールを放つと見たままの床や壁に当たるといった、自然な3D処理を行うことが可能になるのです。
さらにカメラの動きを検知することで、カメラの向きに合わせて映像も変化します。たとえば、合成したCGに近付くことができるほか、カメラの向きに合わせて位置や角度も変わります。
この複雑な映像処理を行うために、Tangoは通常のカメラのほかに「深度カメラ」と「モーショントラッキングカメラ」を利用します。深度カメラは赤外線の反射から距離を読み取るカメラで、モーショントラッキングカメラは例えば映像の中の赤いボールを認識し、カメラが動いてもそのボールを追い続けるなど映像に対してのモノや空間の位置関係をしっかりと把握する役割を果たします。
このTangoの機能を使ったアプリでもっともシンプルなものが「Measure」です。手の届かないところや、メジャーで測れないような長さのものも計測できるスグレモノ。カメラを向けて、測りたいところをタッチするだけで簡単に長さを調べることができます。
もうひとつARらしいアプリが「Lowe’s Vision」です。Measure同様に、寸法を測ることもできるこのアプリは、部屋に家電製品や家具を配置してシミュレーションを行うこともできます。
例えば「新しい冷蔵庫をこのスペースに置けるだろうか?」などといったことも、壁を認識しているTangoなら簡単にシミュレーションできます。
また、接地した家具に実際に、カメラを持って近寄ったり、横から上から見たりなど、部屋に置いた場合どのように見えるかをチェックできます。Tangoの機能を発展させたアプリが「Matterport Scenes」です。このアプリは、空間認識を可能とするTangoの機能を利用しTangoが捉えた空間に、カメラが捉えた映像を貼り付け、3Dモデリングデータを作成できるというものです。
カメラで動画を撮影する感覚で、被写体をグルリと一周分撮影するだけで3Dモデリングデータが作れます。作成したデータは様々な角度で見ることができるほか、あとから大きさを測ることができます。
このようにTangoは、現実世界に生活に役立つ情報やCG映像を重ねることで、新しいスマートフォンの使い方やビジネスを生み出そうというものなのです。
最先端のすごい技術ですが、まだまだ問題もあります。深度カメラは赤外線の反射で距離を得ますが、光源や被写体の色、透明なガラスなどでは、うまく距離を測れない場合があります。また、一瞬で全てを把握するのではなく、空間を分割しながら少しずつ認識していくため、瞬時に正確な空間認識ができるというわけではないようです。
まだまだ数少ないTango対応スマートフォン。ZenFone ARのこの機能が今後どう活かされていくのか楽しみです。だれでも手軽に3Dモデリングデータを作成できるので、気になるモノは3Dで残しておくなどの使いかたも面白いのでは、と感じました。
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